13 婚約は急に決まったようです
1日のアクセス数が447PVとなりました。多くの方々がアクセスされて、とても嬉しいです。
婚約者は未だ2歳くらいです。お断りしておきますが、決して幼女趣味などありません。
次の日の朝食後、父上の執務室に呼ばれた。どうやら昨日のトラブルの顛末と婚約の話らしい。ブロン君とのトラブルについては、子供のケンカと言うことでお咎めなしになったんだけど、ブロン君を投げ飛ばしたことについて詳しく聞かれた。投げ飛ばしたわけではなく、相手を制圧しただけなんだけど、スザンヌさん達から見たら一瞬だったので投げ飛ばしたように見えたのかな。
口で説明するのも面倒だったので、実際に父上に私の胸倉を掴んでもらって実演してみせた。あ、床には倒しませんでしたよ。右肘を決めたところで、動作を止めたので、きっと『いてっ!』と感じた程度かな。
それから問題の婚約の話になった。ベス嬢は、予想通り、亡くなった義母上マリアンヌ様の御実家メルボルン公爵家の長女で、他にご兄弟、姉妹はいらっしゃらないとの事だった。ベス嬢の母君は、病弱で、医師から『もう子供は作れない。』と言われているそうだ。そんな噂を耳にした他の貴族から、ベス嬢の婿殿へと次男、3男の推薦が凄まじく、身上書と絵姿が大量に送りつけられし、会合等があれば自薦、他薦の申し込みで父君と祖父君がウンザリしているそうだ。そんな中、侯爵家の3男である私に婿養子の白羽の矢が立ったそうだ。実は、私にも結構、いろんな方から婿養子の話が舞い込んで来ているそうだが、本人のことは本人が決めるからとずっと断って来たそうだ。それが、今回、婚約を決めるにあたって相手の令嬢と一度も会った事がないという訳にもいかず、今回の新年祝賀会のチャンスに会うことになったらしいのだ。
今年の春、2月14日が過ぎて、私が5歳になってから、婚約お披露目会を催すらしいのだが、その前に、一度、王都にある公爵邸にご挨拶に行かなければならないらしいのだ。それって逃げられないですよね。
部屋から出ると、次は母上から呼ばれているとスザンヌさんから言われたが、スザンヌさん、お顔がだらしなく緩んでいますよ。
母上からは、異性との清い交際についてご指導を賜ったが、まだ4歳の幼児に何を言っているんですか、この人は。本当に、少し、いやかなり残念な母上だった。あと、スザンヌさん、今日は何か目付きがウザッといのですが。まあ、昨日のお姫様を助ける王子様を見たなら、こんな顔も仕方がないですよね。
今日は、無我の境地になるために屋敷の内周を20周してしまった。日本にいたころは、絶対に20キロなんか走れなかったし、3歳児、まもなく4歳児の走る距離じゃあないよね。しかも1時間半くらいで走り切るのだから。おそらく、この世界に転生したときに転生特典とか何とかで大量のマシマシがあったのだろう。それから、1200グラムの木刀で500本素振り、それから模擬人形への打ち込みと続き、最後にルッツさんと30分の打ち込み稽古をして午前の鍛錬は終了した。ルッツさん、最初から最後までニヤニヤしている。絶対に昨日の話か婚約の話だな。もう、稽古が終わったらダッシュで帰りたかったが、襟首をつかまれて動けなくなってしまった。
「フレデリック様、逃げないでくださいよ。それで、昨日の大活躍とご婚約の話、きちんと話してくださいね。」
何でしょうか。私は貝になりたい。結局、スザンヌさんまで交えて昨日のパーティから婚約の話まで、騎士さん達みんなにばれてしまったんですけど、どうしていつもはこんなにいないのに、今日は30人以上も鍛錬場にいるんですか。皆さん、仕事はどうしたのですか?
◆
新年祝賀会に向けて、招待者の名前等を覚えるのに文字を覚えたので、やっと蔵書室の本が読めるようになった。背表紙等から、地理、歴史、旅行記の類が多く、魔法に関する入門書みたいなものは1冊しかなかった。題名が『サルでもわかる』シリーズでなかったので良かったのだが、
「魔術に関する考察:魔術と自然現象との差異に関する研究成果」
うん、これって絶対に違う気がするんだけど。もう、革張り表紙の厚さが10センチはありそうな重厚な本で、魔法に興味があっても読みたくなくなる本だ。パラパラとめくって見た内容も、入門書というよりも魔法に関する疑問を整理して、魔法と言われているものの中でも魔法でないものを分析している本だった。こんな本を買って読む人がいるのかと思ったが、どうやら内容などどうでもよく、見た目と厚さで蔵書する貴族が多いらしいのだ。他に魔法に関する本がなかったので、仕方がなくこの本を読むことにした。
この本を自室に持ち込み、机の上で1ページ目を開いてみると、1行だけ文章が書かれている。
『魔術の素養のない者が読んでも役に立たないので、すぐに読むのをやめることを勧める。』
何、これ。最初から読むなと書かれている本なんか、どういう精神構造で書いたのだろうか。まあ、私には、たぶん『魔術の素養』というものがあるだろうから、かまわずに次のページを開いてみる。細かな字がびっしりと書き込まれているのだが、あれ、じっと見ていると書かれている字がウネウネと動き出して、ほかの字に変わっていく。あ、これって魔法が書かれた本ではなく、魔法の本だ。最初の行には、
『この文章を読めるあなたは、魔術の素養があります。この本は、魔術を使用するための基礎的な知識と応用、それと魔法と魔術の違いについて、図解入りで説明しますが、魔法陣のページでは、絶対に呪文を詠唱しないでください。場合によってはこの本が消失してしまう可能性があります。』
なんか、怖いことが書かれているが、この本はビンゴだったみたいだ。早速読み始めてみる。うーん、難しい。言葉が難解で、この世界の知識がない私ではイメージできない事象が結構あるようだ。それでもわかる範囲で読み解いていく。ちなみに、わずかながらも魔法が仕えるスザンヌさんに、この本の内容を聞いてみると、私が読んでいる内容とは全く違う内容を答えてくれた。どうやら『ライト』のような簡単な魔法が使えても、魔術の素養があるとは認められないようだ。
最初の概論を読んでいくと、この世界の在り方について説明していた。この世界のすべての事象はエネルギーによって成立している。そのエネルギーは熱であり、熱は光であると説明している。なんか大学の物理概論の授業で聞いたアインシュタインの相対性理論を思い出す。そして、魔法は、そのエネルギーを体内で生成するか、空気中のマナという物質(質量がないので、光みたいなものらしい)から作り出される物理現象なのだそうだ。このエネルギーを魔力として活用しているらしいのだが、だれでもが物理現象に変換できるものではなく、鳥が空を飛ぶように、魚が水中を泳ぐように適性がなければエネルギーを垂れ流すだけのものらしい。
『魔術』は、魔力を一定の方程式に従って変換したり、結合したりと複雑な回路を通すことによって、人間本来の力では実現不可能な事象をなす業で、これができる者は卓越した知識・能力と素養が必要らしいのだ。その方程式を図形化したものが魔法陣で、最も簡単な炎を生ずる魔法陣も、120行の方程式を図形化していると記載されている。
何だろう、これって何かに似ているよな。方程式を順次実行していくと、ある結果が得られる?それってコンピュータのプログラムみたいなものかな。パラパラとめくっていくと、その方程式が書かれていた。
INCLUDE<hedder.h>
10 A=NAME
20 B=STATE
30 INPUT A
・
・
・
ああ、これは私には無理かもしれない。延々と120行も書かれていることを覚えるなど無理です。でも、内容の解説を読んでみると、大気中のエネルギーを体内に取り込んで熱に変換し、指定した場所で炎として具象化することが、ファイアの魔術らしいのだ。魔法なら、呪文詠唱でそれなりの成果が出せるが、複雑な魔法や大規模な魔法になると、魔法陣による魔術でなければ実現できないと書かれていた。そう思って、魔法陣をじっと見ていると、何が書かれているか分かってきた。
え?嘘?なんで分かるの。
初めて見る魔法陣に書かれている内容が、頭の中で絵文字の様に意味のあるものになるのだ。あ、これが魔術の素養か。魔法陣を読み解いていくと、それほど難しいことが書かれているわけではなく、簡単に覚えられそうだ。うん、外に行って試してみよう。中庭に出て、さっき覚えた魔法陣を頭の中でイメージしてみる。発動のキーワードは『ファイア』だ。よし、周りには誰もいないのを確認した。
手を前にかざして、『ファイア』と小さく呟いた。手の平の前に、赤い魔法陣が現れ、その中心から大きな炎が前方に打ち出された。あ、これはまずい。すぐに手を閉じて、魔法陣を消しゴムで消すイメージで一部を消す。あっという間に魔法陣が消滅し、同時に炎も消滅した。なるほど、魔法陣は一部でも欠けると、その機能を失ってしまうのか。でも、どうして消しゴムで消せたのだろうか。少し、考えてみたが、私がものを消すというイメージが消しゴムに象徴されていたのだろう。そうか、魔術はイメージなのか。
魔法は、我々が歩いたり走ったり、物を投げたりするように魔力を操作して一定の効果を発揮させるものらしい。私が、魔力を使って物を動かすのも、手に持った物を動かすことと同じ原理らしい。まあ、魔力を見ることができる私だから細かな動きまでできるのだが。
それに対し、魔術は、魔力をエネルギーとして複雑な現象を起こすための術式であり、これは知識と経験が必要らしい。まあ、まだ3歳児の私だ。勉強する時間はたっぷりあるはずだ。最終的には魔法も魔術も混在して使うようになるらしいのだ。走りながら槍を投げるのに、別々でなければできないなんてことはなく、同時に自然にできるはずだ。走るのが魔法で槍を投げるのが魔術だが、相互に補完しあい、総合的に求める結果に結びつけばよいのだろう。
この回は、大魔導士への道、第一歩を踏み出した編です。あれ、最強剣士への道はどうしたんだろう(汗)
この作品がお気に召したら、いいね登録をお願いします。
またブックマーク登録をしていただけると嬉しいです。




