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貧相な胸

 

 そういえばヤミたちは特訓してるはずだけど、どこにいんだ?


 うーん、あんま人目にはつきたくないだろうし……となると。俺とロン毛が試合したところとかかな。


 そう思って行ってみると、いた。


「やああ!」

「ヤミ様、それは無駄撃ちですよ!」


 ヤミが鎖で攻撃し、それをグレープさんが避けた。鎖が伸びきっている間にグレープさんはヤミに詰め寄ると、首元に手を触れた。


「はい、おしまいです」

「ふぁあ……また負けちゃいました」

「よっ」

「タイガー様っ!」

「大河様」


 挨拶すると、二人とも気づいてこっちに歩いてきた。


「どうしたんですか。レイン様と武器作りに行ったのでは?」

「あーっ、わかりましたよ。さてはレインさんじゃ物足りなくて私に会いにきたんですねーっ?」

「違うわ、お金を取りに来たんだ。武器を作るのに300万ギル必要でな、ヤミ今あるか?」

「ありますけど、高いですね〜。これ、私が稼いでなかったら払えてないですよ、私が稼いでなかったら」


 何か含みをもたせて俺の方に頭を突き出してくるヤミ。


「わかってるよ、お前のおかげだ。ありがとな、よしよし」

「えへへ」


 ヤミはニンマリと笑って嬉しそうだ。こんなんで良いのか?


「じゃ、俺は戻るから特訓頑張れよー」

「はーい」


 そう言って俺はその場を後にした。


「ほら、よそ見をしないっ!」

「な、なんかグレープさん厳しくなってませんかーっ?」

「なってませんっ!」


 去り際に後ろを振り返って特訓をみるとなんだか激しい特訓をしていた。

 てかあれグレープさんの一方的な攻撃じゃないか? ヤミ……がんばっ!




「遅いわよ、大河!」

「これでも走ったんだけどな」

「あんたが来るまでにこのセクハラじじいにどんだけ私が苦労したと思ってんの!」

「うへへへ。ワシはもーっとレインちゃんと遊びたかったがのう」


 俺がいなくてもセクハラするだろこのじーさんは。


「ほら、持ってきたぞ300万」

「うーむ、どれどれ。ちょっと数えるから待ってろ」


 ボンじぃが数えている間にレインに話しかける。


「なぁ、今更だけどこれこんな大金払って買う必要あったのか? 適当に街の武器屋で買った方が良かったんじゃねえの?」

「……うるさい」

「おまっ、お前なぁ! 勝手に連れ回しといてその態度はないだろおい!」


 レインもどうやらここで見繕ったことを失敗だと思っているようだ。


「仕方ないでしょ! 私の時はタダだったんだから!」

「それはお前がチチ触らせたからだろーが!」

「うっさいわね! 好きで触らせたんじゃないわよ!」

「だいたいお前のその貧相な胸に価値なんかねーだろ!」

「な、何よ! 貧相なんかじゃないわよ! ほらっ!」

「えっ?」


 ガッとレインが俺の手首を掴むとそのまま自分の胸へと持っていった。

 俺の手のひらには慎ましくも柔らかき感触が確かに伝わる。



 ――ああ、世の中はこんなに優しさに溢れているのになぜ戦争は絶えないんだろうか。



 そんな事を思いつつ、ふとレインを見ると、顔を真っ赤にしていた。

 どうやら自分のした事を理解したらしい。

 彼女は俺の手首を掴んだまま、そのまま下に腕を振り下ろし、俺を床に叩きつけた。


「な、何すんのよバカァァァア!」


 お前が勝手にやったんだろ、っと言えばいいだけの事なんだが、何故かそんな事を言う気にもなれず、仰向けになった俺はレインを見上げると、拳を握りしめ親指を立て、


「……ありがとう」


 そう言って不敵に笑った。

 もちろんこの後ひたすらボコられた。



「よし、ちゃんと300万ギルあったわい。じゃもう帰っていいぞい」

「言われなくても帰るわよ! ほら行くわよ大河! 何グズグズしてんの!」

「お前がボコボコに殴るからだろうが」


 そんなこんなで俺は武器を手に入れヤミたちの元へと戻った。

 ヤミたちもその時点で特訓をやめ、俺たちは宿屋へと向かうと明日の作戦会議を開くことにした。


「明日の試合ってのは全部殴り合いの形式なのか?」

「いえ違うわ。年によって違うみたいだけど知識を問われるクイズもあるし、テーブルゲームの時もあったみたいだわ」


 クイズなんて出されたら俺は全然答えられねーぞ。思ったよりもやべえな。


「色々な形式があるからそれらにあった参加者を王族が集えるかってのも王様は見てるみたいよ」

「なるほどねぇ、じゃああんまり対策立てられねえな」

「ま、そこら辺は臨機応変にね。それより私たちが注意すべきなのは相手の王族たちね」


 そっか、第一王女とかも出て来るんだもんな。


「特に注意するべきは第一王女のエリザベス様と王様の側近の息子、キッドね。特にキッドの方は天上貴族が繋がりがあるって噂よ」

「ん? 王族なら天上貴族と繋がりがあるのは当たり前じゃねーのか?」

「いえ、天上貴族と話せるのは国では王様とその実の親と子のみ! 王族といえど普通は関係をもてないわ」


 へぇ天上貴族ってのは思ったよりも地位が高いみたいだな。


「て事はそのキッドって奴はなんか裏がありそうだな」

「ええ、気をつけた方がいいわ」

「エリザベス様ってのはどういう人なんだ?」

「エリザベス様は……そうね、一言で言うなら『不思議』。これに尽きるわ」

「不思議?」

「こればかりは見てみないとわからないと思うけど、何を考えているのかわからないのよ。だからある意味注意人物」

「ふぅん。とりあえず明日はその二人に注意してみるか」

「ええ、今日はもう寝ましょ。明日に支障が出ても仕方ないし」


 レインのその言葉で俺たちは部屋に戻って寝ることにした。

 あんだけ嫌々な感じだった割にはちゃんと考えてるんだなぁ。なんだかんだリル王女の事が心配なんだろうな。

 レインの思わぬ一面を考えながら俺は寝た。

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