契約
アイザック=オイラー? なんかどっかで聞いたことあるような……。理科の教科書かなんで見たような。けど惜しいような。
「オイラーですって⁉︎ よりによってあの変態科学者のところだなんて……」
「そのオイラーさんはどんな人なんですかぁ?」
ナイスな質問だヤミ。まぁ反応を見る限り、あまり常識人ではなさそうだがな。
「オイラー家は代々科学者の家系よ。歴史に残るような発見もいくつもしてるわ。今の当主アイザックは研究の為なら何でもする変人で知られてて、スキルの研究をしてるらしいわ」
「へぇー。頭の良い人なんですねえ」
それにしても学者の天上貴族か。ちゃんと働いてる奴もいるんだな。俺はてっきりみんな踏ん反り返ってるだけかと思ってたが。
「で、そのオイラーさんはどこにいるんだ?」
「街のはずれにある第一研究所でしょうね。けどあそこは関係者以外入れないし、どうしようかな」
「わたくしが力を貸してあげましょうか?」
声の持ち主はもちろん王女様だ。
腕を組み、これでもかというほど顎を上げて俺たちを見下ろそうとしている。まぁ身長的な理由で全然出来てないんだが。
「わたくしなら可能ですわよ。天上貴族を呼び出す事も。やってあげましょうか?」
「……あんたがそんなに協力的だなんて。何が目的よ」
「あら、人聞きが悪いですわね。別に大した目的などありませんわ。ただ、わたくしの言う事を一つ何でも聞いていただくという条件を課しますが」
何でも、か。何でもってのはどこまで良いんだろうな。例えば奴隷になれって言われたらそのあとは結局ずっと従わなきゃいけないし。
「ふん、良いわよ。ただし奴隷になるとかそういうその後も影響が出る類は受け付けないわよ」
「良いでしょう。ではライト、契約書を」
「はっ」
ロン毛は素早く走ってどこかへ行くと、一枚の紙を持って帰ってきた。契約書らしい。
「ではここにサインしてくださる?」
「慎重ね。いいわ、はい」
それにしてもレインがあんな約束を飲むとは。それくらいなりふり構わずってことか。
「では契約成立ね。これでわたくしは大きく主導権を握りましたわ。命令は後でじっくり考えるとします」
「じゃ、オイラーの事は頼んだわよ。いつ呼び出してくれるの?」
「明日にでも」
「そう。わかったわ。そういえばリル、あんた砂漠の街にいたらしいじゃない。何してたのよ」
この情報を与えたのは俺だ。そもそもレインはシェパードが砂漠の街にいるのは聞いていたものの、リル王女と一緒だとは思っていなかったらしい。
「……最近この国で異常が起きてるのは知ってまして?」
「魔族が時々不法入国してくるって話?」
「その通りですわ。その件で王宮に手紙が届いたんですの」
「手紙?」
つーかその前に魔族って何だよ。そこは誰も突っ込まねえの? 当たり前の存在って事なんだろうけど……魔族って魔王的なのがいるってことか?
「ええ、外交的な話がしたいと、王族を呼び出す内容でしたの。わたくし行こうと思いまして。もちろんお父様は行く事に反対してましたけど、ライトを護衛につけてなんとか説得しましたわ」
「なんでそこまでして?」
「その魔族、あの人魚族ですの。人魚族がもし味方になれば、この国はもっと強くなりますわ。そしたらお父様からわたくしへの信頼も厚くなるでしょう?」
「王宮の後継者争いってやつね……」
今人魚族とか言った? 言ったよな。人魚族って言うとあの下半身だけ魚の、マーメイドとも言われてるあれ?
「ま、そういうことですの。ですからわたくしわざわざ砂漠の街に行ったのですわ」
「まぁ理由はわかったわ。で? その人魚族とは良い関係になれそうなの?」
「あ、当たり前ですわ」
あれ、なんか今王女様微妙な表情してなかった?
だいたい俺が会った時交渉はもう終わってたのか?
「……ふーん。ま、いいわ。じゃあ明日またここに来ればいいの?」
「そうですわね。ここに昼に来てくださる?」
「わかったわ。じゃ、明日ね」
これ、俺ここに来た必要性あった?
そう思いつつ、俺は城を後にしたのだった。




