募る謎
とりあえず俺はその日レインの家に泊まり、休息をとった。
そして次の日、キャリーバッグをレインの家に預け、俺たちは王都へ向けて出発することになった。ちなみに今回はレインの他にグレープさんも付いてきた。
王都エルメリーは砂漠の街から北へ二時間ほど馬車で行ったところにある。
「ところでレイン。王都に行くのは良いとしてどうやって天上貴族と会うつもりだ?」
「そんなの勿論考えてあるわよ! 私に任せておきなさい」
「ふーん。まぁなら良いけど」
だいたいこうやって任せておいてちゃんと考えてあった試しがないんだが。
「そういえばさ、グレープさんってただの召使いさんなのか?」
「何? あんたグレープの事狙ってんの? 無理無理やめておきなさい。ああ見えてグレープは筋金入りの貴族だからね。あんたなんか相手にしないわよ」
ああ見えてって、よっぽどお前よりは貴族っぽいよ、って言いたいが言ったら殴られそうだからやめておこう。
ちなみにグレープさんは今馬を操って運転しているので会話は聞こえていないはずだ。
「勝手に決めつけるな。でも貴族ならなんでお前の召使いなんかやってんだよ」
「私たちベルウェザー家とグレープのディープパープル家は昔から親交があったのよ。元を辿れば昔から主従関係で結ばれてたらしくて、今でもその関係は続いてるってことね」
「じゃあ生まれた瞬間からお前の召使いになる事が決まってたって事か? 地獄じゃねえか」
俺だったら事実を知った瞬間に家出するね。こんな破天荒な娘に従うなんてありえん。
「何よ失礼な奴ね。別に私とグレープはそんなきっちりとした主従関係じゃないわよ。先代なんてほとんど友達みたいだったらしいし、どちらかというとグレープがわざわざ従ってくれてるみたいな感じ」
「余計意味わからん。なんであんな良い人がお前なんかにわざわざ従うんだよ」
「あんたそろそろ斬るわよ」
さてレインをこれ以上いじると怒りそうだしやめておくか。
ヤミやレインと他愛ない会話をしつつ馬車に揺られる事二時間。俺たちは王都に到着した。
王都というだけあって流石に人口が多い。並んでいる店の数も段違いに多いし何より目を引くのは街の中央にそびえ立つ城だろう。
あそこにこの国の王様がいるらしい。
「ふえぇ。おっきいですねぇ」
「ああ。なんでも揃ってそうな街だな」
「まぁ基本的にこの街に無いものはこの国には無いわね」
流石王都ってところか。まぁけど俺からしたらどれもこれも時代遅れの代物だけどな。
「で? 俺たちはどこに向かうんだ?」
「まずはシェパードに会う必要があるわ。特警本部に行きましょう」
「うげ、またあのロン毛に会うのかよ。つーかあいつ今お姫様を護衛中じゃないのか?」
「ええ、けど手紙で今日は王都に戻っていると書かれていたからいるはずよ」
てな訳で特警本部とかいう物騒なところへ行ってみたんだが、
「シェパードはいないー⁉︎ どういう事よ、あいつ私にいるって言った癖になんでいないのよ!」
受付の若い青年の胸倉を掴みブンブンと振り回すレイン。確実にめんどくさい客だ。
「いないもんはいないんだから仕方ないだろ。離してやれよ。それで、今シェパードさんはどこにいるんです?」
「ちっ、仕方ないわね。ほら、どこよ!」
「え、ええ。シェパードは今、外に出ております。それにベルウェザー様がお見えになった際はこの手紙を渡すようにとも」
「なによそんなのがあるならさっさと渡しなさいよね」
レインは受付から手紙を強奪すると中身を開いた。そこには約束を破った事への謝罪と自分が今城内部にいて、これが城に入るための紹介状になる事も記されていた。
「ま、要は城に行けば良いわけね。行くわよ」
「ヤミ、あんな大人になっちゃダメだぞ」
「私はもう大人ですっ。それにどう頑張ってもああはなれませんよぅ」
ナチュラルにレインをディスるヤミだが俺は擁護する気にもなれなかった。
俺たちはそのまま城に向かい、検閲している兵に手紙を見せて中へ入らせてもらった。
「久々に来たわねここも。ねぇ? グレープ」
「ええ。最後に来たのは五年前。レイン様が一七歳の頃ですね」
「あの時は確か、貴族会議で呼ばれたんだっけ。懐かしいわ。それにあの時は――」
「わたくしとよく喧嘩していましたねぇ、レイン!」
「うげっ……リル!」
「うげとは何ですの! うげとは!」
レインが思わず拒否反応を起こしてしまった相手の顔をよく見ると、俺も知った顔だった。
金髪でツインテール。そして髪は巻かれている。少しつり上がっている高圧的な目と高貴な雰囲気漂うドレスを着た少女。
この国の第二王女とか呼ばれていた女だ。
「何しに来たんですの? そんな汚らしい連中を連れて」
どうやら王女様は俺の事は覚えていないようだ。まぁそれはいいんだが、そんなに俺汚いか? 服もちゃんと買ったんだが。
「僕がお呼びしたのですお嬢様。レイン様はエニグマ事件の手がかりを聞きにここまで」
「ふん、なるほど。わかりましたわ。貴女、まだあの兄を助けようだなんて思っているのね」
「別にそんなの私の勝手でしょ。あんたにとやかく言われる筋合い無いわ」
なんかピリピリしてるなこいつら。俺の場違い感が凄いから早く話をつけて欲しいんだが。
「それでシェパード。誰だったの? 兄貴を飼ってる天上貴族は」
その言葉に対してロン毛は冷や汗を一滴流し、間を空けて答えた。
「……天才学習、アイザック=オイラー様です」




