裏闘技会
「で? こんだけ稼いだんだがどうすればいいんだ」
俺はクリスにコインを見せつけるようにしてそう言うと、彼女は鼻水をすすりながらこっちを見つめて、申し訳なさそうに喋り始めた。
「そ、そうね。それだけ持っていればたぶんそのうち声をかけられると思うわよ」
「声? なんだそりゃ」
「――もしかすると、VIPルームへの参加をご希望のお客様でしょうか?」
カツカツと靴の音を響かせながら黒服を纏ったカジノの関係者らしき男がやってきた。
なるほど……そういうことね。
「そうだ。参加したいんだができるか?」
「ええ、お客様は大変勝負運がお強いようですので……どうぞこちらへ。お連れ様も」
男の言われた通り進むとエレベーターらしきものに入った。全員が中に入ると、床に描かれた模様が光り出し、下へ動き始める。
どういう原理で動いてんだこれ?
地下一階につき扉が開くと、そこにはたった一つのゲームもなく、あるのは床がクレーターのようにえぐれてできた闘技場らしきものだけだった。
なんで闘技場ってわかるのかといえば、そりゃあ現在進行形でそこで二人の男が殴り合いの喧嘩をしているからだ。
「な、なんですかぁこれ」
ヤミはすっかり怯えてしまって俺の手を握っている。
「ここがこのカジノ裏の顔。裏闘技会です。ここには色々なお偉い様方が刺激を求めてたくさんのお金を賭けていただけるのですよ」
「へぇ、単純な勝ち負けのオッズって事か。それでレートはどんなもんなんだ?」
「ここではコインではなく現金で扱います。お客様のコインは目算でおよそ五千万ギルほどでしょう。ここは一口一千万ギルからですので慎重にお使いください」
ご、五千万だと……このまま持って帰りたいんだが。だめなのかな。まぁ一回も賭けずに出て行くのも非常識か。
「わかった。ありがとう」
「いえ、御用があれば何なりと」
そう言うと黒服は去っていった。
なんかどことなく胡散臭い奴だったな。
そんな事を思っていたらクリスが近づいてきて耳打ちしてきた。
「あたしたちは潜入の方の準備をするから、あなたは出来るだけ目立ってくださるかしら。そっちに注目がいっている間に宝物庫に行きたいのよ」
「なんか土壇場でやる事増えてないか? おい目をそらすな。それに目立つっていってもな……」
観衆の叫び声や罵声が聞こえる。どうやら試合が終わったようだ。勝った方は手を挙げているが満身創痍といったところか。負けた方は血だらけに地に伏していた。
「ま、とにかく頼んだわよ」
「あ、おい」
そう言ってクリスたちは立ち見の観客の中に紛れていった。
ちっ、あの女。仕事おわったら襲ってやろうかな。
「あっタイガー様。次の試合が始まるようですよ」
「えーと何々? 剣士ナバレと格闘家ゴンゾウの試合か。いや普通に剣士勝つだろ」
しかしオッズの倍率を見ると格闘家が1.1、剣士は10.4。どうやらあの格闘家、相当強いらしい。
さて、俺も賭けるか。けどどうやって目立とうかな。賭け金を五千万とかにすればみんな驚くかな。
「じゃあワシは七千万ギルを剣士へ」
「ほっほっほ。攻めにいきますなぁ。私は1億ギルをゴンゾウにしますよ」
目の前の紳士な爺さんたちがそんな会話をしている。
だめだこりゃ。賭け金じゃどうやっても目立てないな。
俺は五百万を格闘家へ賭け、そしてヤミと一緒に賭けた人だけが座れる椅子へと座った。
ちなみにヤミは剣士に百万ギル。理由を聞くと、
「だってだって当たったら十倍なんですよねっ。ならこっちの方が良いじゃないですかっ」
との事だった。まぁそれはそうなんだが。ちなみに賭け方は色々ある。
相手が死ぬか死なないか、や骨がどこか折れるか折れないか、折れた場合はそれはどこか、などのオプションをつける事で倍率を引き上げる事が出来るようだ。
「それでは試合を開始したいと思います! まずは――」
実況者の甲高い声が聞こえてきた。試合が始まるらしい。
各選手の軽い紹介を終えると、ゴングとともに試合が始まった――。
―――
――
―
結果から言ってしまえば格闘家の圧勝だった。
初めは剣士が剣の間合いを保ちつつ攻撃し、優位に立っているかと思われた。
がしかし、格闘家の二メートルは越えようかというその巨躯から繰り出される拳は、剣士の剣をへし折った。
そこからは一方的な闘いだった。時間が来るまで試合は終わらないため芋虫のように転がる剣士をただただ格闘家が嬲るだけ。
どうやらあの格闘家、ここの主力級の選手らしい。
途中からヤミは気分が悪くなって俺の胸に顔をうずめていた。確かにこれは気分が悪い。
しかし周りの資産家たちは何が面白いのかケラケラと笑っていた。
試合が終わり、窓口で配当金を配る中、次の試合のアナウンスが流れる。どうやら次もあの格闘家は出るらしい。
――さてさて……目立つ方法思いついちゃったよ。




