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乙女の園の格闘王  作者: 海空大地
新学期の動乱
9/10

9話 再開と後悔と

夜、かぐやが光達の部屋を訪れていた。

仁王立ちするかぐやの前に紗耶香と妙子が正座していた。

翔子は既に泉家に帰っている。

『まったく、貴女達は……、とっくに入学の説明等終わっていると思ってましたわ。

額に指を当てて呆れながら、かぐやが告げる。

『う、む。面目ない……。』

『ゴメンって。』

正座したまま、謝る紗耶香と妙子。

かぐやは寮監として、寮の規則にはかなり厳しい。

夜になって光の部屋を訪れたかぐやは、今ごろになって明日の入学式の説明をしている紗耶香達を目撃したのだ。

『光、申し訳有りません。私の不注意ですわ。確かめておくべきでした。』

かぐやが光に深々と頭を下げる。

『ううん、気にしないで。説明は無事に終わったし問題ないわ。ね、楓。』

『はい~~~。大丈夫です~~~。』

光も楓も特に気にしていない。

かぐやも毒気を抜かれる。

『……あの、さっきから何かな?』

サンタ君が声を上げる。

見れば、部屋の隅で事を見守っていたサンタ君を望がじっと見つめていた。

『ウフフッ、モフモフ❤』

ニタ~と笑う望。

『ひっ!』

サンタ君が恐怖で固まる。

『望、何をしてますの?』

かぐやが声を掛ける。

『ハッ、いえ、何でも有りません。』

いつもの調子に戻る望。

モフモフ?サンタ君の事かな?気に入ったの?

『そうそう、いい忘れてましたわ。私達も武術部に入部しますけど宜しいですわね?』

光が不思議がっていると、かぐやが紗耶香達に告げていた。

『え~~っ、かぐやが?』

妙子があからさまに嫌がる。

『私は構わないが、部長は妙だからな。』

紗耶香が告げた。

『妙子さん、何が問題ですの?』

『だってさ~、かぐやはあたしの言う事聞かないじゃん。それとも、ちゃんと部長として敬ってくれるのかな~。』

意地悪そうな笑顔を見せる妙子。

『くっ、出来るだけ、善処しますわ。』

悔しそうに答えるかぐや。

『本当に~。最後に入部してくるんだから、一番下っぱだよ~。』

『くぅ、しょ、承知しましたわ。』

ついさっきまで怒られていたせいか、妙子の意地が悪い。

なんだか、かぐやが可哀想になってきた。

『妙さん、入部希望者を断ったって聞いたら、顧問の翔子は怒ると思いますよ?勿論、私も。』

ニコッと笑って妙子に告げる光。

ビクッとして妙子が慌てる。

『あ、入部でしょ。大歓迎だよ。いや~、これでうちも正式に部に昇格出来るね。』

先程迄とはガラリと変わり、歓迎しだす。

笑顔の割りに表情が堅いのはきっと気のせいに違いない。

ともかく、武術部はこれまで部員は二名だけだった。

正式な部ではなく、同好会扱いだった。

それでも道場を使えたのは、ただ単に空いていたからである。

『光、ありがとう。出来れば泉流も教えて頂きたいのですけど……。』

感謝しつつ、光に頼み込むかぐや。

『良いわよ。』

あっさりと了承する光。

実は光一郎の頃から教えを乞いに来たものを断った事はない。

唯一の例外が、当時まだ5歳だった紗耶香である。

『光……。』

光に感謝して手を握るかぐや。

横の方から異様な気を感じる。

紗耶香の目が少し怖い……。

『所でさ、皆にこれ渡しとくね。』

サンタ君が首の後ろに有る取り出し口に手を入れて、何やら取り出している。

皆の死線がサンタ君をに集まる。

紗耶香も普通に戻った。

紅葉君、お手柄!

『あれっ?これって前に貰った奴じゃない?』

妙子が取り出されたものを見て告げる。

以前の妖魔との戦いの時に貰った通信器だ。

更に小型化した様に見えた。

『あれの改良版だよ。前のはサンタ君で中継してたから途中で使えなくなったでしょ?今度はお互いに話せるし、同時に皆で話せるよ。』

胸を張るサンタ君。

『いつの間に作ったの?』

光が感心して問い掛ける。

『今日のお昼にやっと出来たんだ。サンタ君に取りに来て貰ったんだよ。』

『?!サンタ君に?』

妙子が驚いて声に出す。

『うん、サンタ君単体なら時速百キロ位で飛べるからね。最初にこのサンタ君がそっちに行った時も飛んで行ったんだよ。』

得意気に語るサンタ君。

本当に凄い。恐るべし、サンタ君。

物凄く高性能なんじゃないかな?

『そう言えば、明日は午前中で終わりですよね?』

『はい、式の後はホームルームが有るだけです。』

光の問いに紗耶香が答える。

正式に部活に成ること出し、今後の事を話し合った方が良いかもしれない。

『それじゃ、明日は午後から部活って事で良いですか?』

『えぇ、宜しくお願いしますわ。』

かぐやはやる気だ。

『え~、初日位ゆっくりしようよ~。』

妙子はやる気がない。

『妙……、お前な……。』

絶句する紗耶香。

『失礼ですが、妙子様は常にゆっくりされているようですが……。』

『酷っ!』

望の発言に妙子がショックを受けている。

『あたしだって、色々やってんのに……。』

あ、いじけた。

実際、武術部の代表は妙子である。

雑務全般をこなし、紗耶香が実家の道場に行っている日は、道場の掃除も一人で行っていた。

本人が言っている通り、色々とやってはいるのだが、一人の時の事、誰も見ていない。

周りの評価はこんな感じだった。

『光様、一つ宜しいでしょうか?』

紗耶香だ。

『何?明日は都合悪かった?』

明日の部活の事かと思い、光が問い掛ける。

『いえ、部活は勿論参加します。その事ではなく、サンタ君なんですが……。』

『え?僕?どうしたの?』

サンタ君が自分の体をキョロキョロと見渡している。

結構、可愛いかも。

あ、望がそんなサンタ君を見てニヤ~、と微笑んでる?

『いえ、サンタ君は今日も道場の方に来てましたし、結構自由に敷地内を出歩いてますが、宜しいのでしょうか?』

言われてみれば、最もだ。

ここは学校の敷地なのだ。

部屋にぬいぐるみが有る位は問題ないが、部室や校庭等に有るのはどうだろう?

ましてや勝手に動いてるし……。

『最悪、没収されるかも?』

妙子である。

いつもながら、復活するのが早い。

落ち込むのに慣れてたりして。

『?!没収……、モフモフが……私の……』

望が何やらぶつぶつと言っている。

突然、下を向いていた顔を上げる。

『そんな事はさせません。サンタ君を執事か護衛のロボットとして、学院側に認めさせましょう。』

意外な提案をしてきた。

『そんな事~~~、出来るんですか~~~?』

楓が質問する。その手はギュッとサンタ君を抱き締めている。

『ロボットの前例は有りませんが、過去に護衛付きの生徒は居た筈です。ましてや私自身、かぐや様の従者ですから。』

どうだ!とばかりに胸を張る望。

『……そうですわね。二度も侵入者を出したばかりですし、意外と良い案かも知れませんわ。』

かぐやも賛同する。

『では、渡先生に口添えを頼んで見ましょう。』

紗耶香も前向きに案を出す。

『理事長には、鬼刀院家からの要望と言う事で話を通してみます。』

平然と望が言っている。

良いのかな?勝手にそんな事して。

まぁ、かぐやが何も言わないから良いのかな?

『ねぇ、かぐや。鬼刀院の名前勝手に使って良いの?』

一応聞いてみる。

『光はサンタ君が居た方が良いのでしょう?』

『えぇ、それはそうだけど。』

『それなら、問題有りませんわ。望、思う存分おやりなさい。』

『かしこまりました。ありとあらゆる方法を使って認めさせます。』

何だか、凄い事になりそう……。

『かぐや、望、ありがとう。宜しくお願いします。』

光がかぐや達に頭を下げる。

『そんな!構いませんわ。親友では有りませんの。』

『かぐや……、それでも、よ。ありがとう。』

ニッコリと笑いかける。

かぐやの顔が一気に赤く染まっていく。

えっと、照れてるんだよね……?

そうして、春休み最後の日は終わりを告げる。



翌日、遂に光達の高校生活が始まる。

光は今日から紗耶香と共に朝練を行っている。

朝五時に起床、柔軟を済ませジョギング、今は寮の前のスペースで紗耶香と軽く打ち込みをしていた。

軽く、済ませる筈だったが……。

紗耶香の竹刀が三段突きが光を襲う。

かわす、かわす、髪を軽くかする。

三撃目を捌きながら懐に飛び込む。

胸を目掛け掌底を放つ。

『くっ!』

紗耶香が自ら後方へと跳ぶ。

僅かに当たっただけだった。

紗耶香の身体能力は確実に上がっている。

息吹を体得した影響で、気の力が全身を活性化させているのだ。

二人の打ち込みは既に十分以上続いていた。

寮の入り口から見える時計に目をやる。

六時半だ。

『紗耶香、そろそろ終わりましょう。』

光が切り出す。

『はい、有り難う御座いました。』

深々と頭を下げる紗耶香。

光は軽く体力づくりで始めた朝練だが、紗耶香の方はしっかりと教えを乞うつもりだったようだ。

まぁ、いっか。

『行きましょう、汗を流したいわ。』

『は、お供します。』

『……えぇ。』

また、背中流すとか言うんだろうな……。

光達は寮の中へと戻って行く。

二人の打ち込みは寮の各部屋から丸見えだった。

かなりの数の生徒達が今の光景を見ていた事に二人は気付いていなかった。



光達の部屋の前に光と紗耶香が立っている。

既に食事を済ませ、制服に着替えていた。

『お待たせ。』

『お待たせしました~~~。』

隣の部屋の妙子と楓が合流する。

『お待たせしましたわ。』

かぐやと望も現れる。

望がキョロキョロと何かを探している。

『?どうしたの?望。』

光が気になり聞いてみた。

『いえ、モ……サンタ君が居ませんが?』

モ?……モフモフ?かな。

『サンタ君は~~~、お留守番ですよ~~~。』

楓が答える。

クワッと目を見開き驚く望。

いや、ぬいぐるみが入学式に出るのは流石に無理でしょ?

『……その必要は有りません。既にサンタ君は、SPロボットとして学院に許可を認められています。』

『?!早っ!』

妙子が驚いている。

『もう、許可が出たの?』

光も半信半疑だ。流石に早すぎる。

『鬼刀院家の力を最大限に使わせて頂きました。』

不適に笑う望。

なんか、アレだよね。眼鏡とか掛けてたらキランって光りそうな表情だよね。

『サンタ君を~~~、呼んできます~~~。』

楓が部屋へ走って戻る。

『望、随分と手際が良いですわね?』

かぐやが望に話し掛けた。

『!……、大した事はしていません。少々取引はしましたが……。』

望が何やら言葉を濁す。

『?!やっぱり!鬼刀院家とどんな取引をしたんですの?』

かぐやが詰め寄る。

『え~、サンタ君は充分な戦力ですから、今後の対妖魔戦で役に立つ、と。』

『そんな事を!』

望の説明にかぐやが驚いている。

『それって、なんか問題有るの?』

妙子が聞く。

『要するに、サンタ君の学院での自由を約束する代わりに、今後の対妖魔戦に協力しろと言う事ですわ。』

かぐやが少し怒った様子で説明する。

『別に構わないよ。』

サンタ君の声がした。

楓と共に此方に歩いて来る。

『良いのですの?』

かぐやがサンタ君に問い掛ける。

『うん、姉さんの周りにあんなのが居るのは放っとけないし、光お姉ちゃんも協力するんだよね?』

こっちを見るサンタ君。

『えぇ、妖魔の件は出来る限りの協力をするつもりよ。』

『?!光、宜しいの?』

『勿論よ、妖魔の存在を知っているのに、野放しには出来ないわ。』

『流石は光様。私もお供します。』

紗耶香が続く。

『はい!はい!あたしもやるよ!』

妙子も続く。

『私も~~~、出来るこ事が有れば~~~、協力します~~~。』

楓も続いた。

『皆、有り難う。』

かぐやが頭を下げる。

『他人事じゃ無いもの、気にしないで。』

そう、中級の妖魔と化した高山は、間違いなく私を狙っていた。

今後、同様の事が無いとは限らないのだ。

『さ、そろそろ行きましょう。』

光達は入学式の行われる講堂へと向かう。



体育館と向かい合う形で講堂は有る。

全校生徒約400人が全員入っても、まだかなりの余裕が有る大きさだ。

時折行われるコンサートや演劇にも使われるらしい。

生徒達は皆思い思いの席に座る。

明確な決まりは無いようだ。

光達は、皆で中央前列に陣取っていた。

楓が新入生の代表挨拶が有るので、前の方が良いだろうとなったのだ。

『それにしても、何だかやたらと見られてませんか?』

光が疑問を口にする。

寮から講堂へと来る間、周りの視線をやたらと感じていた。

敵意は感じなかったものの、原因が分からない。

こちらが見ると、何だかキャーキャー言っていた様だけど……。

『光ちゃん、本気で言ってんの?』

妙子が呆れつついい放つ。

『えぇ、気のせい……では無いですよね?』

今も視線を感じていた。

『光、先日の強盗退治や侵入者撃退の話が広まっているのですわ。』

隣に座るかぐやが耳打ちする。

『え、そうなの?』

『それだけでは有りません。かぐやや渡先生との対戦も噂になっているようです。』

反対側に楓を挟んで座る紗耶香が答える。

『それに、今朝の紗耶との朝練も結構見てたみたいだよ。』

更に隣の妙子が続く。

『……気付かなかった。』

どうやら、随分目立っていた様だ。

『間違いなく、今年の新入生では一番の注目株ですわ。』

何故か胸を張って宣言するかぐやと、うんうんと同意する紗耶香。

『嘘……。』

いや、結構ハデに行動しては居たけども、こんなに注目されるとは思わなかった。

『光ちゃん、有名人だね~、後でサイン貰おうかな~?』

妙子がニヤニヤしながら言ってくる。

懲りない人だな……。

『そうですね、後で墨で顔にサインして上げますよ。』

『酷っ!』

いつもの落ちがついた所で入学式が始まった。



入学式は滞りなく進む。

新入生代表の挨拶で楓が壇上に立った時には、どよめきと声援が沸き起こっていた。

あんな小さな子が主席入学だった事と、可愛らしい外見に対するものだ。

いつもの間延びした感じでゆっくりと、一生懸命に話す楓は光から見ても可愛らしかった。

どうやら上級生の心もガッチリと掴んだ様だ。

まぁ、妙さんみたいに熟睡してる人もいるけど……。

紗耶香は途中で何度も妙子を起こそうとしていたが、全く起きる気配はなかった。

挨拶を終えた楓が帰ってくる。

『お疲れ様。良い挨拶だったわ。』

『そうですか~~~、えへへ~~~、嬉しいです~~~。』

光の言葉に楓が照れている。

可愛い……。

楓の笑顔に癒される。

そうこうするうちに、入学式が終わる。

『さ、講堂の外にクラス分けが貼り出されてますわ。見に行きましょう。』

かぐやの発言を合図に皆でクラス分けを見に行く。

講堂から校舎へと続く廊下に、学年毎に貼り出してあった。

紗耶香達と別れ、一年生のクラス分けを見に行く。

『見えないです~~~。』

楓がピョンピョンと、ジャンプしながら言っている。

『見てくるから待ってて。』

『お願いします~~~。』

楓に見送られ、人混みの中を前に進む。

『っと、見えた。』

前列に近付いた所で表を見る。

『あ、有った。』

あっさり自分の名前を見付ける。

『A組か……。楓は……と。』

続けて楓の名を探す。

『あ、同じクラスだ。良かった。』

A組に楓の名前も見付ける。

人混みから抜け出した所で楓が寄ってきた。

『どうでしたか~~~?』

『二人共A組だったわ。』

楓の表情がパアッと明るくなる。

『同じクラスですね~~~。宜しくお願いします~~~。』

深々とお辞儀してきた。

『うん、こっちこそ宜しくね。』

笑顔で答える光。

紗耶香達がやってくる。

『光、何組ですの?』

かぐやが聞いてくる。

『二人共A組だったわ。』

『?!……A組ですの?……私はC組でしたわ。』

何故だか落ち込むかぐや。

『しかも、妙子さんと同じクラスだなんて……。』

頭を押さえるかぐや。

『なんだよ~、あたしと一緒じゃ嫌なのかよ~。』

妙子がニヤニヤしながら、かぐやの肩に腕を置いて話し掛けた。

『当たり前ですわ。こんなトラブルメーカーと一緒じゃ何が起こるやら……。』

肩に置かれた腕を払いながら答えるかぐや。

うん、気持ちは分かるかも……。

『私だけがB組でした。』

紗耶香が口を開く。

あれ?何だか少し元気が無いよね?

クラス替えで妙さんや、かぐやと別のクラスなのがそんなに嫌なのかな?

『私はA組でした。御二人の事は私にお任せ下さい。』

望がかぐやに話し掛けた。

???どういう事だろ?

光と楓が皆の反応に疑問を浮かべている事に紗耶香が気付く。

『光様、楓。この学院では、クラスの縦割りで色々なイベントを行うのです。』

『え、じゃあ、一年、二年、三年のA組で組むの?』

光が質問した。

『いえ、三年は自由参加が多いので、基本は一年、二年です。』

望が告げる。

『全く、同じクラスなら体育祭も文化祭も光と組めたのに……。気が効きませんわ。』

かぐやが愚痴っている。

『まぁまぁ、文化祭なら一緒に廻る事位は出来るじゃない。』

光に慰められて何とか立ち直るかぐや。

『無論、サンタ君もA組に所属します。』

望がサンタ君に話し掛けた。

『え?僕も?』

それまで人目が有る為に黙っていたサンタ君が驚いている。

『はい、単独行動も認められていますが、基本的には楓様、光様、私の誰かと行動を共にして頂きます。』

『何で望が入ってるのさ?』

妙子が疑問を口にする。

『同じクラスですから。イベント時に必要な処置かと。』

しれっと答える望。

『う~ん……。わかった。自立行動させる時の優先順は姉さん、光お姉ちゃん、望お姉ちゃんにしとくよ。』

暫く悩んだ後、サンタ君が答えた。

『試しにこの後は自立モード試してみるね。』

そう言ってサンタ君が一度ピタッと動きを止める。

数秒後、ブンッと音がすると共にチカチカと目が点滅した。

ピョコッと片手を上げて挨拶する。

『サンタ君~~~?』

楓が首を傾げながら話し掛ける。

サンタ君がコクンと頷いた。

『わぁ~~~。』

楓が喜び、歩き回る。サンタ君も楓の後ろをピョコピョコと付いて回る。

何だか可愛い。

『光様、そろそろ教室へと移動した方が良いのでは無いでしょうか。』

紗耶香が光に話し掛けた。

『そうね。行来ましょうか。』

光の発言で皆が移動を始める。



クラス分けの表が貼り出されていた場所から、講堂と反対に歩けば直ぐに校舎の入り口だ。

入れば直ぐに階段が有り二階以上は上級生のクラスだ。

階段に行かず、廊下を歩けば直ぐに教室が有る。

講堂側からE組~A組と並び途中に他の校舎へと続く渡り廊下、突き当たりに正面玄関が有る。

階段で紗耶香達と別れ、光と楓がA組へと向かう。

二人の後ろにサンタ君も続く。

『ここね。』

A組のクラス表示を確認して光が言う。

楓も頷いている。

ドアを開ける。

目の前に人が立っていた

知っている顔だった。

『……七瀬、さん?』

光が驚いて口にする。

『?!神尾……さん?』

目の前の少女は驚いた表情を浮かべたが、みるみる表情が曇っていった。

小柄で、ロングヘアーを後ろで二ヶ所束ねている。

笑顔なら間違いなく可愛らしいのだが、その表情は曇ったままだ。

『ごめんなさいっ!』

少女はそう言って教室を出て行った。

『おい、ちずるっ?』

教室の中から声がした。

一人の少女が出てくる。

長身でショートカットの少女だ。

どこか中性的な雰囲気だ。

『全く、どこに行ったんだ?』

頭を掻いている。

『あんた達、ちずるの知り合いかい?』

少女が光に話し掛けてきた。

『え?あ、うん。同じ中学だった神尾 光よ。』

少女に挨拶する光。

『北条~~~、楓です~~~。』

楓もペコリと頭を下げる。

『私は相川(アイカワ) 真奈美(マナミ)。今出て行った七瀬 ちずる(ナナセ チズル)の従姉妹だ。』

そう言ってちずるの去った方角を指差している。

光は真奈美の指差す廊下を見る。

七瀬さん、どうしたのかな?

光と七瀬は中学二年の時のクラスメートだ。

だが、特に話しをした記憶は無い。

既にその時の光は孤立しており、クラスの誰とも仲良く過ごしていないからだ。

『まぁ、こんな所で立ち話も何だし入るといい。』

そう言って道を開ける真奈美。

『そうね、ありがとう。行こう、楓。』

『はい~~~。』

二人共、教室に入る。

既に殆どの生徒が教室に来ている様だ。

光を見た一部の生徒達がキャイキャイ騒いでいる。

う~~、あの子達私の事知ってる子達よね……。

さっき講堂で妙子の言った言葉が思い出される。

『光さん~~~、あそこが~~~空いてますよ~~~。』

光が悩んでいると、楓が教室の中央の最前列を指差して言う。

見ると一列目と二列目の真ん中が縦に並んで空いていた。

『あそこで良い?』

『はい~~~、前でないと~~~、黒板が~~~、見えませんから~~~。』

光の質問に笑顔で答える楓。

あ、そう言えばそうか。楓の前に人が座ると、楓の身長じゃ前は見えないよね。

『それじゃ、あそこにしよっか。』

『はい~~~。』

二人で席に歩いていく。

相変わらず、視線を感じる。

光が視線の先を見ると数人の生徒達がこっちを見ていた。

が、光と目が合うと慌てて視線を反らし、皆でキャイキャイ言っている。

ま、良いけどね。

席に着く。

楓が一番前だ。後ろに光が並ぶ。

隣を見ると、さっきの少女がそこに座る。

『お隣さんだな。宜しく。』

気さくに笑いかけながら手を上げて喋りかけてきた。

『えぇ、此方こそ宜しくね。……相川さん。』

光が答える。楓も頭を下げている。

『真奈美で良いよ。私も名前で呼んで良いかな?』

『えぇ、良いわよ。真奈美。』

『はい~~~、宜しくです~~~。真奈美さん~~~。』

変わらず、さん付けの楓に苦笑する真奈美。

『さてさて、我が従姉妹殿は何処に行ったのかね?』

後ろの席を見ながら首を傾げる真奈美。

見ると真奈美の後ろの席が空いていた。

そこが七瀬 ちずるの席なのだろう。

本当に何処に行ったんだろ?

光も首を傾げる。



その頃当の七瀬 ちずるはクラス表の前に居た。

じっとA組の所を見ている。

間違いなく、神尾 光の名前が有った。

『……どうしよう……。なんて言えば良いんだろ……?』

中学校で同じクラスだった二年の頃を思い出す。

光は初めて有った時から無表情だった。

特に仲の良い友人が要るわけではなく、常に一人で行動していた。

そして、周りの生徒達が彼女の事を無視している事に気付いた。

恐らく、一年の時から続いて居たのだろう。

その面子がそのまま二年になっても継続し、クラスに広まっていったようだ。

何度か話し掛けようとしたが、友人に止められていた。

そんな事したら巻き込まれる、と。

気になって、いつしか彼女を目で追うようになっていた。

授業でグループ分けが有れば、最後まで決まらずに残っていた。

当番制の掃除では他の全ての生徒に押し付けられ一人で掃除していた。

クラスの連絡事項が一人だけ回っていなかった。

決定的だったのは、放課後部活が終わって教室に忘れ物を取りに行った時に見た光景だった。

誰も居ない筈の教室に、光が一人外を見ながら立っていた。

そして……静かに泣いていた。

後ろ姿からでも、光が涙を脱ぐっているのがわかった。

思わずその場を逃げ出した。

後から激しく後悔した。

何故、それまでに声をかけなかったのか?

何故、その時に声をかけなかったのか?

その日は夜も眠れなかった。

その後も声をかけようとしたが、出来なかった。

そしてそのまま進級を向かえ、クラスが別れた。

声を掛ける機会を失ってしまった。

後悔だけが残る。

三年になっても珠に見かける事が有った。

やはり、一人だった。

今、再会出来たのはチャンスかも知れない。

知れないのに……又、逃げ出してしまった。

中学の時とは違い、此処には光を無視していた生徒達は居ない。

それどころか、光は既に人気者になっていた。

今朝、同室の先輩が外を見ながらはしゃいでいた。

その先輩、【天川 菜々(アマカワ ナナコ)】は先日の銀行強盗の時に現場に居た生徒だ。

彼女こそが望に光が強盗を倒した事を教えた生徒で有り、恐らく、学院内で一番最初に光のファンになった生徒だ。

菜々子に誘われ、ちずるも外を見た。

竹刀を持った生徒と素手で模擬戦をしていた。

菜々子に聞いた所、相手の生徒は去年の高校剣道大会で日本一になった生徒らしい。

その相手に素手で互角に戦っていた。

中学の時とは余りにも違う雰囲気と表情、似ている別人だと思いたかった。

だが、今クラス表に確かに光の名前が有る。

間違いなく、本人だ。

チャイムの音がする。

『戻らなきゃ……。』

ちずるはゆっくりと教室に戻って行く。



光と楓はすっかり真奈美と打ち解けていた。

『そうか。今朝先輩が騒いでいたのは、あんた達の事だったのか。』

真奈美の同室の先輩も光達の朝練を見ていた様だ。

『ごめんね。さわがしかった?』

光が手を合わせて謝る。

『いや、騒がしかったのは見ていた先輩の方さ。気にしないで良い。』

笑いながら答える真奈美。

ふと、後ろの席を見る。

『それにしても、ちずるは遅いな?』

光と楓もつられてちずるの席を見る。

本当にどうしたんだろ?すれ違った時に謝ってたよね?

光は中学の頃を思い出す。

しかし、二年の時にクラスメートだった事以外、特に思い出す事は無かった。

無論、謝られる事も覚えがない。

さっきチャイムも鳴ってたし、戻ってきても良さそうなのに?

そんな事を考えているとガラッとドアが開く。

翔子が現れた。

?!翔子?!

生徒達が騒ぎだす。翔子が先日の格闘技世界大会で優勝した事は、既にテレビでもネットでも伝えられている。

知っている生徒達はかなり多い様だ。

『はい、皆静かにして。』

翔子に言われ、静まり返る教室。

『このクラスの担任になった渡 翔子です。皆、一年間宜しくね。』

翔子が挨拶したとたんに歓声が起こった。

翔子、凄い人気ね。

光は周りの騒ぎ様に翔子の人気を思いしる。

翔子と目が合った。ウインクしてきた。

再び巻き起こる歓声。

流石に翔子も不味いと思ったらしい、慌てて注意をする。

『はいはい、静かに!あまり、騒がないの。』

翔子に言われ落ち着きを取り戻す生徒達。

生徒達が静かになったのを見計らって、真奈美が手を上げる。

気付いた翔子が声を掛ける。

『はい、え~と誰さん、かな?』

『相川 真奈美です。質問が有るのですが、宜しいですか?』

『相川さんね。どうぞ。』

翔子の許可を得て立ち上がる真奈美。

『渡先生は、この間の格闘技大会の優勝者、二代目格闘王渡 翔子で間違い無いですか?』

真っ直ぐに翔子を見て質問する。

翔子は一度光をチラリと見て答える。

『えぇ、そうよ。私は泉流格闘術師範代、二代目格闘王、渡 翔子です。』

教壇の前で胸を張り、堂々と自己紹介をした。

途端に沸き上がる歓声。

さっきよりも凄い。

『静かに!……今回の大会で私は確かに優勝しました。ですが、内容的には接戦も多く、力不足を痛感しています。先代の格闘王で有り、私の師である光一郎さんは圧倒的な強さで他者をねじ伏せていました。私はこれからも己を鍛え、上を目指します。皆さんも現状で満足することなく常に上を目指してください。』

真剣な目をして皆を見回しながら宣言する翔子。

皆、世界一になりながら更に上を目指すと言う翔子に感銘を受けているようだ。

『素晴らしい!先生!私は貴女が担任で有る事を光栄に思う。』

目を潤ませて拍手する真奈美。

他の生徒からも拍手が続く。

『コホン、静かに!相川さんももう座って。』

熱く語った事を誤魔化しながら、翔子が告げる。

静かに着席する真奈美だが、その目はキラキラと輝いている様に見える。

翔子のファンなのかな?

『所で、ひ……神尾さん、その子はSPロボットよね?』

翔子がサンタ君を指差しながら光に話し掛ける。

今、光って呼ぼうとしたな……。

『はい、そうです。許可は貰って有ると聞いてますけど?』

『えぇ、連絡は受けてます。ただ、そこは流石に邪魔になるから教室の前か後ろに行って貰えないかしら?』

言われてみれば、サンタ君はずっと楓の側に居る。

教室に来てからは、机の横で待機モードだった。

光はサンタ君に話し掛ける。

『サンタ君、教室に居る間は隅の方で待機してて貰える?』

サンタ君はコクンと頷き教室の前方、黒板の横に移動する。

『これで良いですか?』

一応、翔子に確認をとる。

『えぇ、良いわよ。ありがとう。』

翔子が答えた丁度その時、教室の前のドアがゆっくりと開く。

ちずるだった。

『あの……遅れて、すみません。』

入り口で深く頭を下げるちずる。

『早く入って。次からは気を付けてね。』

『は、はい。』

翔子に促され、慌てて席に着くちずる。

途中で光の横を通る。目が合った。

思わず剃らしてしまう、ちずる。

席に着いても下を向いたままだ。

翔子がちずるの様子がおかしい事に気付いた。

チラリと光を見る翔子。

光は頷き返す。

後で話した方が良さそうね。

振り返り、うつ向いたままのちずるを見て光は思った。



夜、光達の部屋に光、紗耶香、妙子、楓、かぐや、望、サンタ君と揃っている。

ホームルームが終わった後、軽く昼食をとり、道場に集まった皆は軽く流す程度に泉流の型を習っていた。

驚いたことに、楓が一番最初に覚えていた。

一度見聞きした事はほぼ覚えてしまうらしい。

その後、お風呂、夕食と済ませ部屋に集まったのだ。

『……鬼だ。鬼が二人居る……。』

夕食はしっかりと食べていたが、移動にはサンタ君に介護されていた妙子が部屋に着くなり、崩れ落ちる。

何か聞こえた様だけど、気のせいよね?

部屋の隅でうつ伏せになっている妙子を気にもせず、光はちずるの事を考えていた。

結局、あの後話す事が出来なかったのだ。

ホームルームが終わると。そそくさと教室を出ていってしまった。

皆が部活の事や新しいクラスでの事を話す中、光はそんな事を考えていた。

ドンドンドンッ!

ドアが勢いよくノックされる。

ドアが開いた。

翔子だった。後ろに真奈美も居る。

『光さん、大変よ!七瀬さんが拐われたわ!』

『?!ちずるが!』

普通の高校生としての最初の一日は、こうして急変していく。



予定より投稿が遅れました。

読んで下さっている方、申し訳有りません。

次は早いと思います。

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