10話 後悔と救出と
光の部屋で武術部の面々が集まっている。
今は翔子と真奈美もその輪に加わっている。
『翔子、それでちずるが拐われたって、どういう事なの?』
光が翔子に問い掛ける。
『私から話そう。』
真奈美が説明を始める。
ホームルームの後、ちずるからメールが来た。
内容は入学式に来ていた両親と街で昼食を食べてくる、夕方迄には帰る、と言うものだった。
ホームルームの時の様子が気にはなってはいたが、親とも暫くは会う機会も無い。
かえって気晴らしをしてスッキリするかも知れないな、とも思い了承のメールを返していた。
所が夕食の時間が終わっても帰ってくるどころか連絡も無い。
不安に思っていると、やっとちずるからのメールが来た。
しかし、送り主は別人だった。
内容はーーこのスマホの持ち主は預かった。あすの正午迄に三億円用意しろ。警察や親には連絡するな、連絡が有ったと分かった時点でこの娘は殺す。学校側で用意しろ。明日の正午に又連絡する。ーー。
添付された映像は、ちずるが両手と両足をそれぞれ縛られ、口にはガムテープが貼られている姿だった。
そう説明しながら送られてきた画像を見せて来た。
怯えた表情で縛られ、泣いているちずるが写っていた。
『それで、慌てて学校側に連絡しようと寮を出た所で渡先生に会ったんだ。そうしたら、此処に行こうと言われてね。』
そう説明をして翔子を見る真奈美。
『先生、我々よりも学院側に早く連絡した方が良いのでは?』
紗耶香が翔子に問い掛ける。
『そうだよ、三億なんて直ぐに用意出来ないよ?急いだ方がいいんじゃない?』
復活した妙子が身代金の心配をしている。
だが、翔子は首を振りながら答えた。
『いいえ、それよりも急いだ方がいいの。光さんなら、分かるでしょう?』
光を見る翔子。
そうなのだ。さっき画像を見た時に驚いた。
『直ぐに助けに行かないと、ちずるが危ないわ。』
光の返答に頷く翔子。
うん、同じ事考えてたんだな。
『危ないって何でさ?』
妙子が皆を代表して聞いてきた。
『送られてきた画像を見て、ちずるが目隠しされて無いでしょう?これって無事に帰す気が無いからよ。』
『?!そんな、それじゃ、ちずるはどうなる?』
真奈美が悲痛の表情で聞いてきた。
光は無言で首を振る。
『そ……んな。』
『せめて、何処に居るのか分かれば……。』
ショックを受けている真奈美を見ながら、光が呟く。
『ちょっと良い?その画像、見せてくれる?』
サンタ君が突然話し出す。
驚く翔子と真奈美、二人で光を見る。
光が頷いたのを見て、真奈美はスマホをサンタ君に手渡す。
『う~ん、モニター越しじゃ無理かな?姉さん、この画像僕に送ってくれるかな?』
サンタ君が楓にスマホを渡す。
『良いですよ~~~。』
楓が受け取り操作を始める。
紅葉に画像を送ってる様だ。
『あ、来た来た。ちょっと待ってね。………………と、見つけた。これ見て。』
暫く動きを止めていたサンタ君が壁の方を見て再び話し出す。
サンタ君の目が光る、同時に壁にさっきのちずるの画像が写し出された。
画面がちずるの目を拡大していく。
画面いっぱいにちずるの目が写し出された所で、何度か画像処理が入る。
人影が浮き上がった。
更にその人影が鮮明に切り替わっていく。
隣に別のウインドウが出てきて、物凄い勢いで人物の画像が切り替わっていく。
暫くして、ピタッと画像が止まった。
『誘拐犯が解ったよ。』
紅葉の声がした。
『え~と前科犯だね。玉岸 竜人。婦女暴行でこの間刑務所から出てきたばかりみたい。』
『婦女……暴行……。』
真奈美が呆然としている。
『紅葉君、場所は解る?』
光がサンタ君に尋ねる。
『何処かの廃ビルみたいだけど、場所を特定出来る物は写って無いね。』
『そんな……。』
再び真奈美が言葉を発する。
握りしめた両手が震えていた。
暫く悩んだ後、自分のスマホを取り出した。
電話を掛ける。
『へい、小沢です。姐さんですかい?どうしやしたい?』
直ぐに出た相手がそう答える。
先日会った小沢だった。
裏社会で生きているなら、もしかして何か情報を持っているかも知れないと思ったのだ。
『こんばんは、ちょっと聞きたい事が有るの。玉岸 竜人って知ってるかしら?』
『ああ、玉岸ですかい?確か先月出所してこの街に居る見たいですね。』
『知ってるの?!』
『ええ、少なくてもこの街に居る裏社会の奴は皆抑えてやすよ。』
『お願い!今その玉岸が何処に居るのか知りたいの。教えて。』
『……何が有りやした?』
『実は……』
光は今までの事を簡単に説明した。
『なるほどね……。ったく、あの馬鹿が!……分かりやした。協力しやす。』
一度、毒づいてから小沢が協力を申し出てきた。
『……とは言え、今ん所、最後に玉岸の居場所が分かってんのは、今朝方飲み屋街で彷徨いてたって事なんですが……。』
『それって何時位?』
突然、紅葉が会話に入ってきた。
……さては、盗聴してるな?
『姐さん、今のは?』
小沢が訝しげに聞いてきた。
そうなるよね……。
『気にしないで。それよりも玉岸が飲み屋街に居たのは何時頃なの?』
『……へい、4時頃って事です。』
返事を聞いてサンタ君を見る。
頷いていた。
いつの間にかサンタ君が映し出してる映像が変わっている。
いくつもの画面に分割され色々な場所が写っている。
その画像が高速で再生されていた。
『ありがとう、後はこっちで調べてみるわ。』
『へい、気を付けて下さいよ。玉岸の仲間に武器の密売してる奴が居ますんで。確実に銃は持ってますぜ。』
『えぇ、分かったわ。ありがとう。』
電話を切る。
皆の視線が光に集まっている。
『ある程度は居場所が分かったわ。後は紅葉君?』
『分かってる。もうちょい……、見つけた!』
紅葉の言葉と共に、映し出してる画像の画面が次々と止まっていく。
そこには玉岸らしき人物が映っていた。ふらふらと歩いていた。
玉岸が画面から消えると次の画面が拡大して動き出す。
何度か繰り返し、やがて画面の奥手に小さく映っていた玉岸がビルの中に入っていった。
『紅葉君、このカメラの夕方の映像出して。』
光が直ぐ様指示を出す。
『うん、待ってて。』
紅葉の返事と共に、映像が早送りされる。
何度か人が出入りはしている様だが皆大人のようだ。
やがて、黒塗りのワゴン車がビルの前に止まった。
『?!止めて!』
光の声に答え画像が止まる。
ワゴン車の窓は全て真っ黒にスモークが貼ってあり、中は見えない。
『再生して。』
再び光の声に答え、画像が動き出す。
暫くしてワゴン車から人が降りて来る。
しかし、こちらに映っているのは運転席側で、助手席側が見えない。僅かに頭が見えるだけだ。
恐らく三人と思われる人影は、ワゴン車の影になっている入り口に入っていった。
『紅葉君!』
『分かってる。』
光の言葉に間髪入れずに紅葉が答え、画像が巻き戻される。
車からビルに入る時に僅かに見えた人影にクローズアップされて止まる。
このままだと画像がぼやけ良く分からないが、次々と画像処理が入る。
『?!これって、桜花の制服じゃない?』
妙子が僅かに映る赤い色を指して発言した。
人影の中に赤い服らしきものが僅かに映っていた。
『はっきりとは映ってないけど、間違い無いと思うよ。』
紅葉が妙子に答える。
確かにはっきりとは分からないが、玉岸が出入りしているビルに桜花の制服らしき物を着た人物が入っていった。
それで充分だった。
その映像を見て、光は考え込んでいる。
『光様、如何しますか?乗り込みますか?それとも警察に届けますか?』
紗耶香が光に質問する。
暫く考え込んで光が口を開く。
『乗り込みます。』
光は強い意思を込めて宣言する。
『『では、私もお供します。』』
紗耶香と翔子が全く同じタイミングで同じ言葉を口にする。
お互いに驚いて顔を見合わせている。
『私も行きますわ。桜花の生徒に手を出した事に後悔させてあげますわ。』
『あ、あたしも行くよ。』
かぐやと妙子も続く。
だが、光は首を降って皆を見渡す。
『乗り込むのは私と翔子、紗耶香で行くわ。』
光の発言に翔子紗耶香が力強く頷く。
『光っ!私も行きますわ!』
『そうだよ、相手結構多いんだよ、あたしも行くよ。』
かぐやと妙子は反対し、再度同行を志願する。
『いえ、二人には別の事を頼みたいの。』
二人を制止しながら光が優しく微笑む。
光には二人の気持ちは分かっている。正直に言えば、かなり嬉しい。
だが、相手は武装した犯罪者の集団だ。
妙子は勿論、かぐやにも経験は無いだろう。
翔子は光一郎と共に、こういった事に慣れている。
紗耶香は初めてだろうが大丈夫だろう。
それに……。
光が皆に今後の指示を出していく。
皆が光の指示を真剣に聞いているなか、真奈美だけが首を傾げていた。
街外れ、再開発予定の一画に玉岸達は拠点を置いていた。
新しく高速道路が近くを通ることになり、再開発が行われるために空きビルが多い。だが、一部反対派が残っており工事も始まっていない。
その隙に玉岸達が住み着いたのだ。
そのビルは六階建てで、玉岸達はその四階に有る大部屋に集まっている。
散らかるだけ散らかった部屋には廃材等も残されている。
その部屋の一部にソファーが置かれており、そこに八人の男達が集まり酒を飲を飲んでいた。
突然、一人の男が立ち上がる。
かなりの大男だ。この中では最も大きい。ゆっくりとソファーから離れ、部屋の反対側に放置された廃材の方へと近寄っていく。
廃材の前に縛られたままのちずるが居た。
その顔は恐怖に彩られている。
大男がちずるの目の前でしゃがみこむ。
『ひっ!』
ちずるが怯えた声を出した。
その声を聞いた大男の顔が愉悦に歪む。
手を伸ばし、ちずるの顎を掴んでその顔を見る。更にその視線はゆっくりと下に動く。
『!っ……。』
視線が何処に向いているか気付いたちずるが声にならない悲鳴をあげる。
大男の顔が更に歪む。
『……野田、止めとけ。』
ソファーの方から声がする。大男が振り向いた。
『いいじゃねえか、どうせ始末するんだろ?楽しもうや。』
大男が肩を竦めながら楽しそうに語る。
『……明日の連絡に使う。その後にしろ。』
『へいへい、玉岸さんのおっしゃるとおりに。』
再びちずるに顔を向ける。
『お楽しみは、また後でな。』
ちずるの耳元で告げると楽しそうに部屋を出ていった。
恐怖で動けなくなっているちずるは必死に考える。
何で……こんな事になったんだろう?
ちずるは夕方の事を思い返す。
ホームルームが終わった後、ちずるは誰よりも先に教室を飛び出していた。
ホームルームの間はずっと顔を伏せていた。
時折、斜め前の光が自分の方を見ている事にも気付いていたが、顔を上げることが出来なかった。
ホームルームが終わったら話しかけよう、謝ろう、そう思っていたがチャイムが鳴った途端、頭が真っ白になって教室を飛び出した。
そのまま両親と合流して入学祝を兼ねて食事に出掛けた居た。
食事中も落ち込んでいるちずるに両親も困惑していたが、
『何か……有ったの?』
母親がゆっくりと声を掛けた。
びくんっとちずるの体が動く。
やがて……涙を溢しながらちずるは話し出す。
光が中学時代に孤立していたことを……。
自分も話しかけようとしても、自分も孤立する事を恐れて話しかけなかった事を……。
そして、その光が今日からクラスメートになった事を。
暫くして……
『そう、そんな事が有ったの……。』
母親の言葉に頷くちずる。
『貴女は……どうしたいの?』
『?!』
『そうだね。今みたいに話しも出来ないままで良いのかな?』
父親の言葉に首を振る。
『……謝って、……友達に、なりたい……。』
ちずるが絞り出した言葉を聞いて、視線を合わせて頷き合う両親。
『だったら、やらなきゃいけない事は解るね?』
『……うん、謝る……事。』
『そう。出来るだけ早くね。』
『そうだね、寮に帰ったら行っておいで。』
『えっ?今日?』
『そうよ、こう言う事は早い方が良いわよ。』
『後になれば成る程、言いづらくなるよ。……解るだろ?』
『?!そう、だね。うん、わかった。』
父親の言葉に中学の頃の事を思い出す。声を掛けようとしても出来ずに過ごしてしまった事を。
両親との食事を終えた後、ちずるは商店街に来ていた。
心配を掛けたであろう真奈美用と光用のお土産を買うためだ。
有名な洋菓子店が有ったので、ケーキに決めた。
『うん、兎に角今日はこれを渡して謝ろう。』
頭の中でその時のシミュレーションを繰り返す。
何度も繰り返す。その内に……。
『あれ?……ここ、どこ?』
気付けば見知らぬ路地に居た。道を間違えた様だ。
人通りの無い裏道に入っていた。
慌てて戻ろうと振り替えると、見知らぬ男がニヤニヤしながら直ぐ後ろに立っていた。
『?!』
驚いて後ずさった所で後ろから口許を塞がれ、気を失った。
何か薬を嗅がされた様だ。
そして、気付けば見知らぬ場所で縛られていた。
私……誘拐……された?
ちずるの目に男達が写る。
あれ、何だろ?私どうなるのかな?殺され……ちゃうのかな?ヤダよぉ、神尾さんにまだ謝ってないのに。真奈美、心配してるかな?
ちずるの頭の中でぐるぐると思考が回る。
嗅がされた薬のせいか混乱している。
男達、玉岸と野田の体に黒いモヤが見えても驚かない位に……。
午後10時、光、翔子、紗耶香の三人は学校の屋上に来ている。
『光様、楓が帰って来たようです。』
紗耶香が上空を見ながら話しかける。
『ただいまです~~~。』
楓がゆっくりと空から降りてくる。
『お帰りなさい。お疲れ様。』
『はい~~~。』
ニコニコと笑いながら光に答える楓。
楓はサンタ君を着込んでいた。
サンタ君生地のエプロンドレスを身に付けてサンタ君ヘッドを頭に被って宙に浮く楓。
因みに、光は体操服とスパッツ、翔子は道着、紗耶香は道着に袴で竹刀を持っている。
『……しかし、まさか、空から出て行くとは思いませんでした。』
紗耶香が楓を見ながら口にする。
楓はサンタ君を装着後、かぐやを裏門から出た森の中へ、妙子と望を正門前の森の中へ送って帰って来た所だ。
『正門も裏門も見張りが居るはずよ。仕方ないわ。』
光が紗耶香に答えた。
『門からの出入りは全て玉岸に伝わるでしょうからね。流石は光一郎さんです。』
翔子が頷きながら感心している。
『紅葉君、次は私達三人だけど大丈夫?』
『うん、40キロ位しか出ないと思うけど、真っ直ぐ行けるから車よりは早く着くよ。』
『そう、それじゃお願いね。』
『うん良いよ、姉さんお願い。』
『はい~~~。』
楓が光の前にふわふわ移動してきて背中を見せる。
『それじゃ、光お姉ちゃんは背中に、後の二人は両手にそれぞれ掴まってくれる?』
『わかったわ、お願いね、楓。』
『はい~~~。』
光が背中から楓に抱き付き、翔子が楓の右手に、紗耶香が左手に掴まる。
『それでは~~~、行きますよ~~~。』
『ええ。』
『ん、頼む。』
『宜しくね。』
ふわりと浮き上がる四人。
そのまま麓の方へ真っ直ぐ飛んでいく。
『不思議、私達の体も浮き上がるのね?』
翔子が呟く。
『そうだよ。サンタ君のままだとサンタ君だけしか飛べないけど、誰かに装着した状態なら触ってる人も一緒に飛べるんだ。』
紅葉が答えた。
『楓は大丈夫?』
『はい~~~。ふわふわして~~~、気持ちいいですよ~~~。サンタ君も~~~、着心地良いです~~~。』
光の質問に楓が答える。
《その件で、言いたい事が有る!》
四人の耳に着けた通信機から声がした。
『妙さん?』
《そうだよ。あ、今移動中だよ。望が人の気配探ってるとこ。》
『で、妙。言いたい事とは何だ?』
《何であたしがサンタ君着たときはビキニみたいだったのに、楓ちゃんが着たらエプロンドレスなのさ?贔屓してない?》
『……妙……、そんな事か、ドレスが着たかったのか?』
《違うって!あたしの時と生地の量が違い過ぎないかなって思ってさ。》
『ああ、それはね。元々姉さん用に作ってたからだよ。』
《でも、あたしも着れるって言ったよね!》
『一応ね。本当に着れるか試したかったし、サイズが合わないのわかってたから水着みたいにしたんだ。』
『『『……。』』』
《あたしの事、モルモットにしたな~!!》
うん、多分そうだと思う。意外と紅葉君って黒いかも……。
そういやハッキングとかもあっさりやってるよね、盗聴も……。
《そろそろ静かにして下さい。見つかりますよ。》
《う、分かったよ。》
望のちょっと怒気のこもった声がして妙子が黙る。
普段無表情なだけあって、ちょっと恐いかも。
《光!こっちは見つけましたわ。裏門側には二人ですわ。》
今度はかぐやだ。
『かぐや、そのままで待機して。皆でタイミング合わせて確保。やれそう?』
《勿論ですわ。》
『そう、信頼してるわよ。』
《?!ま、まままま任せて下さいな。》
???何かしゃべり方変じゃない?信頼、信頼って小さな声で繰り返してるみたいだけど……。うん、気のせいだよね。
《光ちゃん、こっちも見つけたよ。森の中に二人居る。》
《それと、少し離れた所に車の中に一人発見しました。この車でここまで来たようです。》
妙子、望から再び通信だ。
『望、車の方をお願いね。妙さんは二人を。玉岸に連絡されないように気をつけて。』
《了~解。》
《分かりました。》
『あ、見えてきたよ。近くに降りるよ。』
『えぇ。お願い。』
紅葉に答える光。
同時に高度が下がっていく。
玉岸の居るビルの隣のビルを挟んだ路地に降り立つ。
『入り口に三人かな?後は……三階にも三人、四階に五人だね。一人だけ離れた場所に居るのがちずるお姉ちゃんかな?』
『……サンタ君、便利ね。』
『ま、ね。』
どうなってるのかな?この子。赤外線?
『どうしますか?光一郎さん。』
『……翔子はこのまま正面から、紗耶は私と屋上から入って三階をお願い、私は四階を制圧します。』
『『はい。』』
『それでは~~~、屋上に~~~、行きましょう~~~。』
『えぇ。楓、お願い。』
楓の右肩に触れる光。紗耶香は左腕に掴まる。
『翔子、頼むわよ。』
『はい、光一郎さんも、柳さんも気を付けて。』
再び飛び立つ楓、光、紗耶香。
屋上に到着する。
屋上のドアの鍵は閉まっていた。
『ま、当然よね。』
ドアのノブを回してみて光が呟く。
『あ、任せて。』
サンタ君ヘッドから紅葉の声がする。
楓が光に代わり、ドアの前に近づく。
楓の右手に装着されたサンタ君のアームガードからピッキングツールが伸びてくる。
伸びてきた二本の針金状の物が鍵穴へと入っていく。
数秒後、ガチャと音がした。
『開きました~~~。』
笑顔の楓。
『……光様、その、紅葉の事ですが……。』
『……大丈夫よ、本人に悪用する気は無いでしょう。……多分。』
『ですが……。』
『今は緊急事態よ。ちずるの救出が最優先よ。』
『……分かりました。紅葉の事は後程。』
『えぇ。行きましょう。』
ゆっくりとドアを開ける光。
後に続く紗耶香と楓。
階段を降りようとした所で、下から何かが激しく崩れ落ちる音がした。
『!!。全員、突入!』
『『『はいっ!』』』
通信機を使って全員に指示を出す光、同時に四階に駆け降りていく。指示を受けた皆も各々の目標へと駆け出していく。
光達が突入を始める数分前。
四階では、再び野田がちずるの前に歩み寄って居る。
ちずるの前にしゃがみこみ、ちずるの体をなめ回すように見ている。
視線に気付き、身を捩るちずる。
その様子に野田がにや~と笑う。
『野田、止めとけって言ったよな?』
後方から不愉快そうな声がする。玉岸だ。
ゆっくりと振り替える野田。
『うるせぇな。いいじゃねぇか。楽しもうや。なぁ?』
最後にちずるの顔を覗き込みながら野田が言う。
『ひっ!』
野田に怯えて、縛られた両手を振り回すちずる。
その指先がたまたま野田の左目を掠めた。
『つぅっ、何しやがるっ、このガキッ!』
野田の右の拳がちずるの顔を打った。
『っ?!』
声も出せずに吹き飛ぶちずる。後ろに積んで有った廃材に突っ込んで行く。
殴られた顔が、打ち付けた身体中が痛かった。それよりも、背中から胸にかけてが、焼ける様に熱かった。
朦朧としながら胸元を見るちずる。
ちずるの右胸から鉄の棒が生えていた。
廃材に混ざっていた鉄棒が背中からちずるを貫いていた。
『あ……れ?……ゲホッ!』
何かと思う前に口から血を吐き出すちずる。
呼吸が上手く出来ずに咳き込む。
『あ~あ、こ~りゃ駄目だ。』
野田がつまらなそうに呟く。
『野田っ!てめぇ、何してやがる!』
玉岸が野田に詰めより胸ぐらを掴み怒鳴る。
だが、野田は気にする事もなくニヤニヤしている。
『あ~?何するって?……ヒャハッ、こうするんだよ!』
玉岸に掴まれて居るのを気にもせず、野田が玉岸の肩に噛みつく。
『ぐぁぁぁっ!てっ、てめぇ!ぶっ!』
玉岸の肩を噛みちぎり、玉岸の顔を鷲掴みにする野田。
『ヒャハッ、あばよ。』
そのまま玉岸の顔を床に叩きつける野田。
轟音と共に床が割れ、玉岸は瓦礫と共に床下へと消えていく。
立ち上がる野田。
噛みちぎった玉岸の肉を旨そうに咀嚼している。
ゆっくりと口から息を吸う。
すると野田の体の回りに蠢いていた黒いもやが口の中へと吸い込まれていった。
玉岸の と共にもやを呑み込む野田。
『ヒャハッ、うめぇ。最高に良い気分だ。』
三度、ちずるの方を振り向く。
目の前には既に瀕死の状況になったちずるが居る。
『お前も旨そうじゃねぇか。ヒャハッ、ヒャハハハハッ!』
笑いながら野田の体は体中から吹き出す黒いもや、邪気に包まれていった。
早めに投稿すると言いつつ、今まで以上に間が空いてしまいました。
読んで下さっている皆様、申し訳ありません。
次こそは早めに投稿出来そうです。




