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日常  作者: 太郎
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百合

「あづい……溶けるぞ……」


 美香はでろんと、机に突っ伏した。

 汗でワイシャツが肌に張り付いている。透けて見えるのはシマムラで買った、スポブラ。華の女子高生だというのに、身形を気にしようとしない美香だ。


「溶けたら美香ジュースが出来るかな」

「うわあ、不味そう」


 苦々しそうに舌を出す美香。

 あまりにも可愛くて彼女の頬に手を当てた。汗でヌルヌルする。私と美香の汗。どちらの物かは判別出来ない。


「むしろ私は佳菜子ジュースが飲みたいな。美味しそうじゃん」

「やだあ、美味しくないよ」


 クスクス笑って顔を寄せた。美香も私の顔に手を添える。数センチの距離の美香の顔。まるで、鏡みたいに反映されている。私が目を薄く閉じれば美香も閉じて、一つになる。

 ぺろりと、舌で舐めとれば塩気が口に広がる。


「ん。やっぱ訂正。ジュースよりも佳菜子塩を作りたいな。ご飯にも佳菜子塩。魚にも佳菜子塩。どんな食べ物にも佳菜子塩」


 美香はキラキラの笑顔で私の頬を撫でる。


「私の塩は高いよー」

「百万までなら出せるな」


 バイト命な美香の通帳には百万円以上の貯蓄がある。高校生なのに凄いと思う。何故って聞いたら、『佳菜子を養うため』って。本当に実現しそうで怖かったりする。


「いや、それなら佳菜子を家で飼育して、体液管理を行う方が手っ取り早いのかな」

「うーっ、私はペットじゃありませんーっ」

「じゃあ、愛玩動物ってことで」

「ペットを格好よく言っただけでしょーが」


 ぺろりと舌を出して可愛い表情を見せる美香。ずるいなあ。細かい仕草でどんどん好きに染まっていくの。美香は知らないでしょ?

 私とは違う小麦色の肌に、引き締まって程よく筋肉のついた四肢、明るく染まった赤茶色の短髪、コロコロと変わる魅力的な表情。

 全てが全て、私を惑わせるの。


「じゃあ、何が良いの?」

「こっ、恋人じゃあ、駄目……なんですか?」


 恥ずかしさと不安で敬語になった語尾に、美香は目を細めて駄目だと呟いた。ああ、やっぱり変わらないのね、と胸が痛んだ。

 キスをする。手を繋ぐ。体を触り合う。けれども、私達の関係は友達止まり。付き合おうと私が言えば、美香が拒むのだ。


「佳菜子の恋人に私は、役不足だ」


 美香は髪を弄り目を伏せた。美香のクセ。私に負い目を感じているのか。必要ないのに。


「私の方が役不足だよ。キラキラの美香には私なんて合いっこないもの」

「ならば、役不足と役不足ではことの進展は望めないな。ところで、暑いね」

「もう、話を反らさないでよ」


 私が不満気に唇を尖らすと、啄(ついば)むように美香の唇が降ってきた。誤魔化さないでよとトゲトゲの感情も、数を重ねる度に軟化される。

 ようやく解放された頃には、とろとろ頭で美香を見るだけしか出来なくなっていた。


「……はあっ」

「可愛いよ、佳菜子。食べちゃいたいくらいだ」


 私だって。

 美香が撫でてキスをしてくれても、それだけじゃ足りなくて、もっともっと欲しくなって求めるけども、美香は拒むでしょ。

 このまま進まなければ、女子校ノリを間違えただけで終わってしまう。私は美香との関係を間違いだと思わない。

 これが、私の道なの。だから。

 自ら美香の口内に舌を這わせて、筋肉質な美香の背中に手を回す。


「美香、好きよ」


 私が微笑むと美香はまいったな、と苦笑した。その顔も好き。私がそうさせてると思うと、余計に。



 そんな、百合な私と美香の日常。

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