異常
「私は異常人であるって中々言わないよな」
一人呟きながら、こんと石を蹴った。石はでたらめに宙で遊んで土手から落ちていった。
まるで、私みたい。なんて、比喩してみたら違和感なく自分の中で落ち着いた。
「常人並みの体力。常人程の気力と表現することは出来る。なのに、異常人並みの体力と言うと何故かピンとこない」
異常人というと、むしろ異星人という言葉がすぐに浮かんでくる。別に関係ないんだけど。
「じゃあ、私はどんな人間に分類されるのだろうか?」
私の問いかけに答える者はいなかった。悲しくも自分で考え、答えることにした。
「正常ではない。常人でもない。異常である私は、アブノーマルということか?」
質問に質問で返すのは止めて欲しい、と過去に言われたことを思い出した。仕方がないじゃないか。癖なのだから。
「あの子も、あの子も、あの子も。私が深く話す度に『貴女は少しズレテイル』と言ってきたからな。うむ、私はアブノーマルなのだ」
自分がどこに位置されるのかハッキリすると、やけに体が軽くなった。今なら空を飛べそうだ。
「ズレテイル、ねぇ」
私の中の辞書では、ソレが正常であるとして明記されているんだけど。多数が違うというのだから、たった一人の私は逸脱に過ぎない。
「なあ、聞いてくれるか?」
再度、石を蹴りあげた。石はまっすぐ転がったと思ったのだが、すぐに細い土手から外れて落ちた。可哀想に、ごめんね。
話しかけた相手を見上げると、良いよ。と答えるかのように輝いていた。私を唯一肯定してくれるお空に輝くアルナイルにありがとうと呟く。
星だけが秘密を打ち明けられる対象だなんて、痛い子。でも気にしない。だって私は、アブノーマルだから。
「今朝、友達と電車通学している時だった。友達が読んでいた本を一瞬離して、げぇと吐くような素振りを見せた。私は不思議に思って『どうしたの?』と聞いた」
アルナイルはキラキラ輝いていた。
「友達は言った。『悪役が異常すぎて吐き気がしてきた』と。吐き気を促す程の異常っぷり。気になったから、友達に頼んで読ませてもらった」
そう、それで? とアルタイルは続きを促す。
「思わず笑ってしまった。幼稚だった。友達がこんな内容で吐き気を感じるなんて、どうやって育ってきたのかと疑問を感じさえした」
へえ、どんな内容だったの? と、アルナイルは聞いてきた。
「ごめん、説明していなかったな。重要な部分をかいつまんで説明するとこんな感じ。『デブな悪役がヒロインを拉致監禁して、生理的に勃起した物をヒロインに見せる。反抗するヒロインに腹が立った悪役は大量の麻薬を打とうとしたところで、主人公が現れてぐちゃぐちゃに刺されて死ぬ』」
スゴい内容ね。それで、貴女はどう思ったの?
「興奮した。悪役の心情が事細かに描かれている所が良かった。ヒロインに対するイカれた感情のぶつける方法がアレしかなかったのだという事実を考慮すると、悪役のことを応援しそうになった。むしろ、主人公を刺し殺したくなった」
……そう。それは友達に伝えたの?
「つい、ね。言ってしまったよ」
どんな反応だったの?
「驚いていた。目を丸くして、笑った私に疑問をぶつけてきた。『ここは笑うところじゃないでしょ?』と。『仕方がないだろ。面白いのだから』と私が答えれば、友人は一瞬眉間にシワを寄せた。そして、『貴女は少しズレテイル』と私に言った」
私は貴方がズレテイルとは思わないわ。貴女は普通な人間。
「嘘。私はアブノーマル。異常なんだ。授業中にパラフィリアのことを辞書で調べる屑なんだ」
そんなことない。貴女は正常よ。周りが貴女を異常扱いするのは、貴女が特別だから。特別なのよ?
「いや、違う。私は性器切断とかカニバリズム、アノレクタル、タナトフィリア、ネクロフィリアなんて言葉を聞いたり考えたりするだけで、危ない気持ちになる様な屑の中の屑なんだ!」
人間皆それぞれ性的趣向があるわ。貴女がソレだっただけで、他人も人には言えない趣向があるの。
「ちっ、違う! 私は……私は!!」
大丈夫。落ち着いて。ズレテイルと言われたのがとても辛かったのね。貴女はズレテないわ。向こうの常識と、こちらの常識の相違よ。
「……ごめん、アルナイル。興奮していたみたいだ。私は、正常に戻るよ」
そう。気をつけて。
「アルナイルも、ね。……なーんてね!! 本当に私は屑の中の屑だよ! 何がアルナイルだ! 何故星に慰められている!? しかも、悩み相談なんかしちゃったりして!? 泣いちゃったりして!! 幻聴なんて聞こえたりしちゃって!! こんな私がアブノーマルじゃない訳ねーだろうがい!! あー! 死にたい! あー! 正常になりたい!! 一度踏み外した道に帰りたいっ!!」
なんてね、嘘だけど。
そんな、異常な私の日常。




