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日常  作者: 太郎
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現実

 

「え、昨日何してたって? 言ったでしょ。塾があるから東町へ行くって」


 隣の席の花子さん(仮名)は言った。それを信じた彼氏の一郎くん(仮名)は安堵の表情を見せる。


「ああ、なんだ。昨日さ、花子が西町で男と歩いているのを見たって言う噂を聞いて、気になってさ」

「もう、私を疑ってるのー?」

「疑う訳ないだろ。確認したかっただけだから」

「安心して。私はずっと一郎の事が好きだよ」

「俺もだよ」


 そんな甘ったるい恋人達の会話を聞かされた僕は胃もたれをおこしていた。僕は甘いものが苦手なんだよ。特にこういう、さ。

 まあ、でも僕は彼女達の恋模様が甘い結末ではないことを知っている。だから胃もたれはそれ程酷くはない。

 花子さんは嘘をついている。それも、大きくて、重大な『嘘』。僕は見てしまったのだ。彼女が西町にいるところを。

 彼女は東町になんて行ってなかった。その噂の通り『彼氏に嘘をついて他の男と遊んでいた』。つまりのところ浮気をしていたのだ。

 まったく、よくやるよ。僕らはまだ高校生という身分で大人になんてなれてないのに、大人の真似事をするなんてさ。

 吐き気を通り越して殺意。

 そうやって愛して、愛されて、求める、ドロドロとした関係は昼ドラだけで充分だ。僕の胃を壊す気か。


 嘘嘘嘘嘘。


 現実という逃れられない道に『嘘』という糖分を塗りたくってからじゃないと進んで行けない下等な奴等め。

 これはアノ恋人達に限った話じゃなくて、もっと大きな規模の話。僕の両親も、僕が好きなあの人も、先生達……どころか世界中の皆が。

 『嘘』なしでは生きていけない。

 僕はそんな大人になりたくない。だから嘘つきを自分の世界から排除して、甘さ(ウソ)から自己を守ってきた。

 けれども、『嘘』に浸からないと上手く世の中を渡ることが出来ない現実。逃避してる訳じゃないのに親から言われる『現実逃避』という言葉。

 僕はただ甘いものが苦手なだけなんだ。だから必要以上の糖分を摂取したくないだけ、分かるでしょ?

 僕のこの気持ち。


 嫌だ。という言葉は使いたくない。逃げている様に捉えられるから。でも僕の口癖は「もう嫌だ」。

 これは僕の心に嘘をついていることになるのだろうか。なら、僕は奴等と同じ甘党に。

 ああ、嫌だ、何で。そんなの怖すぎる。

 嫌だ。嫌だ。大人になりたくない。糖尿病の悪臭漂う奴等の仲間入りなんてまっぴら御免だ。それなら死んだ方がましだ。

 でもな。15歳から29歳の日本人の死因の大多数は自殺なんだよ。そんな、パターン化した死に方はカッコ悪い。

 笑われてしまう。誰に? んなもん知らねーよ。

 とにかく僕は大多数の一部になどなりたくないのだ。いっそ、唯一無二になりたい。永遠に大人にならないピーターパンの様なただ一人の人間に。

 あー、誰か、僕を殺してくれ。


 甘い、ドロドロの嘘で覆われたこの現実から僕を救いだしてくれ。お願いだ。誰か、頼むから。



 そんな、ピーターパン症候群な僕の日常。



ピーターパン症候群とは、大まかに説明すると大人になりたくないと逃避する男性のことですが、詳しく知りたい方は是非とも調べてみて下さい。

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