部活
「後輩くん。ボクの抹茶饅頭が忽然と姿を消したのだが、これは捜索願いを出すべきだと思うかい?」
先輩は短すぎる髪の先を指で摘まんで引いたりしながら僕の顔を覗きこんだ。
止めて下さい。近くに寄らないで下さい。とは、言わずに。
「ひえ、らはなふてもいーとおもいまふ(直訳、いえ、出さなくても良いと思います)」
もふもふ、あ、この饅頭結構美味しいなー。
「口に何が入ってるか見せてくれるかね?後輩くん」
ごくん、喉を鳴らして唾液でぐちゃぐちゃにされた饅頭の残骸を飲み込んだ。
「先輩が求めているものは入ってませんよ、ほら」
口を大きく開けて先輩に見せると、先輩は一瞬目を丸くしてからまじまじと眺める。
「むむっ……本当だ」
そんなに観察しなくても飲んだから残ってないと思うのだが、真面目な先輩は隅々まで観察する。
本当は僕が饅頭を食べたし、ついさっきまで口に入れてたからバレると思ったのだがバカな先輩には分からなかったらしい。
『いつか先輩が詐欺被害に遭うんじゃないかって心配で心配で僕、夜も寝られません!』って言ったら先輩は『一緒に寝てやろうじゃないか!』と男らしく返すんだろうなー、と考えながら。
そう言えば、先輩は男じゃないことを思い出した。
「これは事件だな。このままだと迷宮入りになってしまうからおみやさんを呼ぶべきか?」
「先輩。まだ饅頭は残っているんですから、気持ち悪いこと呟いてないで食べたらどうですか」
「なるほど。後輩くんは頭が良いな」
先輩は僕が全部食べずに一つだけ残してあげた饅頭を頬張る。もふもふと、饅頭を咀嚼する姿は小動物の様で可愛いと思ってしまった。
でも、先輩は残念な性格と一人称のせいで生まれもった美貌を台無しにしているからな……なんとも可哀想に。
「それにしても、抹茶好きなんて先輩にも女性らしい一面があるんですね」
「何だと?ボクは女性らしいなんて言葉要らないし、必要ない」
先輩は綺麗な顔に似合わないシワを眉間に寄せて、吐き捨てる様に『女性』という言葉を口にした。
何で先輩はこんなに女性ということを嫌悪しているのだろうか。女性としての魅力を全て持ち合わせた人なのに、さらしを巻いたり(何故知ってるのかは触れない方向で)短髪にしたりして自ら潰すのは勿体ない。
……いや、もしかしたらそうだからこそ、嫌悪しているのかもしれないが。
理由こそ知れぬが、先輩には『女性』『女の子』という言葉はタブーというのはここ一年で学んだ。しかし、僕はそれを敢えて知らないフリして使う。
だって、使った時に見せる先輩の嫌悪に満ちたぐちゃぐちゃの顔を見るのが楽しいのだ。仕方がないではないか。
「じゃー、先輩は男が大好きなんですね?逆ハーレムの世界にいきたいんですね?」
「ち、違う。ボクはそういうことを言っているのではない」
先輩は顔を赤らめて下を向いた。
ほら、女の子の表情出来るんじゃないか。違うと否定しても心の中は女の子なんだよ。と、言って苛めてみたくなったが止めた。先輩が本気で泣きそうな気がしたから。
それに、先輩が僕の言葉で自棄になって『女の子』らしくなろうとしたら困る。今の僕と先輩の平穏な日々が崩れてしまうのだけは避けたい。
「へえ。では、女好きですね?女の子にしか性的感情を抱けない百合っている人ですね?」
「そっ、れも違う!ボクはちゃんと男の子が好きな普通の人間だ!」
「へえ」
あれ?お腹にぬるま湯が溜まる様な変な違和感がした。
僕以外の男子と話せない先輩が男の子を好きになるなんておかしいじゃないか。ぐるぐる、ぐるぐる、ぬるま湯が気持ち悪い。
「どうしたのだい。後輩くん、顔色が悪い」
「そんなことないと思いますよ」
「そうかい。じゃあ、いつも通り部活を始めようか」
「ですね。部員2名だけの漫研部を」
「失礼な。幽霊部員を入れたら軽く10は超すぞ」
「はいはい」
そんな男らしい女の先輩と僕の日常。




