知っていると思っていた
私たちはみんな、遥が悠のことを好きだと知っていた。
卒業前の四月には、それはもう秘密というより、キャンパスの常識に近かった。桜は三月の終わりに咲く。卒論は五月末に出す。学食二階のオムライスはいつも少し甘い。遥は悠が好き。
ただ一人、知らなかったのは悠だった。
あとになって、私たちはそれも正確ではなかったと気づく。遥が好きだった悠のことを、悠本人でさえ知らなかったからだ。
二人は大学四年間の友人だった。
そう書くと何でもないように聞こえるけれど、「友人」という言葉は危うい。キャンパスに置かれたプラスチックの椅子みたいなものだ。誰もが座ったことがあり、誰もが丈夫だと思っている。けれどある日突然、脚が一本折れて、内側がとっくに空洞だったことに気づく。
遥と悠は三つの選択科目を一緒に取り、二回グループ発表をし、一度だけ失敗に終わったサークル勧誘にも参加し、図書館で数えきれないほど午後を過ごした。悠は遥がパクチーを食べないことを知っていた。ミルクティーは甘さ控えめにすることも、試験前になるとノートを最初から書き直し、字がどんどん整っていくほど本人は絶望していくことも知っていた。
遥もまた、悠について多くのことを知っていた。
彼がアイスアメリカーノを飲むと胃が痛くなること。レポートを書くとき、まず格好いいタイトルをつけて、そのあと本文でタイトルに負けること。写真を撮られるのが嫌いなこと。別れの挨拶が嫌いなこと。「これからどうするの」と聞かれるのが嫌いなこと。彼がときどき穏やかに見えるのは、ただ断り方をまだ決めていないだけだということ。
私たちはみんな、二人はもうほとんどそういう関係なのだと思っていた。
「ほとんど」という言葉は、大学生の恋愛でいちばんよく使われる形容詞だ。事実を確認する責任は負わない。ただ雰囲気を作るためだけにある。
悠は毎日、遥のために図書館の窓際の席を取っていた。遥はそれを、二人の暗黙の了解だと思っていた。
何年も経ってから私たちは知った。悠がその席を取っていたのは、そこにコンセントがあったからだった。彼のノートパソコンのバッテリーは、ずいぶん前から壊れていた。
とはいえ、それがまったく暗黙の了解ではなかったとも言い切れない。遥が遅れてくると、彼はたしかに自分の水筒を隣の椅子に置いた。誰かが「ここ空いてますか」と聞くと、彼は「人が来ます」と答えた。
その言葉自体は間違っていなかった。ただ、遥が一度それを聞いてしまったせいで、その言葉は彼女の中でとても長く伸びた。
悠は注文するとき、いつもパクチー抜きと言った。遥はそれを、細やかな気遣いだと思った。
何年も経ってから私たちは知った。悠自身もパクチーが苦手だった。彼は遥のためだけに覚えていたわけではない。ただついでに、二人分の口を守っていただけだった。
でも、「ついで」だって十分に曖昧だ。恋はたいてい、「ついで」の中で死んだり、生き延びたりする。
悠は遥の誕生日を覚えていた。遥はそれを、特別なことだと思った。
何年も経ってから私たちは知った。彼のスマホにはクラス全員の誕生日通知が入っていた。一年生のときに幹事が配ったカレンダーデータを、彼がうっかり取り込んで、そのまま消していなかったのだ。
それでも、その日に彼がケーキを買ったのは本当だった。コンビニの値引き品の小さなケーキだった。いちごは少ししなびていて、ケースの角には黄色いシールが貼ってあった。それを見た遥はしばらく黙り、それから言った。
「ありがとう」
悠は言った。
「どういたしまして。半額だった」
あとになって私たちは一致した。悠という人間の最大の罪は、最もロマンチックであるべき瞬間に、いつも本当のことを言ってしまうところだった。
遥が彼に片思いしていることに最初に気づいたのは、森田だった。
森田は、自分は恋愛相談に向いていると思い込んでいるタイプの人間だった。恋愛の失敗経験は豊富で、失敗しすぎて理論をまとめられるほどだった。ある日の昼食中、遥が自分の皿の唐揚げを悠の皿に移し、代わりに悠の皿のにんじんを自分の皿へ戻しているのを見て、森田は箸を置き、言った。
「終わったな」
私たちは聞いた。
「何が?」
森田は言った。
「あいつが」
その日から、私たちはみんな知っていた。
遥は認めもしなかったし、否定もしなかった。ただうつむいてご飯を食べ、にんじんを妙に真剣に噛んでいた。人がにんじんを真剣に噛みすぎるときは、たいてい心の中に何かがある。
卒業一か月前、遥はしきりに悠へそれとなく伝えようとし始めた。
彼女は聞いた。
「卒業したあとも、今みたいな関係って続けられると思う?」
悠は少し考えて言った。
「難しいんじゃないかな。共通のプロジェクトでもあれば別だけど。たとえば一緒に論文を出すとか、サーバーを共同契約するとか」
遥は黙った。
私たちも黙った。
悠は付け加えた。
「もちろん、サーバーは現実的じゃないけど。高いし」
感情がないわけではなかった。
ただ、その置き場所をいつも間違えていた。
遥はまた聞いた。
「四年間ずっとそばにいた人がいたら、その人のこと特別だって思わない?」
悠は言った。
「思うよ。森田も四年間いるし」
森田はちょうど隣で味噌汁を飲んでいて、危うくむせ死ぬところだった。のちに彼は、あの恋愛には一切関与していないし、誰かの反例になるつもりもない、と正式に声明を出した。
遥は、かなり分かりやすいことを聞いたこともある。
「卒業前に言わないと、もう言う機会がなくなる言葉ってあるよね」
悠はうなずいた。
「そうだね。だから僕、指導教員にお礼を言っておこうと思ってる」
遥は彼を見た。
悠は続けた。
「まあ、先生はたぶん『その前に卒論直して』って言うだろうけど」
その夜、遥は女子のLINEグループに一言送った。
> 彼、私のこと全然好きじゃないのかな。
美咲が返信した。
> そんなわけない。絶対好きだよ。
森田が返信した。
> あいつはビビってるだけ。
藤井が返信した。
> もっとちゃんとした場を待ってるんじゃない?
それが私たちの役割だった。私たちは事実を提供しなかった。ただ解釈を提供した。解釈は事実より便利だ。事実はよく人の顔をつぶすが、解釈はいくらでも採寸して作れる。
私たちが分析すればするほど、遥は悠も自分を好きなのだと信じていった。
一方で、悠のほうにも秘密がなかったわけではない。
彼はアメリカへ行くことになっていた。
正確には、アメリカの大学院に出願していて、合格はもう出ていた。奨学金の手続きが進んでいて、ビザはまだだった。彼はそのことを誰にも言っていなかった。
冷たいからでも、劇的な展開を作りたかったからでもない。悠という人間は、もともと儀式が苦手だった。一つの出来事があまり多くの人に知られると、それは別のものになってしまうと彼は思っていた。留学はただの留学なのに、口にした瞬間、食事会、集合写真、祝福、忠告、寂しさ、そして無数の「出世しても忘れるなよ」に変わる。
悠はその「出世しても忘れるなよ」を非常に恐れていた。
だから、すべてが確定してから言うつもりだった。
人間の多くの災難は、「すべてが確定してから言う」ことから始まる。
遥は、悠が行ってしまうことを知らなかった。
ただ最近、彼が少し上の空だと感じていた。彼女はその上の空を、「二人の未来について彼も悩んでいるのだ」と解釈した。その解釈はとても美しかった。唯一の問題は、事実とは関係がなかったことだ。
そのころの悠は確かに悩んでいた。
ビザ書類に悩み、学生寮のデポジットに悩み、航空券の値段に悩み、スーツケースのサイズに悩み、向こうから来たメールの「ASAP」がどれくらい急ぎなのかに悩んでいた。恋愛には悩んでいなかった。恋愛が大事ではなかったからではない。自分がすでに恋愛の舞台に配置されていることを、まったく知らなかったからだ。
それが、あとになって私たちが一番ばかばかしく思ったところだった。
遥は、悠が自分の気持ちを知っていると思っていた。
悠は、みんながいずれ自分の留学を知ると思っていた。
私たちは、二人は互いに何もかも分かっていると思っていた。
全員が「思っていた」。
誰も、口にしなかった。
卒業パーティーは、本来あんなに複雑にする必要はなかった。
けれどその年、学科の先生たちが何を思ったのか、パーティーに危険なテーマをつけた。
「言えなかったことを言おう」
このテーマが発表された瞬間、私たちは何かが起こると感じた。
卒業前というのは、人類の感情管理能力が最も低下する時期だ。卒論は出したばかりで、将来は未定。寮はもうすぐ退去。学生証の電子マネーはまだ残っている。人は弱ると、言うべきでないことまで言ってしまう。そこへ学生会はわざわざステージを作り、照明をつけ、マイクを用意して、みんなに公開の感情崩壊を勧めた。
パーティーの前、美咲がこっそり遥に聞いた。
「この機会に言う?」
遥は言った。
「何を?」
森田が横から口を出した。
「ほら、もうとぼけ始めた」
遥は彼をにらんだ。
藤井は言った。
「悠は絶対分かってると思うよ。あとはきっかけを作るだけじゃない?」
私たちはみんな同意した。
「彼は絶対分かっている」という言葉は、あまりにも便利だった。確認も、危険も、そして友人として最低限必要だった義務——言葉をはっきりさせること——も、すべて省いてくれた。
遥は最後に一本の動画を撮った。
それは卒業パーティーの恒例企画だった。一人ずつカメラの前で、言いたいことを一言話す。親へ感謝する人、友人へ感謝する人、学食のおばちゃんへ感謝する人、留年せずに済んだ自分へ感謝する人がいた。森田はカメラに向かって、「大学四年間で分かったのは、人生で一番大事なのは恋愛ではなくGPAだということです」と言った。のちに彼女はGPAも別に高くなかったため、私たちに長くからかわれた。
遥の番のとき、窓の外は夕方だった。黒板には前の授業の数式がまだ消し残されていた。彼女はカメラを見て、少し笑った。その笑顔は軽く、何かを驚かせないようにしているみたいだった。
彼女は言った。
「悠くん。好きです」
少し間を置いて。
「知っていると思っていました」
私たちはあとで何度もその動画を見返した。遥はこの言葉を言うとき、泣きも震えもしなかった。とても静かで、少しだけほっとしているようにさえ見えた。長いあいだ手に持っていたものを、ようやく置いた人のようだった。
パーティー当日、講堂は暑かった。卒業生たちはみな普段より少しきちんとした服を着ていて、そのぶん普段より自分らしくなかった。舞台の照明はまぶしく、司会は実在しない授賞式でも進行しているみたいに興奮していた。
悠はいなかった。
いるはずだった。彼の席は三列目の左側で、私たちはわざわざ席を取っておいた。椅子の背には彼の名前が貼ってあった。白い紙に黒い文字で、ひどく簡素な墓標みたいだった。
でも彼は午後に突然メールを受け取った。ビザ書類に当日中の確認が必要な箇所があるという。そのため彼は事務室へ行き、印刷屋へ行き、さらに推薦状関連の追加書類にサインをもらうため指導教員に呼ばれた。遥の動画が流れていたとき、悠は生協カードに残った三百十二円を払い戻そうと、カウンターに並んでいた。
恋愛が講堂で最高潮に達していたころ、彼は窓口の人から「五百円未満の残高は返金できません。使い切ってください」と言われていた。
この出来事は、あとで私たちを長く悲しませ、同時に長く笑わせた。悲しいこととおかしいことの違いは、ときどき、それが自分からどれくらい遠いかだけで決まる。
動画の中で遥が「好きです」と言った瞬間、会場はまず静かになった。
それから、誰かが息を呑んだ。
次に、拍手が起きた。
そして森田が立ち上がり、主人公の表情を見ようと悠の席を振り返った。
椅子は空だった。
私たち全員が振り向き、「悠」と貼られた白い紙が、空調の風に小さく揺れているのを見た。
その瞬間、講堂にはめったにない沈黙が落ちた。感動でも、気まずさでもない。集団の知性が一瞬だけ停止したあとの空白だった。
美咲はすぐに悠へ電話した。
出なかった。
藤井がメッセージを送った。
> お前、終わったぞ。
悠は十分後に返信した。
> 何が? 生協カードの残高って返金できないの?
藤井は怒りでスマホを投げそうになった。
森田が送った。
> グループ見ろ。
悠は返信した。
> どのグループ?
そのとき私たちは初めて知った。一人の大学生は四年間で三十七個のLINEグループに入ることができる。そして本当に大事な知らせは、いつも彼が通知を切っているグループに流れる。
誰かが動画を送ろうとしたが、ファイルが大きすぎて失敗した。
誰かが圧縮し直したが、画質は監視カメラのように荒くなり、遥の顔は悲しげな数個のピクセルにしか見えなかった。
誰かは画面を撮影した。指がレンズの半分を隠していて、残ったのは遥の最後の一言だけだった。
「知っていると思っていました」
その一文だけが切り取られると、むしろ判決のように見えた。
翌日、悠は学校へ戻り、ひどく普通にしていた。
学食の入口で遥と会うと、彼は言った。
「昨日のパーティー、楽しかった?」
この一言は、のちに私たちのあいだで「卒業シーズン最も残酷な発言」に選ばれた。
でも悠は、本当に知らなかった。
遥は彼を見て、顔色を少し白くした。
「まあまあ」
悠は言った。
「昨日、急用で行けなくて。ごめん」
遥は言った。
「大丈夫」
そう言って、彼女は去っていった。
悠はその場に立ち、少し困惑していた。彼は、遥が自分の欠席に不機嫌なのだと思った。その理解は間違っていないとも言える。ただ、間違い方が浅すぎた。
私たちは目を赤くして戻ってきた遥を見て、勝手に物語を補完した。
「知らないふりしてる」と美咲が言った。
「きつすぎる」と藤井が言った。
「あいつ、本当にだめだな」と森田が言った。
こうして私たちは、悠の代わりに拒絶を完了させた。
おかしな言い方に聞こえるかもしれない。でも事実はそうだった。悠は誰も拒絶していなかった。そもそも告白されたことさえ知らなかった。けれど遥にとって、私たちにとって、何度も転送されたあの動画の中で、彼はすでに彼女を拒絶していた。しかも冷静で、礼儀正しく、ほとんど残酷なほどに。
さらに悪いことに、悠が海外へ行くことはすぐに広まった。
彼は本当は、ちょうどいいタイミングでみんなに話すつもりだった。でも卒業前にちょうどいいタイミングなど一つもなかった。誰かが泣いているか、誰かが論文を直している。誰かが失恋しているか、誰かが荷造りしている。先生が会議をしているか、大学が停電している。彼がようやく言えたときには、もう数日しか残っていなかった。
遥はその知らせを聞いて、何も言わなかった。
私たちは彼女が砕けたのだと思った。
たぶん、実際に砕けていたのだと思う。ただもっと正確に言えば、彼女の心の中にいた「悠」が砕けた。
彼女が好きだと知っているはずで、パーティーで彼女の言葉を聞いているはずで、旅立つ前に何か答えをくれるはずだった悠は、突然、アメリカへ行くために変換プラグを買い、預け荷物の重量制限を真剣に調べている一人の人間になった。
あまりに詩的ではなかった。
人は、運命に引き裂かれることなら受け入れられる。
荷物の重量制限に引き裂かれることを受け入れるのは、少し難しい。
卒業の日、悠は遥にメッセージを送った。
> また連絡しよう。
遥は返事をしなかった。
彼女は悠とのトーク画面を削除した。ブロックではない。ブロックは激しすぎる。削除のほうが、大人の自尊心に近かった。
悠は返信が来ないのを見て、遥は卒業で忙しいのだと思った。のちに飛行機に乗り、太平洋上空でスマホの下書きを開いたとき、彼は彼女に送ろうとしていた別れの文章がまだ残っているのに気づいた。
そこにはこう書かれていた。
> この数年間、ありがとう。君は僕の大学生活でとても大切な友人でした。
彼は長いことそれを見つめ、最後に消した。
飛行機には電波がなかったから。
そして、なぜだか自分でもうまく言えなかったけれど、その言葉では足りない気がしたから。
それから二人は長いこと連絡を取らなかった。
私たちのほうは、ずっと連絡を取り続けた。
同窓グループを作り、アイコンを変え、名前を変えた。「二〇一四年度卒業おめでとう」は「二〇一四年度社畜互助会」になり、さらに「二〇一四年度育児・不用品譲渡」に変わった。人生とは、グループ名が少しずつ長くなる過程なのかもしれない。
悠はアメリカで大学院へ行き、その後働いた。遥は日本に残り、最初は編集者になり、のちに出版社へ移った。私たちはときどき二人のことを話した。キャンパスに降った、あの日すれ違った雨のことを思い出すように。
誰かがあの卒業パーティーの話をすると、必ずこう言った。
「覚えてる? 遥が告白したとき、悠がいなかったやつ」
そしてみんな笑った。
笑ったあと、ため息をついた。
その話は、語られるのに向いていすぎた。告白があり、欠席があり、空の椅子があり、「知っていると思っていました」がある。短く、まとまっていて、広まりやすい。まるでキャンパスの伝説だった。私たちはあまりに上手に語れるようになりすぎて、その中に二人の人間がいたことをほとんど忘れていった。
十年後、学部の同窓会が開かれた。
場所は大学近くの、改装されたレストランだった。改装といっても、壁を白く塗り、メニューの値段を二倍にしただけだった。私たちは席につき、みんな変わったようで、何も変わっていないことに気づいた。森田は生え際が後退していたが、恋愛相談への情熱は相変わらずだった。美咲は結婚していたが、今でも人のことで焦るのが上手だった。藤井は少し太っていた。
遥が来た。
悠も来た。
二人が再会したとき、私たちが想像していたような雷鳴は起きなかった。三秒の沈黙も、BGMも、誰かの持っているグラスが突然落ちることもなかった。
遥は言った。
「久しぶり」
悠は言った。
「久しぶり」
そして二人は礼儀正しく笑った。かつて同じ授業でPowerPointを一緒に作ったことがある、という程度の二人みたいに。
私たちはとても失望した。
人間はいつも、他人の人生に自分の代わりにドラマを完成させてもらいたがる。
酒が何巡かしたころ、森田がついに我慢できなくなった。グラスを持ったまま、悠に言った。
「お前、あのとき本当にえぐかったよな」
悠はきょとんとした。
「何が?」
テーブルが一瞬静かになった。
美咲が森田を見た。
藤井が美咲を見た。
遥はうつむいて料理を取っていた。
森田は言った。
「いや、卒業パーティーの」
悠はまだ分かっていなかった。
「卒業パーティーがどうかした?」
その瞬間の空気を、私たちは今でもうまく説明できない。
それは衝撃ではなかった。衝撃というには大きな音がありすぎる。あれは、何年も経ったあとになって、自分たちの家の基礎に当時セメントが一層足りなかったことに気づいたような感覚だった。建物はまだ立っている。でも誰も強く息ができない。
美咲が小さな声で言った。
「知らなかったの?」
悠は言った。
「自分が行けなかったことは知ってるよ」
森田は言った。
「そうじゃなくて」
悠は私たちを見た。ようやく少し不安そうになった。
遥が箸を置き、顔を上げて彼を見た。
「本当に知らなかったの?」彼女は聞いた。
悠は言った。
「僕は何を知っているべきだったの?」
誰も話さなかった。
最後に藤井が、あの十年間、古いハードディスクや古いクラウドや古いスマホを渡り歩いてきた動画を探し出した。
画質は悪かった。音も少し歪んでいた。十年前の遥が空き教室に座っている。窓の外は夕方だった。彼女はカメラを見て言う。
「悠くん。好きです」
間。
「知っていると思っていました」
悠は画面を見つめた。
すぐには何も言わなかった。
今度こそ、彼はそこにいた。
けれど、あまりにも遅かった。
同窓会のあと、遥と悠は大学の中を少し歩いた。
私たちはついていかなかった。少なくともそのときだけは、ようやくついていかないことを覚えた。
その日のキャンパスは静かだった。夏休みが始まったばかりで、街灯の下には小さな虫が光の周りを飛んでいた。図書館にはまだ数枚の窓に明かりが残っていて、眠りたがらない目のように見えた。二人が何度も歩いた道は敷き直されていて、昔のレンガはもうなかった。木だけはまだそこにあった。ただ少し高くなり、より黙っていた。
悠は言った。
「本当に知らなかった」
遥は言った。
「今は信じてる」
悠は苦笑した。
「いいことみたいには聞こえないね」
遥は言った。
「実際、いいことじゃない」
二人は図書館の前まで歩いた。そこには昔、ベンチが並んでいた。今は駐輪スペースになっていた。世界はいつもそうやって、誰にも相談せずに記憶の中の小道具を撤去する。
悠は言った。
「僕は、僕たちがすごくいい友人だと思ってた」
遥は言った。
「そうだったよ」
「じゃあ、どうして直接言ってくれなかったの?」
遥は長いこと考えた。
「知っていると思っていたから」
悠は言った。
「でも、僕は知らなかった」
「だから悲しかったの」遥は言った。「もしあなたが知っていて、私を好きじゃなかったなら、私はただ失恋しただけ。でもあなたが知らなかったなら、私の四年間は何だったの?」
悠は答えなかった。
その問いに答えはない。あるいは、答えがあまりにもロマンチックではなさすぎる。長い自己解釈だった、というだけだ。誤読された視線。大きくふくらまされた親切。一緒に尾ひれをつけていった偶然。ひとりでこっそり家を建て、相手はもうそこに住んでいると思い込み、最後に扉を開けると、中には自分が並べた家具だけがあった。
悠は言った。
「ごめん」
遥は首を振った。
「あなたは何も間違えていない」
その言葉は許しのように聞こえたが、そうではなかった。
責められるよりも、ずっと空っぽだった。
しばらくして、遥は聞いた。
「もしあの日、あなたがあの場にいたら、答えてくれた?」
それは私たちがあとで一番知りたがった問いだった。そして本来、私たちが知るべきではなかった問いでもある。
悠は長いこと考えた。
「分からない」
遥は彼を見た。
悠はまた言った。
「本当に分からない。たぶんすごく慌てたと思う。いったん落ち着こうって言ったかもしれない。それか……ちゃんと考えたかもしれない。でも、答えがどうなったかは分からない」
十年前の遥なら、その言葉に傷ついただろう。
十年前の彼女が好きだったのは、運命みたいな答えを出してくれる人だった。彼女が告白した瞬間に立ち上がり、ざわめく人混みを抜け、彼女の言わなかった言葉まですべて正確に分かってくれる人。たとえ断るとしても、映画の登場人物のように、少し荘厳に断ってくれる人。
でも目の前の悠は、ただの普通の人だった。
彼女の当時の答えになるには、足りなかった。
遥はふいに笑った。
悠は聞いた。
「何を笑ってるの?」
遥は言った。
「初めてあなたに会った気がした」
悠も笑った。でも少し悲しそうだった。
二人は抱き合わなかった。やり直さなかった。新しい連絡先を交換したかどうかは分からない。交換していたとしても、その後あまり連絡は取らなかったのだと思う。
何かが終わるとき、必ずしも大きな音はしない。
ただ、ようやく正しい場所に置かれるだけのこともある。
それから私たちは、あの話を前ほど頻繁にはしなくなった。
たまに誰かが言いかける。
「ほら、遥が告白して悠がいなかった——」
そこで言葉を飲み込む。
その話はもう、私たちのものではなかった。
本当は最初から、私たちのものではなかったのかもしれない。




