揺らぎ
ソルケにブレスの肉体と魂を凍結されたドルヂェは弱り切っていた。そもそもドルヂェはブレスを依り代としていたのだから当然だ。魔人の依り代はどれでもよいというものではない。相性というのがあるのだ。
そして自我の変化が起きた。
ブレスの魂が抜け落ちたことにより、アルデン王の邪な魂が魔人ドルヂェと直接結びついてしまった。アルデン王にしてみれば願ってもない事だった。しかも主体はアルデン王だ。アルデン王が魔人ドルヂェを使役するかのような形となったのだ。
しかし、アルデンにとっては大きな問題もあった。
今、アルデンが魔人ドルヂェを支配することが出来たのは、魔人ドルヂェの力が弱まっているからなのだ。これは単純に弱体化しているということだった。
魔力が弱まったことで、取り込んだ魔人ジャクの魔素を体に押しとどめておくことで精いっぱいだった。ジャクの魔素を失うのは危険だ。ジャクの魔素を失った瞬間、アルデンの魂から魔人ドルヂェの魔素に剥離してしまうに違いない。
アルデンが存在するには、どうあっても魔人を自分の魂に押し込めておく必要があったのだ。
—シェクタ国 西の塔—
「ダリ! ダリはいるか? 」
「はい、はぁい! ここにいるよ」
「ジャクだ。ジャクの依り代を持ってくるのだ」
「ん? あれぇ? ドルジェちょっと老けた? なんかオジサンぽくなったね。私、前のドルジェの方がいいなぁ」
「やかましいっ!! 早く持ってこいっ! 」
「そんな偉そうに言うんだったら、もう言う事聞いてあげないから」
もともとダリは清らかな聖女であるが故に、穢れが進むほど我儘、気分屋気性が強くなる。
「な、なぁ。悪かった、ダリよ。ジャクの依代を持ってきておくれ。そうすれば体質的に改善されて見た目も若くなるんだ」
ドルヂェはジャクの依り代を喰らうことによりジャクの魔素が身体に馴染ませようとしているのだ。そして、その方法はそれは間違いではなかった。
「本当に? そうなんだ。でも、ジャクの依代はここにないよ。残念だったね」
「なんだと! 何処へやったのだ」
「わたし、し~らない。そこらの魔獣が食べちゃったんじゃないの? 」
「くそっ! 今はあれが必要なのだ! 」
『こんな事ならジャクの依り代を殺した時に喰らってしまえばよかった』とドルヂェは机を叩いて悔しがった。
「 ....それよりさっ、ドルヂェ。良い話があるんだ」
「良い話? 」
「うん。実はね。ジャクの奴、ルカ達が乗っていた船に私が付けてあげたピアスを落としてきたんだよ」
「それがどうした? 」
「どうしたじゃないよ。私のピアスだよ。私にはそのピアスがある場所がわかるんだ。つまりそこってさ、もしかして.... 」
「ナンパヒ・パカイ・ラヒか! 」
「そうだよ。そして、そこにきっと私たちの追い求めている『あの方』がいるに違いないんだ。あの方にお会いすれば私たちは魔界に帰ることができるんだよ」
「そうか。それは良い話だ」
確かにこれは良い話だった。なぜならば魔界の場所さえわかれば、蓄えている人間の魂を魔素へ変換し、力を取り戻すことができるからだ。そして、何よりも「法魔の加護者」を喰らえば自分が魔界の絶対王『魔王』として君臨できるに違いない。
だが、リスクも大きい。まずは「時の加護者」だ。あの魔法も物理も無視をした攻撃力は他のどの加護者よりも危険だ。そしてルカの存在だ。少しでもルカの闇色の炎に触れれば、自分に何が起きるかわからない。
今はまずこの弱りきったような魂の融合を安定させなくては.... それにはジャクの依代が必要だ。
ドルヂェはミミズ魔獣ストルムを大量に召喚し砂漠の地中に放った。
***
—太陽の国レオの南端、ラジス峡谷―
「リシュル様、お寒くはないですか? 」
「大丈夫ですよ、バンク」
「今日はもう日が暮れます。あそこの岩の横穴で過ごしましょう」
「そうですね」
「しかし、なぜ、こんな辺境に来たのですか? さすがにこの辺りは子供が生きるには過酷すぎます。きっといませんよ」
「そうかも。でも、何故かこの地に何かを感じるのです。私は前にもここに来たような気がする.... 」
バンクは知っていた。この地がかつて白亜と加護者との最終決戦が行われた砂漠であったことを。
なぜならばバンクは記憶を失っていないのだ。彼の魂はバイタル生命体であるティムが融合したものだからだ。光鳥たちと同じくバイタル生命体は記憶を失うことはないのだ。
そしてリシュル自身は封印された『結月の記憶』を無意識に追い求めていた。
「バンク! あそこに人が倒れている。あの岩の陰に」
「行ってみましょう! 」
その岩の陰に横たわっていたのは16歳ほどの少年。それは魔人ジャクの依り代だった。
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