永遠の凍結
私は「時の加護者」アカネ。
魔人ドルヂェの時の凍結魔法により王都フェルナンは凍り付いていた。そして雷雲を招き、その雷でその王都フェルナンを薄氷のごとく粉々にしようとしていた。しかし、そこに「不縛の剣」のソルケと憤怒の魔人ローキが駆け付けた。何とかこの危機をしのいでほしい!
—王都フェルナンー
ソルケは「不縛の剣」を天に向かって振るった。
王都フェルナンの上空の不気味な超積乱雲は稲光と共に凍り付くと、薄氷のごとくばらばらに砕け散った。
今、まさに王都フェルナンの破壊という非道な悪事をしようとしたドルヂェにローキが咆哮した!
「ドルヂェ! そんなに私と闘いたいか! いいだろう。闘いたいなら相手してやろう! 我が弟よ!」
「はははは。やっとやる気になったか。でもな、俺はもうやる気はなくなったよ。私は良い方法を見つけたのだ。今、そこの王都はソルケの技のような状態にある。『両翼無風破』という魔法でな。この空間は脆い。雷ひとつでバラバラになる。そうすれば、大量の魂がこの場を彷徨うだろう。私はそれを喰らうとするよ。それで僕の力はお前よりも上になる」
そう言うとドルヂェは印を結んだ。
「ローキ、お前は僕の魔軍団の相手でもしていろ! 」
人の魂を握りしめた「千手の恕」が現れると、その魂を魔獣に向けて放った。
魂が魔獣の中に入り込むと、それぞれの魔獣から人間の上半身が生えてきた。
「そいつらは人間の魂が宿った醜い魔獣だ。ローキ、お前に人間殺しができるのか? しかもそいつらはなかなか強い。手加減などできないぞ」
「ドルヂェ、この憤怒のローキを見くびるなよ。私は正しい事には犠牲が伴う事も仕方がないと思っている」
ローキの隈取りが赤く光ると身体が筋肉の鎧で覆われ、背中に左右2本の腕が生える。それぞれ手には横槌が握られていた。
百に近い魔獣たちが一斉に襲い掛かるとローキの姿は魔獣の中に埋もれてしまった。まるで腹をすかせた虫が砂糖菓子に一斉に群がるような様である。
「さて、ソルケよ。お前はどうする? また『不縛の剣』で私の動きを封じてみるか? 無駄とわかっていても」
そう言うとドルヂェは背中から太い腕を生やし、巨大な弓を引き始めた。
弓には凄まじい魔力が込められているのを感じた。
「この矢を放てば、この氷と化した王都は簡単に砕け散る。さぁ、ソルケ、どうする? 」
ソルケはその鬼のようなドルヂェ....いや、鬼のように残酷な顔をするブレスが悲しかった。あの足の毒を吸い取ってくれた純粋でやさしかったブレスが、こんなにも残酷な事をしようとしている。
ソルケは「不縛の剣」を振るった。何度も、何度も振るった。しかしドルヂェには効かない。何度、空間が割れようとも何事もないように冷酷に笑っているのだ。
弓は今にも放たれようとしていた。
だが、ソルケは見た。一瞬だが、ドルヂェの片目が微かに悲しそうな目をしていたのだ。
「ブレス、私、ブレスが好きだった。君を愛していたんだよ」
そういうとソルケはドルヂェに体をぶつけた。そして自分の体に『不縛の剣』を突き立てた。
——そう....あれはソルケとクローズの闘いの後
クローズの腕輪には「不縛の剣」がまったく効かなかった。
「ソルケよ、お前は、クローズの腕輪を見誤っているのだ。その腕輪はな、今、こうして見えているが、実はこの次元には存在しないのだ。腕輪は運命の次元にあるのだ」
「運命の次元? 」
「運命の次元とは、少し先を見通した次元。お前が『不縛の剣』でその瞬間を凍らせようと、その瞬間の腕輪にとっては、既に過去の事なのだよ」
「では、勝敗は既に武具の性能で決まっていたのですね」
「そうでもないぞ。『運命の次元』を凍らせる方法はある。それはな、その者に接触し、自分の運命諸共凍らせるのだ。その者はお前の未来と共に凍結されるだろう」——
ソルケの身体に貫通した「不縛の剣」が悲しい音色を立て始めると、その指先から凍り始めた。
「ば、馬鹿な! ソルケ、やめろ!貴様も死ぬのだぞ!」
「ああ、いいんだ」
どんなに足掻こうと既に身動きひとつとることはできなかった。
「わ、わかった。ソルケ、このブレスの肉体を解放してやる。だから—」
「 ....」
すでにソルケの意識はなかった。
しかし、動くはずのないソルケの身体がブレスを抱きしめると、ブレスの唇が最後の言葉をつぶやいた。
『ソルケ、ありがとう』
「不縛の剣」はソルケの未来とブレスを凍結した。それは誰にも壊すことができない永遠の凍結だった。
ソルケはブレスを愛おしく見上げ、ブレスはソルケを悲しい眼差しで見つめている 。
地面の震えと共に魔人獣が粉々になり吹き飛ぶ、ローキは時限魔法「無敗の世界」を使った。その横槌一撃で10匹の魔獣人を肉片に変えていく。
全ての魔獣を駆逐すると、魔獣の血と肉片が散乱した赤い大地の上でローキは叫んだ。その叫びは怒りと悲しみが入り混じったものだった。
ローキは歩んだ。そして見とれるほどに美しい2人の氷像を前にすると、涙を流しながら話しかけた。
「君は、それで幸せだったのかい? 」
頬に優しい風があたると、ローキは青い空を見上げ優しく微笑んだ。
魔人ドルヂェがかけた時の凍結魔法は消え、王都フェルナンの時が動き出した。
ローキは傷ついたアコウを抱き上げると王都の中へ運び入れた。
・・・・・・
・・
凍結されたブレスから長く漆黒の影が地面に伸びた。その漆黒の穴から這い上がる様に魔人が姿を現した。
「おのれぇ.... やってくれたな、小娘め.. い、今は逃げなくては.. 今は」
ジャクの羽根を使いヨロヨロと飛ぶ魔人は、シェクタ国アルデン王の姿をしていた。
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