敵ボスがぼくのパイロット?
老将が額を叩いた。
「はっはっは!お主、巨人の声が聞こえると申すか。まるで初代太陽王気取りじゃな」
リガが「でもーー」といいかけたのを、老将が遮る。
「〝先生〟、どうだ? 太陽王以降の千年、操縦者が巨人の声を聞くことはあったかの?」
再生槽の底に戻りかけていた先生が、階段の途中で振り返った。
「巨人の心を感じた、という報告はあっても〝声〟を聞いたというのはありませんね。もっとも、精神逆流防止装置が壊れている機体に乗ってしまった連中は別ですが。帝都の療養院で、拘束具に囚われながら『巨人が話しかけてきた』『俺が巨人だ』とわめいておりますよ」
先生が戻ってきて、リガに顔を寄せる。
「しかし、この子は頭がおかしいようには見えない。もし、本当のことをいっているのだとすれば、じつに興味深い」
ぼくはリガの視覚を通して、分厚いレンズの奥の先生の目を見た。妙にうわつき、ギラギラと輝いて見える。
ヤズデギルドがいった。
「先生、いま重要なのは、この娘以外の人間がこの巨人を操れるかどうかだ。なぜ、ギレアドは巨人に拒否され、この娘は大丈夫なのだ?」
先生がさらにリガに顔を寄せる。
鼻をならして彼女の匂いを嗅いだ。
「適性、としかいいようがありませんね。そもそも、この世に巨人を操れる者と操れない者がいる理由すらわかっていないのです。操れる者の中でのさらなる違いなど、推測すらできませんよ」
老将がいう。
「わしらは、我が軍の中に、この機体を操縦できる者がいないかを知りたいのだ。どうすればよい?」
「それはかんたんです。全員を乗せてみればよろしい。一人くらいは、適性のあるものが見つかるでしょう」
老将がギレアドをあごでさす。
「それは無理じゃ。操縦士が軒並みこうなったらどうする」
「週に一度ずつ試せばよいではありませんか」
「その間、ずっとこの娘を生かしておくのか? 熱の無駄にもほどがあるわい」
ヤズデギルドが頭を振る。
「言い争いはやめよ。先生のいうとおりにすればよい。まずはわたしが乗ろう」
老将のみならず、先生も顔色を変えた。
先生がいう。
「殿下、なにをおっしゃるのですか。殿下はいちばん最後であるべきでしょう。わたしたちの軍団長なのですから」
「いや、最初だ。わたしは軍団内でもっとも腕が立つし、太陽王の子孫でもある。わたしがいちばん動かせる可能性が高いだろう。なら、わたしから行くのが効率的というものだ」
彼女はそういって、重そうなコートを脱ぎ捨てた。