大出力イメージによる肉体攻撃
リガがいった。
「そんな。めっそうもありません。空腹でよろけただけです。なにしろ、長いこと食べておりませんでしたので」
ギレアドが肩から手を離した。
「おう、そうだったね。勘違いしてしまったかな? とはいえ、安全策は取らせてもらうよ」
彼は自分のコートの襟首から紐を抜き取ると、リガの右手を手早く手すりと結びつけた。
老将がうなずく。
「うむ、それでよい」
「では、いきましょうか」ギレアドはヤズデギルドと老将に一礼すると、ひらりと手すりを乗り越え、ぼくの装甲の上に降り立った。
「先生、失礼するよ」といって、彼の肩を叩き、操縦席に潜り込む。
リガが、〝ヴァミシュラーさん!〟と念じた。
彼女の後ろでは、老将が腰に差した剣の柄に手をかけている。さきほどのギレアドとのやりとりを見て警戒を強めたらしい。
老将がヤズデギルドだけに聞こえるようささやいた。
「殿下、ギレアドが巨人を動かせることを確認できたら、すぐに処分いたしますぞ。奴の言うとおりでしたら、この娘を生かしておくのは危険が大きすぎますからな」
ヤズデギルドが顔をしかめる。
「致し方ないが、できるだけ血が流れないようにな。先生の再生槽に入ると、ひともんちゃくあるぞ」
「心得ております」
リガの顔は蒼白だ。
ぼくを通して、いまのヤズデギルドたちの会話を彼女も聞いているからだ。
ぼくのなかでギレアドがつぶやくのが聞こえた。
「人喰いどもの機体にしては、よくできているじゃないか。操縦装備は太陽帝国圏のものだな。映像出力は〝大山脈〟の連中のものか。総熱量が、9862? 無補給でここまで来られるわけだ。精神逆流防止装置は、うん、美しい。問題なく機能してる」
ギレアドが外に向かっていう。
「殿下、それじゃあいきますよ」
彼が両の手で操縦桿を握った。
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次の瞬間、ギレアドは両手を離すとコクピットの外に飛び出し、再生槽に転げ落ちた。身を捩りながら激しく嘔吐する。
先生が「再生槽を汚すな!」と叫んだ。
ヤズデギルドが赤い眉をひそめる。
「なんだ?」
老将が刀の柄を強く握った。
「娘」
リガが首を横にふる。
「わ、わたしはなにも。いったではありませんか。あの機体はわたししか動かせないと」
ギレアドに思いもかけない症状をもたらした原因は、精神逆流防止装置だ。この装置は、パイロットが思考で巨人を操作する際、巨人からのフィードバックを制限する働きがある。
これのおかげで、巨人の腕が吹き飛ばされても、パイロットは軽い痛みを感じるだけで済むし、巨人が死んでもパイロットが死ぬことはない。そして、巨人の思考が流れ込むこともない。
このグレープフルーツほどの肉塊こそ操縦システムの要なのだ。
ぼくのそれは、外見こそ正常だが、じっさいは壊れたままだ。そのため、パイロットが巨人の脳の一部を従えるように、ぼくの側もパイロットの脳の一部を従える。
念じれば、テレパシーでの会話もできるし、
より強く思えば、ぼくが地球で作っていた社内報のイメージを渡すこともできる。
そして、胃を捻りあげるイメージを巨人脳の出力で遠慮なくぶつければ、パイロットは中野の路地裏で見かける酔っ払いのように嘔吐することになる。
先生とその助手が、再生槽の底に降り、ギレアドをヤズデギルドたちのところに引き上げた。
ヤズデギルドがいう。
「なにがあったんだ?」
ギレアドが服の袖で吐瀉物をぬぐった。
「わかりません。操縦桿を握った途端に吐き気が込み上げてきました」
息も絶え絶えといった様子だ。
ヤズデギルドがリガを見た。
「これが、お前しか操縦できない、というやつか? どういうことか教えてもらおうか」
「ヴァミシュラーさんがいうには、わたし以外の操縦者に自分を操らせる気はないそうなのです」
ヤズデギルドが片方の眉をあげた。
「だれだ、そのヴァミシュラーさんというのは?」
リガがぼくを指さした。




