表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/172

女房言葉と消費カロリーの関係

ヤズデギルドがいう。

「ギレアド、お前はさきほどの山の民との戦いに出なかったではないか。ほかのものはみな疲れているのだ」


「いやあ、万が一にも防衛線が抜かれるとまずいと思いましてねえ。あえて船に残っていたんですよ俺は。最後の備えというやつです」


老将がにらむ。

「お主、また誰かと乳繰り合っていたのではあるまいな?」


「まさか!めっそうもない!」


能天気な会話だ。


この場で緊張しているのは、命の瀬戸際にいるリガだけだ。


その顔は、心なしか青ざめているように見えた。


彼女が思念でいう。

〝ヴァミシュラーさん。もう動けるようになったんですか?〟


〝ああ、熱を補給してもらったから大丈夫だと思う〟


〝わかりました〟


彼女がほんのわずか、身をかがめる。


ヤズデギルドたちの隙をつき、ぼくに飛び乗る気だ。


以心伝心、ぼくは彼女の中で決意が燃え上がるのを感じていた。


格納庫のなかは勝利の直後ということもあり、浮かれた雰囲気が漂っている。


格納庫のサイズは、体育館二つ分ほどか。巨人用の再生槽が二列に並び、半分ほどに巨人が入っていた。整備士や助手が、傷ついた巨人の装甲を外したり、天井からぶら下がるパイプで熱の補給を行なっている。


ぼくの聴覚は、二つ隣の再生槽の前で話し込む、整備士とパイロットの会話を捉えていた。


金色の髪を逆立てた、十代後半ほどのパイロットが、アメフト選手のようなプロテクターを脱ぎながらいう。

「さっきの、見ててくれたか? 敵の黒い巨人の首を、この俺の一撃がすっとばしたんだぜ?」


整備士ーー赤銅色の髪の毛を複雑に編み込んだ美しい女性ーーが、ニコリともせずにいう。


「帝国騎士が蛮族相手に勝つのは当然。それより、なんだこれは。なぜヘクトマイアの足がこうも汚れている。この指のかけらはどこからきた」


「そりゃあ、蛮族どもを踏み潰したからだけど」


整備士がため息をつく。

「前にもいったろう。汚物を再生槽に持ち込むなと。できるかぎり、外で落としてから来い」


「わるいわるい。次から気をつけるよ」


「なら、いい」


パイロットが頭をかいた。

「ところでさあ、前からいおうと思ってたけど、その口調って、団長の真似なのかい? 正直、きみにはあんまりに似合ってないぜ? 女性なんだから、もう少し可愛らしくしたほうが、いいと思うんだけど。名家のお嬢さんなんだろ??? 親が見たら悲しむぜ」


整備士がレンチを手に取る。

「貴様、わたしが敬愛するお方を馬鹿にしているのか? 団長に可愛げがないといいたいのか? 正規軍の女性士官、下士官に女言葉を使うものなどいない! 常識だぞ? 女言葉は男言葉より発音数が多い。ほんの僅かな熱の消費が生死に直結する戦場で、無駄に熱を使う余裕なんてない!」


「ま、まったまった!言葉のあやだ!俺は辺境軍から移籍したばかりだから、中央軍の作法は知らなかったんだよ!」


〝蛮族の指〟のくだりさえなければ、微笑ましいやりとりだったかもしれない。


一方、斜向かいの再生槽では、若い男の操縦士が「洗濯!」といって、年老いた男性整備士に服を投げた。


ヤズデギルドが目を留めた。


「ヘブロン翁、シェルバにいっておけ。操縦の適性は希少な才能だが、傲慢は身を滅ぼすとな。整備士がいなければ巨人は動かせない」


老将が頭を下げた。

「指導が行き届かず、まことにお恥ずかしい限りです」


いまだ!


リガとぼくは思った。


ヤズデギルドと老将の意識がこちらから逸れている。

ここで、鉄柵を乗りこえて、装甲の上に立つ先生を突き飛ばし、操縦席に潜り込む。


ただちに精神を通わせ、一体化。あとは野となれ山となれだ!


が、リガが飛び出そうとした瞬間、若いギレアドが彼女の肩を押さえた。優男風なのにすごい力だ。


ギレアドがいう。

「おいおい、乗るのはぼくだぜ? まさか、自分で乗り込んで、仲間の復讐をはたすつもりだったかい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 蛮族ねえ。この帝国はその蛮族を救って回ってたのにな 民族関係ない和民だし
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ