それは大きな大火の中で。
目の前には眩しいような熱い様な光景に包まれる。
俺はそんな火事の現場の最中にいた。
「おい! 誰かいるか!」
深夜一時。俺は熱い炎の中で叫び声をあげつつ、進んでいく。
ここは俺が住んでいる大学の寮。それが何故こんなに火の海になっているのかは、俺にも分からない。焦げ臭さが気になって起きたら、もう既にこんな感じになっていたのだ。
大学は夏季休暇中なので、実家へ帰省している生徒が殆どなのだが、俺みたいに帰るのが面倒くさいという生徒も少なからずいるハズだ。
もしかしたら、熟睡して火事に気づいてない奴も居るかもしれないので、俺は避難口を探しながら声を出して、他に人間が居ないか確かめながら進んでいく。
しかし、叫びすぎると段々と喉が渇いてくるな。
火事の熱で体が汗でベトベトして気持ち悪い。それと比例して、どんどんと体内の水分が失われていくような気がした。
「誰か!」
「にゃーーーーーー!!!!!!」
俺が叫んでいると、変な叫び声が聞こえた。
しかも、妙に聞き覚えがあるものだ。
「この声は……」
俺は217号室へと向かい、勢いよく扉を蹴破った。すると、
「おれのぉ……努力の結晶がぁぁぁああああ」
テレビの前で号泣している奴の姿が見えた。
「加藤、こんな緊急事態に何しているんだ?」
「田中ぁ! 聞いてくれよ。徹夜して折角ノーセーブ縛りでゲームクリアしようとしてたのに、いきなり停電して、俺の二時間の努力が水の泡に」
ぶわっと涙を流す加藤。そんな奴に俺はため息を漏らす。
「加藤、よく廊下を見てみろ」
「廊下……? えっ! なんで寮が燃えてんの!?」
寮が火の海になっているのを見て、驚愕する加藤。
「この通りだから、停電するのも当たり前だ。こんな場所に留まっていたら危ないからとっとと逃げるぞ?」
「ヤダ」
「は?」
予想外の答えに俺は真顔になってしまう。
「この愛の結晶のゲーム達を捨てて逃げるだなんて、出来ない!」
「そんなの、助かってから買いなおしても遅くないだろ?」
「いいや、ダメだ」
そんな押し問答が始まる。段々と建物の酸素も薄くなってきて息苦しくなっていく、このままでは共倒れだ。
俺は加藤の腕をがっしりと掴んで、部屋から脱出する。
「いいから、逃げるんだ」
「やだー!! 俺の愛人がー!」
加藤が暴れるので離さない様にしながら部屋を出る。
コイツが根っからのゲーマーなのは重々分かってはいるつもりだが、それで命を落としてもらっては元も子もない。
「あれぇ? 田中と加藤じゃん。やっほー」
必死に俺が加藤を引っ張って脱出している中、呑気な声が背後から聞こえた。
其処には寝ぼけ眼の茶髪野郎の姿があった。
「鈴木。お前、実家に帰ったはずじゃなかったのか?」
俺の記憶が確かならば、昨日、コイツは地元へ帰ると俺を含め知り合いに言って廻っていたハズだ。
「いやぁ、面倒くさくなっちゃって、帰るの辞めたんだよ。それで、爆睡してたらこんな時間だし、火事だし、どうしよっかなぁーって彷徨ってたら見慣れた後ろ姿が二人いたからね」
ニコニコとしながら鈴木は語る。
「ちょうどいい。加藤を一緒に連れ出すぞ。手を離したらまた部屋に帰りそうだからね」
「うん、りょーかい」
「はなせー! 俺のセーブデータがー」
まだ暴れる加藤を俺と鈴木で引っ張りながら進んでいく。
「加藤さー、余り暴れると酸素が薄くなって気絶しちゃうよー? 大人しくしなよー」
「やだやだ! 俺はゲームで死ねるなら本望なんだー」
「馬鹿なこと言ってないで、行くぞ」
俺は脱出経路を確保しながら歩いていく。
しかし、なかなか外へ出ることが出来ない。
「寮って、こんなに広かったか……?」
進みながらふと冷静に考えてみる。俺たちの住んでいる寮は三階建てでそれぞれ20部屋くらいしか部屋が存在しないハズだ。
ふと、廊下に見える部屋番号を見る。すると、見えた番号は、
No.258
有りもしない部屋番号が其処にはあった。しかも、下の階へと続く階段らしきものも見えない。
「そういえばさー、田中」
「何だ? 鈴木」
「この寮って、俺たちが入学したときに建てられたばかりの新築だったよね? なんで、付いているスプリンクラーが作動してないんだろ?」
鈴木の一言でハッとする。普通は火事の際にはスプリンクラーが作動するハズだ。なのに、全く作動せずに周囲はゴウゴウと燃えている。
全てにおいて何かがおかしい。
「とりあえず、急いで此処から抜け出さないと。ここは何かが……」
俺がさっさと逃げようとしたその時、
ピシッ。
床に亀裂が入る。火事の熱で建物が耐えられなくなったらしい。
「走るぞ!」
崩落が始まっていく建物から逃げるために、俺と鈴木は加藤を引っ張りながら走る。
しかし、崩落は俺たちの速さよりも早かったらしい。あっという間に、床が抜け、俺たちは下へと落下していく。
三人は綺麗に落ちていく。
落下する方向を見ると、真っ暗で何も見えない。
あー、俺の人生終わりだなぁーとまた上をみると、
火の海がまるで女神のように見えたのだった。




