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【書籍化】錬金術師カレンはもう妥協しません【2巻発売・コミカライズ】  作者: 山梨ネコ
第八章 萌芽の季節編

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憧れる者2

「お嬢ちゃんたち、余所から来た新人冒険者か?」

「顔を貸しな。エーレルト領都の冒険者ギルドの流儀ってやつを教えてやるよ」

「テンプレキター!?」


二人の冒険者の男たちに行く手を阻まれ、カレンははしゃいだ声をあげた。

錬金術師カレン。生まれてから二十年。

冒険者街では生まれながらにして地元の冒険者たちに知られていたので、ついぞこの類いの異世界転生ロマンを味わったことがない。


「てん……きた? なんだ??」


男たちは困惑していた。

ついでにオティーリエも困惑していた。


「申し訳ございません、カレン様。私も寡聞にして存じ上げず……」

「いえ、誰も知らないと思います……」


カレンにしかわからない、いわば鳴き声である。


「おまえら、俺たちを馬鹿にしてんのか?」

「チッ! ちょっとは優しくしてやろうと思ったが、やめだやめだ!」


冒険者たちは苛立ちはじめた。

カレンたちを余所から来た冒険者と見て、一体何を優しくしようとしていたのか。

ギルド員は「ギルド内で揉め事はよせよ」と言うだけで、止めようとしてくれる気配はない。


カレンとオティーリエは自分たちより二回りほどの巨体を持つ冒険者が怒気を露わにしはじめても、もまったく動じていなかった。

オティーリエは狩猟祭の表彰者だから、彼らより強いのかもしれない。

それにカレンも、彼らの強さはわからないまでも、恐さは感じなかった。


「カレン、度胸あんじゃん」

「ドラゴンの方が怖いよ、実際」

「そりゃそーでしょ」


テレサがとカレンがコソコソ言葉を交わしていると、筋骨隆々の冒険者が棍棒で床を叩いた。

さすがにテレサもビクッと体を震わせ硬直する。

そんなテレサをカレンは庇うように立ち位置を変更した。


この男たちが一体カレンとオティーリエ、そしてテレサをどうするつもりなのか――。


「おい! 床を壊すなよ!!」

「だけどよおやっさん――余所者がエーレルト領都のガキを使って何を企んでるんだぜ!? 見過ごせるかよ!」


普通にいい人たちだった。

誤解があって、言いがかりではあるのだが、カレンは和んでしまった。

こういうところが冒険者のいいところで、カレンが彼らを好きなところだ。


単純な人が多いものの、単純に強者絶対というだけなわけでもないのだ。


「何を笑ってやがる」

「俺たちには止められないとでも思ってるのか!?」

「それはですね――」


詰め寄ってくる冒険者たちにカレンがのほほんと説明しようとした時――まるでドラゴンを前にした時のような魔力の圧力がギルド内に広がった。

その次の瞬間、カレンの前に立つ二人の冒険者が浮いた。


「おまえらオレのねーちゃんに何してんだよ、なあ?」

「あっトール。待って待って、誤解誤解!」


二人の冒険者の頭に後頭部からアイアンクローをかけるトールが、止めに入るカレンに眉をひそめた。


「何か誤解があったとしてもさ、ねーちゃんがあんなふうに怒鳴られるようなことするはずねーじゃん? だから誤解したこいつらが悪いだろ?」

「そうでもないから離してあげて! いい人たちだから!」

「他の誰に対していい人でも、ねーちゃんに対して態度が悪いならダメだろ」

「トール!」


トールは唇を尖らせつつもがく冒険者たちを放り投げた。

鍛えられてはいても丸太のような腕をした冒険者より、その冒険者を放り投げるトールの腕は細腕だった。

なのに冒険者たちは天井スレスレに放物線を描いて飛んでいき、地元の仲間冒険者たちがなんとかキャッチしていた。


トールの胸にはAランク冒険者の証である剣と杖の絵が刻まれた紅蓮のペンダントが輝いている。

ヒヒイロカネのペンダントは、ヒヒイロカネ合金の戦鎚を扱うトールによく似合っていた。

見れば入口付近に佇むトールのパーティーメンバーたちも、同様にその胸に赤いペンダントを輝かせていた。


「あいつらなんでねーちゃんに絡んでたんだよ?」

「わたしがこの子にひどいことをしようとしてるのを、止めようとしてくれてたんだよ」


そう言ってカレンがテレサを見やると、うつむいてぶるぶると震えていた。

トールの圧力に参ってしまったのだろう。

そもそもの圧力はドラゴンの時よりはマシで、カレンに向けられたわけでもなかったからカレンは驚いただけだったが、見ればオティーリエの顔色もあまりよくない。


「ねーちゃんがガキにひどいこととかするわけなくね?」

「それがそうでもないんだよね」


冒険者になりたいのはテレサの意志で、止めても無駄だからカレンがそのサポートを引き受けはした。

それが現実ではあるものの、そんな経緯を無視すればカレンは才能のない魔力無しの子どもを冒険者として働かせる悪い大人だ。


「わたしね、本当に少ない可能性だけど、この子がすごいことをやってくれるんじゃないかって期待してるの。その期待を試すために、百人いれば百人が止めるような死地にこの子を送り込もうとしているの。もちろん簡単には死なないように支援するつもりだけど――絶対に死なないなんて保証はできない」


前世の自分なら、そもそも冒険者になる道を諦めさせようとするだろう。

だが今のカレンはその道は選ばない。

そもそも、テレサに強制などできないのだ。

だからせめて協力して、死を回避させて――という名目で、カレンは確かにテレサの言う通り、テレサを実験台にするも同然だった。


「わたし、本当にひどいことをしようとしているの。だから、まともな人なら止めて当然なんだよ。後であの人たちに謝ってね」

「ねーちゃんがそう言うなら仕方ねーなあ」


トールは溜息を吐いて了承すると、うつむくテレサを見下ろした。


「で、オレたちの他に後援してやるつもりのガキって、コイツか?」

「そうそう。テレサって言うの」


驚いたことにテレサはうつむいたままカレンの背後に隠れた。

ユリウスに圧力をかけられた時は思いきり噛みついていたのに、トールのことは怖いのだろうか。

確かに、トールの方が圧が強かったかもしれない……とカレンが分析していると、トールはテレサの目線にしゃがみ込んだ。


「オレはトール。鮮血の雷ってパーティーの頭で、ねーちゃんに後援されてる冒険者としては先輩だ。ねーちゃんをスポンサーに持つ者同士よろしくな、テレサ」


そう言ってトールが手を差し出すと、テレサはおずおずとその手を握り返した。

握手を終えるとトールは慣れた足取りで冒険者ギルドの奥に入っていった。

トールたちはエーレルト領都の冒険者ギルドに用があってきたらしい。


「また後でね、カレンさん」


一緒に来ていたワンダたちも後に続く。

上級冒険者だけが立ち入れる領域である。

ギルド員たちが慌ただしく出迎えていた。


「つまりあの女は三十階層攻略者の鮮血の姉貴ってことで――」

「あいつの姉って、最近領主になった、あの!?」


こうなれば当然、カレンの正体はバレバレである。


「錬金術師カレン――ユリウス様の嫁さんだ!!」

「そのとーり!!」

「結婚はまだですわね」


応じるカレンにオティーリエから冷静な突っ込みが入りつつ。

カレンたちは冒険者ギルドから脱出した。


馬車に乗り込むと、カレンはいやに静かなテレサに声をかけた。


「テレサ、大丈夫? トールはああ見えて怖い人じゃないから――」

「――Aランク冒険者と、握手しちゃった」

「あれっ?」


わなわな震えていたかと思うと、顔を上げたテレサの目は潤んでいた。


「あんた、ホントに、姉なんだ? すごい、すごい、すごすぎる!! あたし、Aランク冒険者としゃべっちゃった!! すごーい!!」


テレサは目を潤ませ、口をわななかせ、顔を興奮で真っ赤にしていた。

トールを怖がっていたわけではなくて、感動に打ち震えていたのだ。


カレンは意外な反応に目をぱちくりした。


「ユリウスだって高ランク冒険者と同じくらい強い人なのに、なんだか態度が違い過ぎない?」

「冒険者と貴族じゃ全然違うじゃん! 三十階層を攻略したAランクの冒険者様だよ!?」


テレサにとって、高ランク冒険者というものは特別な存在らしい。

以前からトールとの関係いついては話していたのに、これまでテレサはカレンの話を話半分にしか聞いていなかったようである。


「同じスポンサーを持つ冒険者同士、だって! えへへ~」


そのスポンサーというのがカレンだということはすっぽ抜けている様子で、興奮のあまりジタバタさせた足でカレンの脛を蹴りまくっている。

オティーリエが注意しようとするのをカレンは止めた。


これまでに見たことがないくらいテレサが無邪気な子どものように喜んでいるのを、カレンは微笑ましく見守っていた。


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錬金術師カレン1
― 新着の感想 ―
トールの武器は槍じゃなくて戦鎚(ハンマー)ですよね… AIに書いてもらうのは別に良いんですが齟齬がないようにしてほしいです。 だってトールだからハンマーだよね?って話で武器にしたって話だったのに…
トール武器って槍だったっけ??
今日もトール君がお姉ちゃんだけは傷つけない猛獣だった パーティメンバーの皆さん、表に出さないだけでやっぱり(気持ち悪……)ってなってんのかな テレサちゃんというか冒険者たちはみんな冒険者が一番で、貴…
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