第五章 7
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カミクズが、塚本の体を迂回して転がり出した。広いリビングで楕円を描く。
「ホオッ、滑らかに転がってますねえ」
たったこれだけの動きでご主人は、感心している。
カミクズは、楕円を描く。周回しながら、スラロームを挟み込んだ。それも、ゆるやかな大きなターンをしたかと思えば、小さく鋭いターンをする。カーペットに描かれる白い筋が、塚本には芸術的にさえ見えて来る。
「素晴らしい」
ご主人が、前かがみになれば、「本当に」と平田さんもご主人の前かがみに付き合う。
カミクズのこの夜の一番のパフォーマンスは、連続ジャンプだった。痩せたカラスの時は、斜め上方にだったが、ほぼ真上に一回目より二回目、二回目より三回目を高くジャンプして見せたのである。
塚本は、同じボタン繰り返し押すことになったが、ふたりともリモコン操作など全く見ていない。
ふたりの盛大な拍手がリビングに鳴り響いた。それが、合図だったかにカミクズは、リビングの隅の指定席に帰って行った。最後に横の尖がりがカーペットにあたる位に左右に揺れた。
もう、最高のエンターティナーぶりに塚本も盛大な拍手をしたくなった。
お客様は、すっかり満足してくれている。もう転がらなくていいからな。カミクズに無言の語り掛けをする。
「こんなところでいいでしょうか」
塚本は、ご主人に言った。
「十分でございます。如何にカミクズちゃんが素晴らしい発明品か分かりました。特許は大丈夫ですか?」
「そのように努めております」
「白じゃなくて色を塗った方がいいんじゃないですか?」
「私は、白のままで、特殊コーティングの材料を塗っているんでどんなに土を付けても、雑巾の上を往復させるだけで綺麗になるを売りにした方がいいような気がするけど」
「まあ、その辺は塚本さんにお任せして、そろそろ失礼しよう」
「すいません。夜分にお邪魔して」
「カミクズちゃん、さよなら」
「バイバイ、ゴンジロウとレンと仲良くしてあげてね」
カミクズが、小さく揺れた。
玄関でサンダルのような靴を履きながら平田さんが言った。
「カラスって、記憶力が、とてもいいんですって。私もゴンジロウとレンの散歩は当分させませんけど、カミクズちゃんもしばらく家に置いた方がいいと思いますよ」
「そうですね。とにかく、シェルターのペット用ケースを忘れずに持って行きます」
塚本は、答えたのだった。
平田さん夫妻が帰り、急に静かになった。
カミクズに近寄り、塚本は、カミクズに礼を言った。
「ありがとうね。喜んで帰って行ってくれた。だんだんに高くなる連続ジャンプ見事だったな」
塚本が言うと、カミクズは、少し転がり、元の場所に戻った。
その夜、塚本は、超常現象やら異次元やら異世界やら様々な言葉に翻弄された。
何だっていい。このまま、カミクズが、榊コーポ一〇三号室にいついてくれさえすれば。塚本は、心の底から思ったのだった。




