真相は闇の中 誰もが消えて 現れる
一樹が慟哭の後立ち上がり私ににじり寄ってきた。
「お前が伊央星羅を殺したのか。お前さえいなければ」
そう言って私の胸ぐらをつかんで壁に押し付けよう突進してきた。だが、私は紺色のカーテンの前に立っていた。その奥にある部屋に押し込まれる。私の体は台に当たり上半身が台の上に乗る。
「一樹、見て。この部屋がすべてのはじまりだから」
そう言うといつの間にかこの部屋に那珂川さんとトモがやってきていた。電気がつく。
「なんだここは。手術室か?」
周りは白を基調した部屋だ。棚があり薬品が並んでいる。白衣がつるされていて大きな自動ドアがある。
「この奥が手術室よ。ここは処置室。そして、今私が倒されている場所が処置室にあるストレッチャーよ」
「だからなんだと言うんだ。お前が伊央星羅を殺したことに変わりないだろう」
一樹は私の首を絞めてくる。このまま終わるのもいいかもしれない。終れるというのなら。
「一樹、違うんだ」
そう言って一樹の肩に手を置きながらトモが言う。やはりトモか。そうだろうな。私はそう思っていた。一樹の手が緩む。体を起こそうとしたら那珂川さんが私の目の前にどこからか見つけてきたメスを突きつけてこう言ってきた。
「じゃあ、説明して。何があったのか。あなたが何者かを」
説明して信じてもらえるとは思えない。そう思っていたら拍手が聞こえてきた。イヤなタイミングで会いたくない人物が出てきた。そう、探偵がいるのだ。すぐそこに。探偵が言う。
「いや。面白い展開になってきましたから来ましたよ」
おかっぱの黒い髪、白い肌、赤い唇。変えることのできない結末なのだろうか。それも仕方がないのかもしれない。私は決めた。
「伊央星羅が何者なのか。私たちが何者なのか。この学園が何を目的としているのか。全てが答えなの。あなたたちは何も感じなかったの。このいびつな学園に。あなたたちは覚えていないの。この場所を。この先にある場所を」
私は起き上がり、目の前にある棚の横にあるボタンを押した。棚がスライドしていく。どうしてこの学園にある建物はこういう細工が好きなのだろう。その奥に円柱が何本もある。地面から天井まで突き刺さっている。そして、その円柱の中に人がいるのだ。すべて同じ顔をしている。そう、彼女が一番大変だったのだ。
「どうして伊央星羅がここに。いや、なんでこんなに大勢いるんだ」
一樹が言う。わかっていない。彼女が何者かということを。
「彼女だけは特別なの。彼女が一番古い検体をつかって再生したクローンだからよ。この学園は実験場なのよ。古い検体をつかってどれだけ人を再現できるかという。けれど、ある程度のクローンが作れるようになった。次に研究したのは記憶よ。作られたクローンに他人の記憶をトレースする。それでどういう影響がでるのかを観測する。それがこのアリスの杜学園の真実よ。あなたも、あなたもただの作り物。実験動物なのよ」
私はそう言った。そして、私も実験されたのだ。私が受けたのは記憶の再トレース。この記憶は私のものじゃない。だが、私という個人が何者であるのかなんてわからない。一樹が言う。
「なんだよそれ。俺らはじゃあ、何だというんだ」
一樹は怒鳴っている。だが、那珂川さんは自分の身体を抱きしめて震えている。トモだけは壁にもたれて笑っている。那珂川さんが言う。
「あの、洋館に向かうまでにあった棺みたいなもの。あれが私たちだというの?」
流石に優等生なだけある。
「その通りよ。古い検体でどれだけ復元できるのか。次に復元できて問題がないから記憶データを入れて行ったのよ。
ある程度実験は成功した。たまに不具合がある検体は削除されていく。それは臓器提供の場合もあれば、記憶データの実験に使われることもある。どれだけ脳に負荷をかけていいのかわからないから」
話しながら感情が薄れていくのがわかる。一樹が言う。
「お前は一体誰なんだよ。こんな非人道的なことができる。お前は」
そう、私の記憶は複数の人間の記憶が入っている。いや、この計画の立案者だ。
「向原藤一郎。この学園の理事長よ。でも、オリジナルじゃない。そうでしょ。オリジナルはそこにいるのだから」
私はそう言ってメスを投げつけた。探偵の顔に。探偵はよけない。ただ、探偵の顔が2つになり、4つになっただけだ。そうモニターが割れただけだ。
「おやおや、僕を向原藤一郎というのかい。僕はただの傍観者さ。まあ、君が僕のことを向原藤一郎と呼びたいというのならそれを止めはしないさ。でも、おかしなものじゃないか。来るのか向かうのかなんてただの文字遊びにしか見えない。僕が何者かなんて些末なことさ。それで、君はどうしたいというんだ」
私は割れたモニターに叫んだ。
「私を返せ。私たちはおもちゃじゃない」
私はこの場所にいた。そして向原藤一郎を殺したはずだった。だが、仮面の下は違う人間の顔だった。
今回も同じ。あの場所に立たされるのはただの出来損ない。失敗作だ。そして、いつもモニター越しに現れては介入をしてくる。探偵、いや、向原藤一郎が言う。
でも、私はどうしてあの時うまく行かなかったのだ。誰かに殴られたのを覚えている。だが、その後は思い出せない。いや、この記憶自体も誰のものだ。わからない。
「それが望みなのかい?君はすべてを知っているように話しているが、本当に君は知っているのかい?まあ、すべて僕にとってはどうでもいいことだけれどね」
私の不安をこの探偵は、向原藤一郎はついてくる。
「もうやめよう。こんなことをしても何にもならない」
どこからか声がした。私は首筋に痛みを感じて気が遠くなる。薄れゆく中聞こえたのはモニターからの声だ。
「この結末で満足かい?真実とはかなりかけ離れているけれどね」
だが、返事は聞こえない。さらにモニターから声がする。
「後始末はこれからかな。ねえ、君がしたことだろう。全て。うまく行ったと思っているのかい?それは間違いだよ。管理者の思惑通りさ。まあ、僕は退散するとするよ。あ、君には実はもう逃げる時間はないからね」
足音が聞こえる。だがもう目が開かない。
「麻酔のためのけしの花だからね」
それが私が聞けた最後の言葉だった。目の前に倒れている二人いる。二人共の髪が黒いことだけは覚えていた。




