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たどり着いた真実は、誰の望みでもないもの

 図書館で地下を探したけれど、見つかったのは校舎の見取り図だけだった。


「理事長がいるあの要塞みたいなものの図面がないな」


 一樹が言う。他の図面を見ると結構外に出る道が多いことがわかった。その図面をずっとトモが眺めている。何がそんなに面白いのだろうか。私にはわからなかった。


「まだ探していないところあるかな?」


 那珂川さんが言う。だが、広いとはいえ、よくまとめられている図書館だ。図面はすべて同じ引き出しに入ってあった。見たことがないくらい大きな本。図面しか書かれていない。まるでポスターとかみたいな大きさなのだ。


 そう思いながら私はどこでポスターを見たのか思い出せなかった。どこからか拍手が聞こえてきた。振り向くとそこに探偵がいた。


「おやおや、まだこんなところにいるのかい。もっと僕を楽しませてくれ給え」


 そう言って笑っている。相変わらず神出鬼没だ。一樹が言う。


「おい、お前は今回の犯人を知っているのだろう。教えてくれよ。犯人を、起こったことを。伊央星羅が今どこにいるかということを」


 リノリウムの床に座り込んで一樹が言う。探偵はどこからか取り出した椅子に座りこう言ってきた。


「僕が言ったことを君は無条件で信じるというのかね。それは面白いことだ。僕が言ったことが真実か嘘なのかそれすらも調べようとしない。


 与えられたものがただ、それが正しいと考えることを辞めて受け入れるのか。まあ、それも低俗な人間としては悲しい性なのかもしれない。だが、君は僕に何を提供するのかね。まさか僕に無償で情報を提供しろとでも言うのか?」


 そう言って探偵は笑っている。目がわらっていない。口だけが赤い。白い肌に赤が目立つ。一樹が言う。


「なら何を払えばいいのか。金か?」


「金。確かに重要なものだ。でも、この学園にいる限り何にお金がかかるというのかい。お金なんてこの学園にいる限り何の意味もないじゃないか。それに君は情報に見合うだけの金を持ち合わせているのかい?」


 私は一樹のことは知らない。お金持ちなのかどうかわからない。いつも、ジャージにジャンパーかダウンコートのかっこしかしていない。授業もどちらかというとジャージだ。ただ、学校指定のジャージじゃない。黒いジャージなのだ。結構かっこいいジャージ。でも、ジャージだ。


「いや、ない」


 一樹がそう言う。潔い返事だけれど、かっこわるいと思った。探偵が言う。


「面白い。まあ、だが、それだけだ。実際これが小説としてミステリー小説としたら後何人かが死ねばいいのかね。


 何人か犠牲者が出れば君たちでも真相にたどり着けるだろうね。一回目の事件は犯人も頑張るだろうが、一回目で犯行がばれなければ二回目は一回目より細かくなることはない。慢心するだろうからね。そうやってぼろがでるまで待っているがいいさ。そこに答えがあり、ヒントもいくらでも転がっているというのに君たちは何も見ずにただ、佇んでいる。一体何をしているのだろうと思うくらいだね」


 そう言って探偵は「サービスだ」と言って机を指差す。そこには図面が乱雑に置かれている。


「一体何がサービスだというんだ」


 一樹はそのまま座っている。だが、図面を見ていたトモが何を思ったのか大きく図面を動かしだした。


「こういうことか」


「ご名答」


 そう言って探偵は拍手をする。


「何がだ。まったくわからねえ」


 一樹の言葉にトモが説明をする。


「ここにある図面はもともと数がかなり足りないんだ。確かに建物の図面はある。でも、私たちは見たはずだ。あの洋館に行くまでの地下の道を。あの地下の図面はない。でも、旧文化棟の図面では地下に通ずる道だけがかかれてある」


「そりゃそうだろう。だって、この図面は旧文化棟のだから」


 一樹は椅子に座り直してそう言う。椅子を引いて足を机に乗せている。私と那珂川さんはトモの説明を待った。


「そう、旧文化棟の図面だからであっている。でも通路は存在するんだ。で、今この机にある図面は実際の建物の配置に合わせて並び替えたんだ。ちょうど一樹の前あたりが理事長の館があるところだ」


 そう、そこには何もおかれていない。一樹の足があるだけだ。トモがつづける。


「でも、理事長の館に近い建物。そう、この図書館からは通路が伸びている。そう、理事長の館に向かって」


 そこまで言われてわかった。その通路の先は通じているはずなのだ。一樹が言う。


「なら、行くか。それでお前はどうするんだ」


 一樹は探偵にそう聞いた。探偵が言う。


「僕の想像と違う展開になったら顔を出すかもね。まあ、そのほうが楽しそうでいいのだが、存分に君たちが僕を楽しませてくれることをせいぜい祈っているさ。まあ、僕をこれ以上退屈させないでくれ給え」


 そう言って探偵は消えていった。トモが言う。


「一樹、どうして探偵を誘ったりしたんだ」


「そうよ、着いてくるわけないじゃない」


 那珂川さんも言う。だが一樹はこう言った。


「そんなことわかっている。でも、ああ言ったらどう返答するのかなってな。それにあいつはどの立場なのか未だにわからない」


「それは同感ね」


 那珂川さんも言う。探偵が一番わからない存在だ。質問に答えてくれている。だが、それが真実なのか嘘なのか何なのかわからないのだ。ただ、単に楽しんでいるだけなのかもしれない。


「行こう。これ以上遅くなる前に」


 そう、トモが言った。だが、すでに日も落ちて暗くなってきている。お腹もすいてきた。早く終わらせてご飯を食べたい。そう私は思った。だが、終わらせて本当にいいのだろうかとも思う。


 なんだかこの4人でいられる時間が後わずかなように感じたからだ。


 図書館の奥にある本棚。その奥ではない。下にあるのだ。更に地下2階に行く梯子が出てきた。


「私先に降りるね。次は宗像さん」


 そう言って那珂川さんが先に降りていく。


「私、別に後でいいよ」


「ダメよ。私たちはスカートなんだから」


 確かにそれは重要だ。トモはともかく、一樹になんて見られたくない。でも、先に降りるだけの勇気はない。こういう時の那珂川さんは頼りになる。


 梯子を降りていく。降り切ると那珂川さんが待っていてくれた。そしていつの間にか那珂川さんの手には懐中電灯があった。


「それ、どうしたんですか?」


「ええ、図書館の中にあったのでちょっと拝借してきました。明かりがないと困りますからね」


 そう言って照らした先は前と同じように棺の様なものがある。ただ、こっちの棺はどちらかと言うと何か近代的なのだ。でも、近づいてみようとも思わない。


 トモと一樹が降りてきたのだまっすぐに進んだ。だがすぐにおかしいことに気が付いた。新しいのだ。この地下は。そしてもう一つ。扉を開けた先が明るかったのだ。


「これ、まずいな。すぐに見つかるかも」


「とりあえず、どこか上にあがりましょう」


 一樹と那珂川さんがそう話す。私も危険だと思った。目の前に階段がある。


「ここ上がりましょう」


 だが、上がった先の扉は鍵がかかっていて開かなかった。


「どうする?さらに上がるか?」


 確かに階段はまだ上に続いている。まだここは地下1階だ。でも、1階で階段があった場所などあっただろうか。わからない。


「とりあえずあがりましょう。地下に居たままだと見つかる可能性が高い」


 那珂川さんの言葉で私たちは階段をあがった。できるだけ足音を立てずに。



 1階にあがるとそこは電気がつけられていなかった。不思議と電気がついていない方が安心をする。泥棒の心理がこうなのだろうか。私はそう思った。すぐにいつものロの字になっているところに出た。あのお茶会の場所に向かう。一樹がゆっくり扉に手をかけると扉がギイギイと音を立てて開いた。私は少しだけ怖くなった。こんなにスムーズに行っていっていいのだろうか。だが、そう思っていても体はついて行ってしまう。あの理事長に問いただしたいからだ。


 でも、私は何をどう問いただせばいいんだ。理事長は私を知っていますね。私は何者なのですか?そう聞いても返ってくるのは「プライベートは詮索しないというルール」なのかもしれないし「宗像いお」という作られた私なのかもしれない。


 作られた私。でも、本当の私は行方不明だ。


「奥に居るな」


 一樹が小声でそう言ってきた。お茶会のあの部屋は暗かった。でも奥から光が漏れている。いつも理事長が消えていく場所だ。ドアの近くに一樹がにじり寄る。ドアに耳をつける。私も近づいたが物音がしない。


「開けるぞ」


 そう言って一樹が扉を開けた。理事長は向かい合うように机に座っていた。


「おや、こんな夜中に何の用ですか?」


 そう言って理事長が立ち上がる。威圧感がある。なんだろう。でも違和感があるのだ。何かが違う。部屋は赤い絨毯に重厚な木で出来た作業テーブル。テーブルの上には書類が置かれている。奥には本棚。そして、壁にはこの学園が受けたのであろう表彰された盾がおかれてある。そして、先のとがった金色のハンガーポールがあり、その奥に紺色のカーテンがかかってある。


 どうして私はこの部屋に違和感があるのだろう。はじめて来るはずの場所なのに。まるで何かが違っているようにしか感じられないのだ。


「規律を破った君たちには罰が必要ですね」


 その理事長に一樹はこう言った。


「俺たちはもうそんなことを恐れない。この質問に答えてくれたら帰ってやる。どうして伊央星羅をこの学園は受け入れたんだ」


 そう言っている一樹の足は震えている。理事長が言う。


「伊央星羅くんは優秀だったからね。だからこの学園に入学してきた。君たちも伊央星羅くんが優秀だったのを知っているだろう」


 おかしい。この学園にはテストがない。だから誰が成績優秀なのか判断する材料がない。一樹が言う。


「どうして向原藤一郎はおちぶれた來原家、いや伊央家の人間をこの学園に受け入れたんだ。何が目的なんだ。俺は彼氏だったからわかる。伊央星羅は触られるのを極端に嫌がっていた。向原。お前は伊央星羅に何をしたんだ!」


 一樹が言ったセリフは私は何かひっかかった。何かがおかしい。いや、私はこの部屋に来てからずっと頭が痛いのだ。周りを見る。トモの表情も何かおかしい。苦悶の表情になっている。理事長が言う。


「それは君が伊央星羅に嫌われていたからだろう。ひょっとしたら付き合っていると君が勝手に思っているだけだったんじゃないのかな?」


 那珂川さんが言う。


「それはないわ。私は伊央星羅と同室だったから。彼女はちゃんと一樹と向かい合っていた。私とも」


 那珂川さんの足も震えている。緊張をしているのがわかる。理事長が吐き捨てるように言った。


「向かい合うか。君たちは高校生の彼女に何を求めていたと言うのかね。そして、君たちが一番わかっていることだろう。伊央星羅を過去形で話しているということはそういうことだ。議論は終わりだ。もうすぐ警備員が来る。寮ではなく独居房に入ってもらおうか。少し頭を冷やすがいい」


 そう言って奥の紺色のカーテンの向こうに理事長が行こうとした。あそこに行かせてはいけない。私は走ってその前に立ちはだかった。


「なんだ?」


 冷たい言葉。だが、私には確認したいことがある。この違和感。そして、この場所を見た記憶。そして、すべてを。


「私は何者ですか?あなたは私を知っていますよね」


 私はそう言った。理事長は私のことを知っている。理事長が言う。


「君は宗像いおだ」


「いいえ、違う。私は宗像いおじゃない。私は來原家のもの?伊央家のもの?それとも向原家のもの?私は宗像いおじゃない。あなたが向原藤一郎でないように」


 私はそう言った。その瞬間電気が消えた。真っ暗になる。何かが動いた。暗闇の中。私はこの光景も知っている。そして、おそらく次に起こる光景も。


 明かりがついた。目の前に金のポールハンガーが刺さっている。理事長の胸に。むせ返るような血の臭い。そして、足元に流れ出た血が広がる。那珂川さんの悲鳴が聞こえた。一樹が私の元にやってくる。


「どういうことだ。お前がやったのか」


 私はそう言われたが首を横に振った。私ではない。けれど、私の中の何かが壊れていくのがわかる。


「こいつがどうして向原藤一郎でないと言ったんだ」


 一樹が私の肩をつかんで言う。顔が怖い。


「だって、私が向原藤一郎を殺したから。今日と同じようにポールを使って」


「なんだ、、と」


 一樹が下がっていく。私は徐々に思い出して来ている。あの日の事。私の事。


「なら、こいつは誰だって言うんだ」


 そう言って一樹は理事長の仮面とフードに手をかける。その下はパンドラの箱だ。開けない方がいい。でも、一樹は開けるだろう。そして、後悔をする。


 その仮面の下に出てきたのは女性だ。あの新聞で見た女性に似ている顔をしている。目は大きく見開いている。男性のように凛々しくも見える美人顔。中性的な顔立ちをしている。一樹が言う。


「どうして、どうして」


 一樹は慟哭した。那珂川さんの腰が抜けたのか座り込んでいる。


 目の前で死んでいるのは3人が探し求めていた伊央星羅だった。


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