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古い記事、事故がつれてきたもの

 図書館に来て驚いたことはその蔵書の数だ。学校の図書館といえば教室より少しだけ大きいだけと思っていたが実際はちがって、講堂くらいの広さでしかも3階まであるのだ。


 そして、その図書館の一角があらされていたというのだ。


 一角といっても教室1つ分はある。荒らされていたのは生物とくに植物系の書籍がおさめられていた場所と地域の歴史の書籍がおさめられていた所だ。


 生物系の場所はかなり本棚に本が戻されている。そこにいたのはサファイアだ。サファイアが言う。


「やあ、遅かったね。それにしてもこんなことができる相手は本に対して愛着がない。それに著者に対する尊敬もない。そう思うだろう」


 いや、そう言われてもそこまで私は本に思い入れがない。サファイアが言う。


「こっちは大丈夫だから地域歴史書の方お願いね」


 そう言われて私たちは移動をした。移動した先はひどかった。何をどうしたらこれほどまでの本が散乱するのだろうと思った。本棚に本が1冊も残っていないのだ。すべて床に落ちている。しかも無造作に放り投げたのだろうぐちゃぐちゃなのだ。


「これはひどい」


 那珂川さんがそう言う。


「とりあえず、片っ端から戻していくか。俺が脚立であがるからどんどん渡していってくれ」


「いや、エリアも広いから二手に分かれよう。一樹は那珂川さんと、私は宗像さんと向こう側を片付ける。端と端だからいつか重なるだろう」


 トモがそう言ってきた。確かにそのほうが早く終わりそうだ。でも、早く終わったからと言って何かしたいことがあるのかと言えばそうでもない。私は私を取り戻したいと思っていたけれど、私のカケラが見えてくると徐々に怖くもなってきたのだ。


 いや、違う。この先に待っているものが怖いのだ。何も考えずに地面に乱雑に落ちている本を手に取ってトモに渡していく。トモの手はキレイだ。指が細く長いのだ。渡すときについその指に見とれてしまった。


「どうしたの?」


 トモにそう言われた。言われて思い出した。


「バレッタ。ねえ、サファイアのバレッタってどこにあったの?」


 気になっていた。バレッタではない。どうして先に理事長室に、あんな居心地の悪いところに先に一人で入っていたのだろう。まるで誰かを避けているみたいだ。もしかして私なのだろうか。


 確かに昨日の行動は怪しかったと思う。いや、それ以外にもある。私が私自身を覚えていないことが何度もあるからだ。この学園に来てさえも。自分で切り出しながら不安になった。このきれいな、中性的なトモに厳しいことを言われたら私は立ち直れない。


 穏やかなトモ、いつも自分を崩さないトモ、どことなく大人びているトモ。でも、私はトモのことをそこまで知らない。知っていることはピアノを弾いていること。そして、さっき知った衝撃の事実。『スペア』という事実。


 でも、そう言われてなんだか納得できたこともある。トモは『今』を生きていないんだ。だから何が起きても動じない。強いのではない。この世界に関与していないのだ。執着していないのだ。でも、その雰囲気に私は惹かれている。トモが言う。


「ちょっと変わった所にあったんだ。でも、おかげで色んなことに気が付けたよ。ねえ、この図書館。誰が何の目的こんなことをしたんだろう」


 答えになっていない。何に気が付いたのだろう。踏み込んでいいのだろうか。でも、言われて思った。誰がなんでこんなことをしたのだろう。


「探し物でもしていたのかな?それか地震でもあったとか」


 私は思ったことを言った。実際これだけ本が散乱しているのだ。嫌がらせとも思ったけれど誰に対しての嫌がらせなのだろうと思った。この図書館を利用しているのはサファイアしか私は知らない。いや、他にもいるのだろう。これだけ蔵書がすごいのだ。トモが言う。


「確かに何かを探していたんだろうね。でも、それは本なのかな?この場所もそれにあの植物系の本棚も壁に面している場所なんだよね」


 言われてみればそうだ。私は近くにあった窓を開ける。そして奥を覗き込む。そこには継ぎ足された校舎が見える。距離はわからない。でも、通路があってもおかしくないくらいの距離はあるかもしれない。


「どうだった?」


 トモの言葉に私は頷いた。


「おいおいサボってんじゃねえぞ」


 遠くにいるはずの一樹の声が聞こえた。だが、私の動きを見てすぐ那珂川さんは近くの窓を開きに行った。


 那珂川さんはすぐに一樹に話し出す。私たちはそこから真剣だった。本を戻しながら探していたのだ。


 昨日のような隠し扉を。でも、見つからない。トモは変わらずマイペースだった。トモが言う。


「バレッタだけれど」


 小声だったので本を渡すときにトモに近づいた。ものすごく肌がきれいだった。白くてきめ細かで男性に見えなかった。


「一樹が持っていた。多分、一樹は何かを隠している」


 小声で話すトモのそのセリフは私の中で何かが壊れる音で消えそうだった。


「どういう事?」


「さあ、でもさっき『サファイアにバレッタ返したよ』と言ったら『ありがとう』って帰って来た」


 そんなことがあったのかと思った。でも、トモはどう思っているのだろう。表情は相変わらず読めない。


「トモは一樹を信じているの?」


 私は震えるような声でそう聞いた。トモが言う。


「信じるとは違う。でも、誰にだって隠したいことや話していないことはあるから。それに私にはどうでもいいことだしね」


 そう言って笑ったトモはいつも通りだった。私にはわからなかった。


「どうして?トモは一樹とも那珂川さんとも仲がいいんでしょ。ずっと一緒にいるのに」


 そう、数日前に転校してきた私と違って。私はそう言いそうになった。トモが言う。


「私たちが一緒にいられるのはその中心に伊央星羅が居たからだよ。そして、今も一緒にいるのは伊央星羅について追いかけているから。もし、すべてが片付いたら一緒にいるのかもわからない。そういう関係なんだよ。


 それに誰もがずっと一緒に居られるなんてことはない。私たちには別々の道を行く運命が待っているんだから。それはもうみんな気が付いているよ」


 達観している。私はトモを見ていつもそう思う。でも、トモはすべてを諦めているのだ。その後無言になった。気が付くともうすぐ近くに一樹たちがいるのがわかる。一樹が言う。


「隠し扉は見つからなかったけれど、すごいことを思いついたんだ。聞いてくれよ」


 一樹の目は輝いている。この一樹が隠し事をしていると思えなかった。そこまで裏表があるように見えない。だからこそ余計に怖く感じたのだ。あのトモのセリフが。一樹が続ける。


「この学校のことを調べるんだよ。学校史ってやつ。これだけ蔵書があるんだ。調べれば出てきそうじゃないか?それに、お前のことだってわかるかもしれない」


 一樹はそう言って私の肩をたたいた。更に一樹は続ける。


「あの洋館を見て思ったんだ。この島には学園以外にも住民がいるんじゃないかってな。ほら、船で本土までいけないのならこの島の別の場所ならいけるってことだろう。そう考えたらさ、思ったんだよ。そこに伊央星羅がいるんじゃないかってな」


 やはり一樹の中心は伊央星羅だ。では、サファイアは、あのバレッタはどう関わってくるのだろう。何か関係しているのだろうか。那珂川さんが言う。


「この図書館のことならサファイアさんに聞くのが一番でしょう。ここも片付いたから手伝いに行きましょう」


 そう言って反対側で作業をしているサファイアのいる方へみんなで歩いて行った。中心にいるように見えるのは一樹だ。想像ができない。伊央星羅がこの中でどういうポジションだったのか。私にはわからないことが多い。


 反対側の植物コーナーはほとんど片付いていた。一樹が学園のことを調べたいと言ったらサファイアは3つあると言ってきた。一つは学園史が掲載されている本があるということ。これは1階に置いてあるらしい。


 後は地下の保管庫に過去の地元新聞がストックされているとのことだ。同じく地下の違う場所に学園報という生徒が作ったかわら版があるらしい。これも地下にストックされているそうだ。探さなくてもすぐに見つけることができると言う学園史をまず手に取ることをみんなで決めた。

 

 1階に降りて、入り口の横に確かに学園についてというパネルが掲載されている一角を発見した。そのパネルを見るとこの学園は出来て約80年ということがわかった。そして、元々あった建物を活用して学園の形になったこともわかった。


 あの洋館についてもわかった。この島はほとんどあの洋館の持ち主である『來原藤次郎』という人が仕切っていて、この学園を誘致してきたと言う。この島は昔は炭鉱があったという。それと並行して漁業で生計を立てていたという事がわかった。


 その炭鉱を管理していたのが來原藤次郎なのだ。だが、來原は石炭が廃れ始めるとともにすぐに学園を誘致した。当時色んな財界に顔が効いた來原藤次郎は子供を預かる学園を作ったのだ。そういう事がパネルや学園史でわかった。一樹が言う。


「あの洋館を知っていたということは宗像ではなく來原という名前なのじゃないのか?」


 そう言われても何も実感がわかない。それに私は居なくなっても誰からも心配されていないのだ。トモが言う。


「そんな大物の子供ならば記憶がない状態でこの学園には来ないだろう。病院で定期的に検査ができる場所にいるだろうね」


 私もそう思う。だとしたらどういう事なのだろうか。那珂川さんが言う。


「別にあの洋館の持ち主だから洋館のことを知っていたとも限らなくて。あれだけの大きさの洋館なら管理をする人もたくさんいたでしょう。その親族である可能性はあるのでは?」


 そのほうが現実的だ。召使とかメイドとかが親だったのかもしれない。一樹が言う。


「とりあえずわかったことはこの島は学園以外にも住民がいたことはわかった。でも、あの洋館はいつ無人になったのだ」


 そう、学園史には創設に協力した來原藤次郎についての記載は初めに出てきただけだった。それ以降出てこない。


「新聞を調べてみるのはどうだろう」


 トモがそう言った。とりあえず、地下に降りた。かび臭い匂いがする。ほこりの臭いもする。周りを見渡すと色んなものが置かれている。だが、きちんと整理されているのだ。


 木でできた大きな棚がある。上に新聞とかかれてあり、年代がかかれてある。新聞を取り出してめくっていく。古い新聞なのがわかる。手が汚れると思ったが誰も気にせずめくっているので私はあきらめた。


 めくっているとある島で人が殺された事件が出ていた。そう名前が來原春江と書かれてあった。まだ17歳という若さだ。洋館の写真はないが珍しい苗字だったので多分探している事案だと思った。


「ちょっと、この新聞見てよ」


 私はそうみんなに言った。3人がその新聞を見て絶句をした。私は何を驚いているのかがわからなかった。


「どうしたの?」


 一樹の顔は真っ青だった。那珂川さんも目を大きく開いている。トモがこう言ってきた。


「この写真。この殺害された少女の写真。この子の顔は伊央星羅にそっくりなんだ」


 私にはその言葉の意味がわからなかった。この新聞は今から30年以上も前の話しだ。その新聞に書かれている事件が一体どう関係があるのだろう。


 新聞に写っている少女の顔を見た。どことなく物寂しそうに見えるその顔写真は華があるというよりはかなげだった。触ると今でも壊れそうなくらいに。そして、私はどうしてかこの顔に見覚えがあったのだった。



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