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隠れた場所、記憶、海

 旧文化棟の入り口はロープが張られ、立ち入り禁止と書かれてある。だが、周囲に誰かがいる気配はない。一樹もトモもロープをまたいでいく。トモがロープを抑えてくれたので那珂川さんと私もロープをまたげた。


 進んでいく。だが、正面の扉は鍵がかかっている。


「仕方がない。どこか開いている場所を探そう」


 そうトモが言った横で一樹はすぐ近くの窓ガラスを割って鍵を開けた。しばらくして、正面の扉を開けて出てきてくれた。一樹が言う。


「まあ、後でみんな怒られるだろうけれどいいよな」


 文句を言う前に窓は割られている。私たちは覚悟をした。私は他の人と違う。失うものがないのだ。家の名前や親からの評価など関係がない。私は自分が生き延びるために学力を伸ばす。


 それだけだ。この学園にいる限り私の学力は伸びる。それがわかるから何も言わない。後はいつまでこの学園に居られるかということだけだ。


 階段を上がっていく。流石に電気をつけるわけにはいかない。いや、そもそも電気なんてつかなかった。日が落ちてきて徐々に暗くなってきている。


「一旦寮に戻るべきだったかしら」


 那珂川さんがそう言う。確かに暗い校舎の中は不安だ。だが、3人ともすごいテンションなのだ。薄暗い中4階に突き進んでいく。私はゆっくりになる。


「はい、手を出して」


 那珂川さんがそう言って私の手をつかんでくれた。それだけで安心できる。


 4階につく。窓をあけて同じように外を見る。一樹が言う。


「やっぱり同じだ。スペースがある」


 それから4人で壁を触り続けた。だが、触ってもただの壁だ。目に付いたものがある。掃除道具入れ。さっきの教室でもそうだったが木でつくられたものだ。私は掃除道具入れをあける。蜘蛛の巣がはってある。


 箒をとりだして蜘蛛の巣を払う。掃除道具入れの奥の壁も木で出来ている。私はその奥の壁をたたく。壁が少しずれたように感じた。私は掃除道具入れに入っていたものをすべて取り出した。掃除道具入れの中に入る。壁は薄い木が当てられていて動かすことができた。取り出すとその奥に扉が出てきた。


「あった。扉だ」


 私はそう叫んだ。3人がすぐに近づいてきた。扉をあける。その奥に通路があり階段があった。


「降りてみる?」


 那珂川さんの声に一樹がゆっくり頷きポケットからライターを取り出した。うすく明かりがつく。


「どうしてライターなんてもっているの?」


 那珂川さんが言う。一樹はポケットから煙草を取り出した。


「今責めるなよ。でも、このままライターをつけて歩き続けるわけにもいかない。何か松明になりそうなものないか」


 そう言われて私は落ちていた箒を取り出した。


「これどうかな?」


「まあ、いいか」


 そう言って一樹は箒に火をつけた。


「これで下にいけそうだな」


 一樹が言う。一樹を先頭にトモ、那珂川さん、私の順で降りていく。一つ降りると、同じように扉があった。どの教室にも隠し扉があるのだ。その理由はわからない。だが、1階についたのだが、出口はなく更に地下に降りる場所があるだけだ。


「どうする。一旦引き返すか?」


 一樹がそう言った。トモが言う。


「ガラスを割ってまで侵入したんだ。今日を逃すともうここから先には行けなくなるかもしれない。行こう」


 トモの言うとおりだと思った。私は那珂川さんの制服の端をつまんだ。怖いのだ。後ろはどうしても明かりが届きにくい。一樹がゆっくり降りてくれているのはわかるけれどやはり怖いのだ。しばらく降りると一樹が止まっていた。そこは踊り場になっていて目の前に鉄でできた扉がある。


「開けてみるか」


 一樹がそう言って扉に手を書ける。扉は開いた。その奥は埃っぽい匂いがすごく充満していた。通路なのがわかる。だが左右に何か大きな箱がある。トモが言う。


「これ、棺じゃないのか?」


 私はその言葉が怖くてつい那珂川さんに抱きついた。一樹が言う。


「気にするな。映画じゃないんだ。ゾンビがいきなり出てくることなんてない。このまま先に行こう」


 そう言って一樹は歩き出した。今気が付いた。一樹は箒をもう1本手にもっている。多分武器代わりにするつもりなんだろう。那珂川さんも箒をもっている。みんな強いと思った。私はおびえることしかできない。


 結構まっすぐ歩くとまた扉があった。扉は簡単に開いた。次はのぼりの階段だ。階段を登っていくとまた扉がある。扉を開けると真っ白な景色、そして木々があった。そして目の前に大きな古い洋館があった。


「なんだここ」


 一樹が周りを見る。外は珍しく少し晴れていて月が見えている。かなり暗くそして寒い。あれだけあった高い学園の塀が見えない。建物も見えない。私たちは学園の外に出たことがわかった。


「行ってみましょう」


 那珂川さんがそう言った。この先にあるのはあの古い洋館しかない。誰かが住んでいるのかわからない。一樹が言う。


「あの文化祭の時に伊央星羅がこの通路を使ったのだとしたら向かう先はあの洋館しかない。ここまで来たら行くしかないだろう」


 そう言って一樹は歩き出した。だが、少しだけ足が震えているのが見えた。皆怖いのだ。私だけじゃないという事がわかった。だが、安心しても解決しない問題もある。洋館の前にやってきた。レンガ作られた洋館を見渡せたが、その洋館は正面に鉄扉があり、そのまわりはぐるりと塀が囲っていた。だが、私はどこかこの建物に見覚えがある。どこかで見たことがあるのだ。


「ダメだ。扉は空きそうにない。塀も高い」


 一樹がそう言う。私は記憶の中で見た景色の中に居た。いつだったか覚えていない。私は目の前の洋館ではなく横にある茂みの中に入って行った。


「ちょっと宗像さん。どこに行くの?」


 那珂川さんの声が聞こえた気がする。でも私の見える視野は違う。何かが違っている。私は茂みを越えていく。その先にあるはずだ。壁が崩れている場所が。あの場所から中に入れるはず。私はどうしてか覚えているその先を歩いて行った。


 この木。形の変わったこの木が目印。まるで魔女の顔のように見える木だ。この先。茂みがあるため気づかれにくい。


 茂みをどけるとその先には大きく亀裂が入った場所が出てきた。しゃがみこんでその穴に体を入れる。頬を木がかすめる。だけれどこの先に開けた場所がある。そこまでいけばいい。そう、この場所は通れるようにしたのだ。あの子と。


 あの子。誰だろう。思い出せない。顔が真っ黒だ。いや、顔だけじゃない。体ごと真っ黒に見える。シルエットしか思い出せない。なんでだろう。あんなに一緒にいたはずなのに。思い出せない。私は何を記憶しているのだろう。わからない。


 気が付いたら私は真っ白な雪のなか立ち尽くしていた。


「ちょっと、どうしたの?」


 那珂川さんに肩をたたかれた。横に一樹とトモもいる。


「私?どうかしていた?」


 私はそう言った。那珂川さんが言う。


「うん、ちょっとおかしかった。話しかけても返事もなく勝手に歩き出すし、そしたら勝手に抜け道を探してどんどん進んでいくし。びっくりした。どうしたの?」


「ごめんなさい。なんかちゃんと覚えていないの。というか、夢うつつな感じだった。私、この場所をなぜか知っている。私はどうして知っているのだろう。あっちにあるはず」


 私はそう言って歩き出した。洋館をぐるりと回るように歩く。その奥に階段があるはずだ。記憶と同じくそこに階段があった。そして、目の前に鉛色のような海が広がっている。その先に陸が見える。


「こんなに陸が近かったんだ」


 那珂川さんがそう言う。近いように見える。でも遠いのかもしれない。陸の方は光がキラキラと光っていた。


 階段の下にボートがある。私はあのボートにも乗った記憶がある。誰と乗ったのだろう。誰かが一緒にいたはずだ。私は一体何を思い出しているのだろう。しかも記憶ではボートは2艇あったはずだが、今は1艇しかない。そう思っていたら頭が痛くなった。


「痛い」


 口に出ていた。私はその場にしゃがみこんだ。


「大丈夫?」


 那珂川さんが私の顔を覗き込んできた。違う。この人じゃない。頭の中に変なことが浮かんでくる。


「とりあえず、この洋館の中に入ろうか。少しは寒さもしのげるだろうし。それにさっき雪の上を這いずり回ったから服も濡れているしね」


 トモがそう言った。私たちは洋館の正面玄関まで歩いて行った。扉はノブを回したら何の抵抗もなく開いた。中は埃ぽかった。でも、家具もしっかりしているのがわかる。私はこの家の中も覚えている。どうして記憶にあるのだろう。ここは一体どこなんだろう。わからない。


「誰もいないみたいだね」


 トモがそう言う。部屋は埃が充満しているが、そこまで痛んでもいない。


「とりあえずソファーもあるからここで休もうか。暖炉があるけれどそこ使えるかな?」


 トモが仕切っている。一樹は暖炉を見て周りにある薪に手にする。


「大丈夫そうだ。火をつけよう」


 暖炉に火がつくだけでいっきに暖かくなった。


「タオルがあったからみんな体をふくといいよ」


 トモがどこからか持ってきたタオルで私たちは汚れた服を拭いた。


「ここは何なんだろうな」


 一樹がそう言った。私が一番不思議に思っている。ないはずの記憶。でも、私の中で確実にここを知っていることがわかる。私はここに居たのだろうか。わからない。頭が痛い。那珂川さんが私を心配そうに見ている。


「私、どうしたのだろう」


 不安が声に出ていた。だが、そんな言葉はかき消された。いきなり大勢の足音がしたからだ。すぐに扉が開けられ人が入ってくる。その中央にフードをかぶり白い仮面をかぶった、そう理事長が居たのだ。理事長が言う。


「どうやってここにやって来たのですか。ここは封鎖しないといけない場所です。とりあえず皆さん帰りますよ」


 そう言って自主的ではなく連行に近い形で私たちは寮に連れて帰らされた。



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