COUNT DOWN.14 マリオネットの帰り道。
衝撃。
これまでに無いほどの。
柚依が私を嫌いだって…?
私が…柚依の欲しかったものを持ってるって…?
樹梨はどうしようもないほど動揺していた。
混乱していた。
戸惑っていた。
樹梨の視線は、忙しなく中を泳いでいる。
手の指は細かく震え、何かを探しているようだ。
きっと、それは疑問の応えなのだろう。
全身全霊を賭けて、今の状況を整理し、必死で応えを探している。
亜貴はパソコンを閉じると、崇宏の傍まで行き、言った。
「送って行ってあげるんでしょ?」
「あぁ…。放っとけないだろ?」
「なら、最後まで責任持ちなさい。柚依も慎哉も悪いけど、その2人を作ったのは」
「俺だろ。判ってるよ」
亜貴の言葉を遮り、崇宏は言う。
そう、崇宏は判っているのだ。
柚依が樹梨を嫌うのは…慎哉が樹梨を嫌うのは…自分のせいだという事を…。
そして、今、樹梨を疵付けているのも、元々は自分のせいだという事を。
「樹梨。帰るぞ」
崇宏は樹梨を促した。
しかし、樹梨は立たない。
「樹梨」
もう1度、樹梨を呼ぶ。
それでも、樹梨は反応しない。
その後何度か呼びかけた後。
放心していたのだろうか?
樹梨はふっと崇宏を見た。
けれど、樹梨の脳には崇宏の像は結ばれていないだろう。
樹梨の瞳には、輝きが無かった。
あんなに明るかった樹梨をこんなにしたのは自分かと思うと、崇宏の胸は痛んだ。
樹梨の肩にそっと手を置き、優しく声をかけた。
「帰ろう」
コントロールされているロボットのように、樹梨は崇宏に付き添われて帰って行った。
誰かに操られているロボット。
そこに“意思”は無い。
そこに“自由”は無い。
「ずっと…一緒に居よう…僕が…君を守るよ…」
桜並木道の下、崇宏の凛とした歌声が響いていた。
樹梨だけの為に唄う、樹梨だけの唄。
「僕が…君に出来る事…君の為に出来る事…」
自然の芸術。
空のグラデーション。
春の空は、色も優しい。
崇宏の家まで続く道は、2人だけのもの。
今この瞬間は、崇宏と樹梨だけのものだった。
崇宏は樹梨を自分の部屋まで通すと、一旦家を出た。
目的地はすぐそこ。
樹梨の家。
「今晩はー」
「あら、崇宏君。久しぶりねぇ」
「お久しぶりです」
「樹梨は一緒じゃなかった?まだ帰ってきてないのよー」
「あ、その事で話があるんですけど…」
「なぁに?」
「今日…樹梨、うちに泊まらせても良いですか…?」
「崇宏君の家に…?」