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COUNT DOWN.13 壊れた関係。

「何で言わなきゃいけないの?」


柚依の氷のような言葉を聴いて、樹梨の瞳はみるみる潤んでいく。

慎哉はそんな樹梨を冷めた眼で見つめ、崇宏は「とうとう言った…」と溜息を漏らした。


「…って……だって、友達じゃない!!」


樹梨は声を荒げる。

けれど、向かいに座っている柚依は冷めたもの。

もしかすると言葉より冷たい――そんな瞳で、すっと樹梨を見ていた。


亜貴が戻って来た。

何事も無かったかのように、4人の前にコーヒーの入ったマグカップを置く。

樹梨以外の3人は、一斉にコーヒーに手をつけた。

しかし、樹梨は動かない。


沈黙が続く。

コーヒーを啜る音と、時々窓を叩く風の音。

それに合わせて揺れる、新芽をつけた枝。

景色は春めかしいのに、保健室の空気だけが冷たい、冬の雨の日のようだった。


「友達…なぁ…」


一息()いた慎哉が、ゆっくりと言葉を発した。

視線を宙に泳がせ、独り言のように。

しかし、それは明らかに樹梨に向けられた物だった。


「自分ら、ほんまに友達なん?」


さっき以上に、樹梨の瞳が大きく揺れた。


「柚依は、樹梨ちゃんの事嫌いやで。友達て思てるん、樹梨ちゃんだけちゃうのん?」


慎哉の声は、抑揚が無い。

冷たく、冷たく。

ゆっくりと樹梨を覆っていった。


「つーか、俺も嫌いやしね。勘違いも()ぇ加減にせぇよ」


今の今まで樹梨の事など見ていなかった慎哉が、最後に樹梨の方を向き、思いっきり樹梨を睨み付けた。

崇宏は慎哉を止めようとしない。

勿論、柚依も。

亜貴などは、我関せずと、1人パソコンへ向かっていた。


「柚依、帰るか?」


慎哉が、さっきとは打って変わった声で柚依に言った。

温もりのある、優しい声。

表に出さなくても判る。

慎哉が、どれほど柚依を想っているのかという事が。


柚依は黙って頷くと、席を立った。

樹梨を一瞥もせずに、ドアに向かって歩いて行く。


ドアに手を掛ける寸前で、柚依の動きが止まった。

淡い期待。

柚依が、笑って「嘘だよ」と言ってくれる。

きっと…きっと…。

振り返って…。

にっこり笑って「嘘だよ」って…。


樹梨は心の中にそんな淡い期待を抱いていた。


「何で嫌いか、言ってあげようか?」


柚依は振り向かずにそう言った。

慎哉が何故か少し哀しそうな瞳をした。

眉を下げ、息を詰める。

樹梨には、慎哉の表情の真意が判らなかった。


柚依が慎哉の方へ顔を向け、耳元で何か囁いた。

一言。

その行為を見た崇宏の瞳が、大きく見開かれた。


また…仲間外れ…。


樹梨の淡い期待は、そんな思いと共に打ち砕かれた。

どうして、皆は何も言ってくれないんだろう…。

どうして、私独りが何も知らないんだろう…。

どうして…。

前にも感じた疑問が頭の中を廻り始める。

今の樹梨は、ピンと張った細い糸のようなもの。

これ以上、衝撃を与えたら…。

それが、どんなに些細な、弱い衝撃だったとしても。

壊れてしまう。

そんな樹梨の状態を、3人は…否、柚依は、慎哉は、知っているのだろうか?


柚依は振り返らずに、そのまま樹梨に言葉を投げつけた。


「あんたは…私が欲しかったものを持ってたからだよ」

「っ」


樹梨が柚依の名前を呼ぶより早く、柚依は慎哉を伴って出て行ってしまった。

さっきまで暖かな湯気を立ち昇らせていたカップは、冷え切っていた。



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