楽しい夏季休暇/異なってくる今
夏期休暇は、それから何事もなく、穏やかに過ぎた。そんな、ある日のこと。
「マリウス殿下から、私に手紙が?」
父から渡された手紙を受けとる。マリウス殿下からの手紙には、友人として、この夏期休暇の間に一度会いたい、と書いてあった。
「マリウス殿下は、大層お前を慕ってらっしゃるみたいだから、休みの間に一度会ってみてはどうかな?」
父に言われて、頷く。婚約者の件を断ったのに会うのは気が引ける部分もあるけれど、素直に会ってみたいという気持ちの方が勝った。それに、友人として、とわざわざ書かれているのは、私を気遣ってのことだろう。これで、行かないのは逆に失礼になる気がする。
早速私は、マリウス殿下に返事を書き、登城することにした。
マリウス殿下を訪ねると、すぐに来客室へ通され、マリウス殿下が現れた。
「アリサ……!」
私の名前を呼んで、私の方へかけてきたマリウス殿下は、何を思ったのか、途中ではた、と立ち止まり、もう一度部屋の入り口まで戻った。
そして、
「アリサ嬢、この度は、ぼ……、わたしを訪ねてきてくれて嬉しい」
と言った。マリウス殿下の意図するところがなんとなくわかった気がして、礼をする。
「ご無沙汰しております、マリウス殿下」
私がそう言うと、今度こそ満面の笑みで、マリウス殿下は、かけてきた。
「アリサ……じゃなかった、アリサ嬢、ぼく………わたしも大きくなったでしょう?」
「はい。とてもご立派でした」
私が頷くと、マリウス殿下は、嬉しそうに微笑んだ。
「手紙にも書いたけれど、友達もできたんだ! わたしが誤って触れてしまっても、怖がったりしない友達が。彼の名前は、エイベルと言うんだけどね──」
そう言って楽しげにその友人について、話し出した、マリウス殿下の話を聞きながら、とても楽しい時間を過ごした。
◆◆◆
(ルーカス視点)
マリウスを訪ねると、マリウスがいなかった。どうやらマリウスは、友人として訪ねてきたアリサと会っているらしかった。
『どうかされましたか、ご主人様』
心配そうに私を見上げる、私の聖獣バートを撫でる。
「何でもない。それよりも、黒魔法の気配を感じるか?」
『──いいえ、今は何も』
「そうか。アリサが来れば、正体を現すかと思ったが……」
以前の生で、私は気付かぬうちに、黒魔法に少しずつ少しずつ、汚染されていった。
──そして、おそらくウィルシュタイン侯爵も。
バートが以前の生も共にいてくれたら、そんなこともなかったのだろうが。それでも、黒魔法にかかってしまったのは、私自身が招いた結果だ。首を振り、ため息をつきそうになる心を振り払う。
しかし、なぜだ? 以前の生から逆算して、最初に黒魔法が仕掛けられたのは、ことが起きる、五年前──つまり、今だと、思っていたのだが、やはり、間違いだったのだろうか。
いや、違う。黒魔法が仕掛けられる前と今で違うのは──。
「私とアリサが、婚約、していないから?」
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