目を逸らす
これ以上ないほど、怒っている父は、その表情とは反対に、静かな声で尋ねた。
「どうして、何も言わなかった?」
私は、何がなんでも魔獣科に入りたかった。入って決して揺るがない絆が欲しかった。そう言って、なぜ? と問われてしまえば、言葉につまる。前の生で、貴方たちに簡単に見捨てられたのだと言ったら、狂ってしまったと思われて、最悪、ベッドの上に縛り付けられるかもしれない。
「……反対されるかと、思いました」
結局、私の口から出てきたのは、凡庸な言い訳の言葉だった。
「もちろん、反対しただろうね。けれど、アリサ。お前が本当にそう望むなら、私は許可したよ。私が怒っているのは、魔獣科に、進んだことじゃない。そんな危険な学科に進んだのに、私に何の相談もなかったことだ」
本当に? 信じられない気持ちで、父を見つめる。父は、ゆっくりと頷いた。
「お前はまだ私たちの庇護下にある。でも、私たちの所有物ではなく、意志を持った人間だと、いうことをわかっているつもりだ」
それは、私個人を尊重してくれる言葉だった。だったら、なぜ。出かかった言葉を寸前で飲み込む。代わりに、素直に謝ることにした。
「……勝手に決めてごめんなさい。どうしても、魔獣科に入りたかったんです」
そう言うと、ようやく父も表情を緩めた。
「……アリサ、絶対に傷付かず、帰ってくると、約束できる?」
魔獣科は、下手をすると死人もでるような学科だ。そんな、学科で傷一つ付かずにやっていけるほど、甘くはないのかもしれない。
「はい」
約束を違えることになったとしても。それでも、私は、血よりも濃い絆が欲しかった。
でも、できうる限り、怪我をしないように、頑張るから。
即答すると、父は、
「では、お前が魔獣科に進むことを、許可しよう」
といって、笑ってくれた。
書斎からでると、どうやらもう庭から帰ってきたらしい、ステラとユストが心配そうに私を見つめていた。二人を安心させるように、微笑むと、ユストが飛び付いてきた。
そのユストを抱きとめて、側によってきたステラの頭を撫でる。
「ねえさま、とうさまにいじめられなかった?」
「ええ、大丈夫よ。お父様は、心配してくださっただけだから」
「それならよかった。それでね、ステラってすごいね! すごく高く飛べるんだよ!」
ユストがステラが、どれだけ凄いかということを興奮ぎみに話してくる。その話を笑顔で聞きながら、心配をかけておきながら、父を本当の意味で信頼できない私自身から目をそらした。
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