表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/41

第12話 活路を開く為に

2日目の昼過ぎ。


残りハヤト178日。カナ180日。


その声に反応して、私は金色の髪を強く抱きしめた。

胸の中に、抱きついて来る一回り小さな少女。そして、私を庇う様に抱きしめる大人の女性。

人と人の間から、焦げる匂いと熱風が入ってくる。


「バレーヌ!!」


レザールの声とともに、強く叩く振動が伝わって来た。

多分、隊長がバレーヌの身体についた火の粉を払っているのだ。


何か木材を無理やりへし折る音がした後、風が私達の間を抜ける!


「…カナさん、お怪我はありませんか?」

「バレーヌさんこそ!」

「問題ありません。頭を低くしたまま、前の方へ退避してください。」


そう言われて、私とフェリシアは御者席の後ろへ。

先にいたコバヤシ君が私達を庇う様に引き寄せた。

やっぱりこういう時は男の子は頼りになるなと思いかけたが…いや、何か違和感を感じる。


「コバヤシ君、大丈夫?」

「…。」


彼は心此処にあらずと言った感じで、返事はなかった。

強張った表情を見て、何か声をかけてあげたいのだが、私には言葉が浮かばない。


視線を荷台後部へ向けると、剣を納刀する隊長とレオパールの姿。

この2人が、燃える幌屋根の延焼を防ぐ為に、骨の部分ごと切断して取り除いたのだろう。今は荷台のみで走っている。


「セロス、武器はどうだ?」

「隊長、矢が残り僅かです…。」

「分かった。ルーとバレーヌは、このまま聖女様達をお連れしろ。我々は…降りる。」

「「了解。」」


セロスと呼ばれた年配の男性は、残りの矢束をバレーヌに手渡す。


馬車から降りる?

敵は騎馬隊だ。タダでは済まないだろう。

人数差だってあるんだ。3人出て行ったところで時間稼ぎしか出来ない。つまり…


「降りて迎え撃って、皆さんはどうやって逃げるんですか?」


出すつもりのなかった言葉が口から漏れる。

そんな事は聞かなくても分かっているのに。


「カナさん、我々の任務は聖女様を王都へお連れする事です。バレーヌとルーは優秀な部下です。お任せ下さい。」


丁寧で優しい声だが大人特有のはぐらかし、質問には答えていない。


兵士達は戦う準備を始める。村人の服を脱ぎ、荷物から甲冑を取り出して黙々と装備していく。


あと数分もせずに彼らは下車し、追手と戦うことになるだろう。

この人達が手を抜く事は無いだろうから、本当に時間は稼げると思う。ただ、彼らは無事では済まないし、全員は生還しないだろう。


でもこれは彼らにしか出来ないのだ。

仮に私たちが出張っても、馬の速さと数で攻められれば足止めは不可能。でも足止めしなければ、追い付かれてしまう。どうすれば…。


思考がグルグルしていると、隣から声をかけられる。


「…カカナ、手を繋ごう。勇者になって、俺たちも足止めに参加しよう!」

「待って。私達が降りても…」

「考えたんだ、誰かに頼りっぱなしじゃ良くないし、ここで価値を示せれば口だけじゃないって認めてもらえるだろう?」


さっき森の中で話した事を彼なりに考えていたのか。

確かに、そうかもしれないが大切な事が抜けている。


「でもそれはコバ…」


直ぐに言い直す。


「それは私達の都合でしょ?それに、そんな事をしたらフェリシアは逃げれると思う?」

「でも、俺たちが足止めすれば…!」


そこでコバヤシ君は口を閉ざす。

フェリシアが彼の袖を強く握ったから。その目は、私達を置いて先に進む事を拒否する目だ。


「フェリシア分かってくれ、この状況を打破出来るのは俺たちしかいないんだ。」

「お2人を置いては行けません!」

「俺たちなら大丈夫だって!!」

「だからそれじゃダメなの!騎馬隊が相手なのよ!力でどうこうなら相手じゃないんだから考えて!!」

「考えた結果がこれだよ!あの人達だけじゃ勝て…」


そこで私たちは、彼らが周りにいた事を思い出す。

レザール隊長は苦笑いをしており、レオパールは不機嫌そう。セロスは腕組みをしながらこちらを見下ろしている。


「…そんなに我々の事が信用できないか。」

「い、いえ…。でも…。」

「勿論、何か提案があれば受け付けるよ?」

「無いなら、黙ってろ!」


レザールとレオパールの言葉に、私と彼は顔を見合わせる。

恥ずかしさと恐れと、気まずさと焦りが溢れて来て気持ちが落ち着かない。


「…カカナ、ごめん。」


先に謝ったのは彼だった。


「ううん、私こそ余裕なくて、ごめんね…。」


謝られた事で、私も落ち着きを取り戻していく。

冷静なつもりでいたけど、やっぱりパニックになっていたのかな。


「でもやっぱり、あの人達を残して逃げるのは嫌だ。」

「それは私も同じよ。でも良い案が思いつかないの。」

「マービンさんから貰った銃は?」


コバヤシ君が私の背中にあるマスケット銃を指す。

確かにこれなら騎馬隊を迎撃できるが…


「前にも行ったけど、装填に時間がかかるの。一頭二頭足止めしたところで、直ぐ他の馬に接近されちゃう。」


それに、火薬を使う関係で幌を燃やしたあの炎魔法をされると、射撃準備中に銃が暴発するかもしれない。


「便利そうだと思ったんだけど。」

「もし使うな最後の一発かな…。」

「ねぇカカナ、そもそも馬って怖いの?」

「騎馬隊の速さや突進力も脅威だし、そもそも騎乗兵は上から攻撃して来るわ。歩兵には脅威よ!」

「そっか…だったら、足を止めれば突進されない?」


馬の足を止める?

つまり勇者化した私達が、道のど真ん中で剣を盾に正面から受け切って止めると?


「私達が壁になるってこと?でも数が…」


何頭かならやれるかもしれないが、数で押されたら耐え切れなかったり、横を抜けられてしまう恐れがある。

無理なんじゃないかと伝えようとしたら、彼が私達に急に抱きついて来た!


「え、何!?」

「ハヤト様!?」

「そうか、ありがとう2人とも!!」


訳が分からない。

2人ともってどう言う意味だ?私はともかく、フェリシアはどんな助言をしたと言うんだ。


私の疑問には答えてくれず、コバヤシ君は元気よくレザールの方を向いた。


「レザール隊長、提案があります!」





□□□





強化された馬は、通常の2倍に近い速さで街道を一気に駆け抜けた。


森の中に仕掛けた探知トラップに奴らがかかり、村の近くに残していた別働隊が追跡を開始。

それに遅れる事半刻。奴らに迎撃された別働隊を追い越し、燃え尽きた幌の骨組みを蹴散らし、追撃部隊の本体は確実に目標に近づいていた。


木々の間から、カーブの先に馬車が見える。

そいつは道のど真ん中に、道を塞ぐように止まっていた。泥にハマったのか、岩に乗り上げたのか知らないが運のない連中だ。


馬車の荷台には荷物しか載ってないようだが、魔力の匂いがする…


「はっ、隠れても無駄だ。全隊停止!」


爆走していた馬たちが、馬車の10メートル手前で悲鳴を上げながら急停止する。


「レーコン隊長、何かの罠かもしれません。」

「劣等者が謀る罠など、こちらが蹴散らしてくれるわ!」


そうレーコンが叫ぶと同時に、後ろで部下が下馬する。


「…何をやっている!?」


地面に落ちた部下に目をやると、頭に矢が刺さっていた。

隊長が理解するよりも早く、アエトスが抜刀しながら叫ぶ!


「敵襲!!!」





□□□





「…馬車を止める?」


俺は頷く。

追手を足止めしても、結局は時間稼ぎにしかならない。

だからいっその事、迎え撃とうと言う作戦だ。


「敵は魔力を感知するんですよね?」

「訓練された魔法使いは、魔力が行使されると離れていても感じ取ると言われています。」


俺たちが足止めに残れば、フェリシアは逃げるのを拒むだろう。だから、全員で待ち構える。

馬車で道を塞ぎ、フェリシアが馬車に隠れながら魔法を使い、敵の注意を釘付けにする。


「聖女様を囮に!?」

「万が一、敵がそのまま突撃して来た時の為に、このマスケット銃をバレーヌさんに預けておきます。装填された小さな鉄球達が、馬の足止めをしてくれるはずです。」


何にせよ足が止まれば、ただ少し高い位置にいる的になるだけだ。

そこから先は…。


「しかし、それはあまりにも聖女様が危険だ!止まらず魔法を使って始末するかもしれない。」


確かに言われてみれば…。しかしそこはカカナが反論してくれる。


「その可能性は低いと思います。…あの隊長は成果を自分で成し遂げたいタイプです。」

「だ、だが…」

「私は大丈夫です!…皆さんが助かるなら、やりましょう!」


最後はフェリシアの意見で決行されることになった。





□□□





「遅い遅い!!」


そう言いながら、レオパールは後列の2人目に狙いを定め矢を射る。また1人が馬から落ちた。

残り6人。


違う場所から矢が1本ずつ放たれ、2人倒す。

残り4人。


「じ、陣形を組め!!」


隊長らしき人物が叫んでいるが馬の扱いに慣れないのか、馬達は足踏みをするだけで一向に揃わない。


「レーコン隊長、一旦此処はひきましょう!」

「ぐぅぬぬ、転進だ!!!」


…あの眼鏡が副官か?

狙って矢を射るが、剣を使って防がれる。良い部下を持ってるんだなと思う。

アエトスの指示で手早く撤退し始める追跡者達。


「でも、逃げられないぜ。」


矢で倒れる部下を見捨てて、逃げ出そうとする彼らの前に、空から大きな影が降って来る。


質量の塊は地面を揺らし、土煙を上げる。

道に刺さるは、鉄の板と見間違うほど大きな剣。

地面にめり込んだ長さを差し引いても、人の身長程ありそうな長さだ。

それを扱うは、鎧に身を固めた1人の青年。


「俺は、あの人達を守る為に剣を取る。」

『私は、迫り来る脅威を打ち破る剣。』


地面から大剣が抜かれる。


「か、構うな突撃!!」


先頭の二頭が、加速しながら突撃して来る。

あの蹄に蹴られたら、あの体重に踏み潰されたら、身体はただじゃ済まないだろう。


「身体強化!」


寿命を1日削って身体能力を向上させると、ハヤトは飛び上がった。

そのまま、跳ね飛ばすつもりでいた騎士の1人を、剣の面で跳ね飛ばす!

馬の突撃速度も相まって、重い一撃となる。


騎手を失った馬はそのまま走り去り、跳ね飛ばされなかったもう1人の騎士は、急停止して向きを変える。

再度突撃しようと構えて、そのまま横から飛んできた矢に倒れた。


「な、なんだ貴様は!?」

「隊長、警戒して下さい!」


レーコン達は、進みたくても道を馬車で塞がれており、撤退したくてもハヤトがいる。

森の中には弓兵が潜んでおり、迂闊に森へも逃げられない。


「さぁ、どうする敵さんよ。」


レオパールは、何が起こってもすぐ対応できるように、両の足に力を込める。


「アエトス!蹴散らせ!!」

「神聖竜の加護をもって、我が眼前の敵を焼き滅ぼせ!火炎弾!!!」


副長の詠唱により、三発の火球がハヤトに向かって飛び出す。それを、剣をぶん回しながらその反動で身体を移動させ回避する。


あのデタラメな動きに、俺達も相当痛い目にあった。

だが、ハヤトと同じ側の今なら、あの翻弄する姿は愉快なほど心躍る。


「小僧、調子に乗るなよ!…神聖竜の加護をもって、我が肉体に巨人の力を宿せ!!」


レーコンの筋肉が膨れ上がり、柄を握った手が一気に抜刀。

突撃力も加わったその重たい剣撃を、あの大剣は難無く受けきる。


「なんだと!!?」


レーコンの歪んだ顔は、そのまま振り抜かれた大剣によって馬上から消える。派手に森の中へぶっ飛ばされるのは見ていて興奮してしまう。


「貴様、何者だ!!」


そう叫び抜刀した副長は、セロスが放った矢を背中に受けて、そのまま地面を転がる。


戦いが終わったのを告げるかのように、ハヤトが剣先を下ろす。

俺は思わず森から飛び出してしまう。


「…ふぅ。」

「ふぅ、じゃねぇよ!ハヤト、お前すごいな!!」

「れ、レオパールさん…」


続いてセロスも出てくる。


「まったく、あれは夢だったんじゃないかと思っておりましたが、目の当たりにすると何とも言えない気持ちになりますな。」

「えぇと、セロス?さん。昨日は、すみませんでした…。」

「いや、お気になさらず。我々の言葉が少なかったのが原因です。それに、味方であればこれ程頼もしい事はありません。」

「珍しいじゃん、おっちゃんがそんなに興奮してるの。」

「黙れレオパール!私だって興奮くらいするわ。」


もうちょいおっちゃんを弄ってやろうかと思っていたら、敵の馬を一頭引っ張ってきた隊長が小声で、


「…バレーヌが見てるぞ。」


と言った。

それだけで十分だ。俺とセロスのおっちゃんは、すぐさま近くにいた馬の手綱を引っ張る。


「ほら、暴れるな良い子だから!」


馬を連れて馬車の近くに集合する。

バレーヌが馬車の向きを戻し、隊長と俺とおっちゃんがそれぞれ一頭ずつ馬を。

俺たちが使わない分の敵の馬は、ルーが鞍を外して森に追いやった。


俺たちに遅れて、ハヤトとカナが戻ってくる。


「すみません、遅くなって!」

「お待たせしました!」


ハヤトはともかく、カナはどこに潜んでいたのか分からなかったが、まぁ無事で何よりだ!

2人はすぐさま聖女様がいる荷台へ上がる。荷台の護衛はバレーヌだ。


「まずはここから離れるぞ!」


隊長の号令でルーは馬車を走らせ、俺たち騎馬がそれを守る様に走り出す。

少し走ったところで隊長が、荷台にいるハヤトに声をかけた。


「ハヤト君、見事な作戦だった。敵の追撃を退けるだけでなく、馬の補充までしてしまうとは。」

「いえ、たまたま。ついでですよ。」

「これなら予定より早く戻れそうだ。心から感謝している。」

「おいハヤト、隊長がこんなに言うことなんて滅多にないんだからな!」

「レオパール…君には私がどんな風に見えているんだ?」

「そんなの決まってるじゃないですか!隊長は…」


隊長は…と言おうとして、荷台からこっちを興味深そうに見ている子供達の奥で、鋭い視線を感じる。



「最高っす!」



弾けんばかりの笑顔で、そう答えた。




最後までご覧下さりありがとうございます。


もう少しまとめられる様に頑張りたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ