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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
追い求めるは理想と未来、捨て去るは過去と宿命
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戦場に舞い降りた堕天使たち

それが興った時、ハンノ=イヴリス首都イスカンブールでは人間と魔族の話し合いの場が設けられていた。

平行線の話し合いに、どちらも苛つき始めていたころ。

北からやってくる謎の影の大軍がこちらに向かってきている、という報がもたらされた。

ハンノ=イヴリス側は魔族による陰謀か、とも疑うが、ドラッヘ将軍はその言葉を否定する。

現に、その軍勢は人間も魔族も関係なしに破壊と殺戮をもたらしてこちらに向かってきている、という。


「数は?」


ユグルタは伝令兵に問う。伝令兵は戸惑いながら告げる。


「敵の規模は、数十万、と思われます」


「数十万、だと!?」


ユグルタが短く叫ぶ。ハンノ=イヴリス軍でもその数は5万。ラトナ騎士団、周辺各国の軍を合わせても10万には届かない。


「なんということだ、敵の正体は?」


「不明、です。また世界各地でも同様の敵が現れている、と」


「アンセルムス、ですね」


それまで黙っていたクロヴェイルが口を開く。


「かの男が、動き出したようですね。小癪な策に頼らず、、正面から挑むとは。もう余裕もない、と言うことでしょう」


「ならば、敵もそれほどではない、か?」


ユグルタのその希望的な言葉に首を振るクロヴェイル。


「いいえ、それでもあれは恐るべき敵です。なぜならあれは魔神トラキアの軍勢であるから」


「トラキア・・・・・・・・・・・・『帝王』の」


かつては世界を支配した帝王の軍勢を知らぬ者はいない。それが向かってくる、となると恐怖を感じずにはいられない。


「すぐに迎撃の用意を」


クロヴェイルはそう言うと、外套を身に着け、歩き出す。


「まさか、戦う気ですか」


「当然です。このままアンセルムスの好きにさせるわけには、いきません」


そう言い、歩き出すクロヴェイルの背を見て、ユグルタもそのあとに続く。

ドラッヘ将軍は沈黙したままそこに坐していたが、しばらくすると部下に耳打ちをして自身もどこかへと向かっていく。


クロヴェイル率いるラトナ騎士団、ハンノ=イヴリス軍がイスカンブールを守るように平原に展開する。

ユグルタ、ミランダを両脇に従えたクロヴェイルは、敵の向かってくる方向を睨む。

そんなクロヴェイルのもとに、クィル一行が現れる。


「クィル・アルゲサス。何をしに来た?」


「何って、決まっているだろう。俺たちも戦うさ」


「この戦いは、あなた方に関係ないはずだ」


「関係ないわけはないわ、クロヴェイル殿」


そう言ったのはクィルの隣にいた黒髪の少女エノラ・アンスウェル。美しい顔は鋭い光を放っている。アンセルムスに少しばかり似た少女は、クィルの手を強く握っている。


「せっかく、世界がいい方向に行こうとしているんだもの。クィルの理想の邪魔をさせはしない」


「それがたとえ、自分の兄であろうとも、か」


クロヴェイルの言葉に、喉を鳴らしエノラは頷く。


「兄さんが間違った道を進むというなら、私は迷わず剣を向ける」


「エノラ」


クィルが震えるエノラの手を強く握りしめる。


「君だけに背負わせはしない。喜びも痛みも悲しみも、全部俺たち二人のものだ、そうだろ」


「そうね、クィル」


そんな二人の背後には、砂色の髪の魔神と魔書、それに魚人族の戦士と水色の髪の少女もいる。


「あなた方の決意も、変わらないですか」


「無論、目の前の死を見過ごせはしない」


セウスはそう言い、クロヴェイルを見る。ほかの三人も、同様のようだ。

諦めたようにクロヴェイルは息をつく。


「わかりました。好きにしてください。ただし、理想を叶えずに死ぬ、というのだけはやめなさい。わかりましたね、クィル・アルゲサス」


そう言い、クロヴェイルは用はないとばかりに手を振る。

クィルたちはそのまま、戦場のどこかに行く。


「指揮に従わせた方がいいのでは?」


下手に動かれて乱されてはたまらない、というミランダの声に、クロヴェイルは静かに首を振る。


「その心配は無用だ。彼らなら、うまくやってくれるだろう。それよりも、ミランダ」


クロヴェイルはミランダを見る。いつになく、熱っぽいクロヴェイルの瞳に、ミランダはたじろぐ。


「な、なんですか、クロヴェイル様」


「あなたに、これを」


そう言い、クロヴェイルが取り出したのは小さな箱。それを受け取ったミランダは戸惑う。「開けてください」という団長の声に従い、ミランダはそれを開ける。

そして、小さく悲鳴のような歓声を上げた。


「こ、これは」


そう言い、クロヴェイルの顔を見つめる。


「あなたの想像している通りの物です、ミランダ」


「で、でも」


それは指輪であった。指につけても邪魔にはならない程度の装飾と宝石。内側には古代文字で何か刻まれていた。

それを困惑しながら見るミランダの手からそれを奪い、彼女の指輪にはめる。サイズはピッタリであり、彼女の手に馴染む。


「私なんかで、いいのですか?」


「あなたしかいないのです、ミランダ。私を支えてくれるのは、あなただけです。ともに生き抜いて、結婚しましょう」


「・・・・・・・・・・・」


ミランダは涙を流し、そして静かに頷く。


「はい、ヴェイル・・・・・・・・・・」


そして笑う彼女に、クロヴェイルは情熱的なキスをした。


「戦闘前に、よくやれるもんだなぁ」


流石は英雄サマか、とユグルタは肩を竦める。まあ、これで本人たちがやる気になるなら、別にかまわないが、もう少し人の目を気にしてもいいんじゃないだろうか。

思った通り、将兵たちは士気間のそんな姿に呆気にとられている。が、すぐにそんな指揮官を祝福するように歓声と野次が飛ぶ。

クロヴェイルは照れくさそうに、ゴホン、と咳をして全軍を見渡す。


「諸君、この戦いでこのうちの何人が死に、生き残るかはわからない。だが、諸君の愛する家族、恋人、子どものためにも、足掻いて見せろ。そして、敵に見せつけてやろう、我らの生きざまを、魂の輝きを!」


そう言い、剣を抜いたクロヴェイルの叫びに呼応するように、軍勢は唸り声をあげ、クロヴェイルの名を連呼する。

未知への敵の恐怖を打ち破り、全軍は士気を高める。

次第に大きくなる影。異様な石人形の兵士たちが列を崩すことなく、大地を歩いてくる。帝王の軍勢。だが、それがなんだというのだ。

自分たちの故郷を、守るべきものを壊すならば、それを阻むのみ。決して通しはしない。


「さあ、アンセルムス。見せてやろう、我々の希望を」


光で照らして見せよう、いかなる闇も絶望も。

クロヴェイルが剣を構え、軍勢の前に出る。その両脇に従うユグルタとミランダも自分の得物を手にしている。

歩き続ける軍勢が身近に感じられるほどに接近してきたとき、クロヴェイルは全軍に突撃を指示した。

巨大な熱気と叫びの中、ついに魂なき軍勢とぶつかった。




「はあぁぁあ!!」


エノラの刀で切られた敵は、その形を保つことができず崩れ去る。

続けて近くの敵を切り伏せたエノラは、後方のセラーナを見る。セラーナは頷き、広範囲魔術を放つ。エノラがそれを避ける。魔術は敵の軍勢に当たり、数百の敵が一斉に爆ぜる。

だが、敵はまだまだ湧いてくる。

セラーナを狙う敵をセウスがその剣で切り倒す。


「くそ、わらわら湧いてくるな!キリがない!」


クィルはリクターとともに敵に突撃しながら言う。


「この軍勢を操る大本を叩くほかは、これを止める方法はないだろう」


「世界蛇、か」


クィルの言葉にリクターは頷く。だが、世界蛇は遠く遥か彼方。そこまで向かう余裕はない。


「なんだ、クィル。弱気になったか?」


「まさか」


クィルは不敵に笑い、竜化した腕で敵を切り裂き、叩き潰す。大地を抉り、切り裂く。裂傷の中に敵が落ちて行く。


「これしき、俺たちを止めるには足りないくらいだ。百万ほど持ってきてもらわないとな」


強がりではあるが、クィルはそう言った。負けてやるつもりなど、さらさらない。ようやく見えてきた理想を、潰えさせてなるものか。

リクターはニヤリと笑い、「そうだな」と言う。

銀色の槍と両手に装着したカタールで敵を蹴散らしながら、リクターは足に力を入れる。そして、大地を蹴り、一直線に進む。


「ぬぅん!」


閃光となり、リクターは奔る。

その進行方向にいた敵は、その衝突に耐えられず、弾き飛ばされる。

鋼鉄の硬さの敵も、リクターの突撃には耐えられず、砕け散った。


「・・・・・・・・・・・・・」


リナリーは、シレンの森の樹木で作られた弓矢を構え、それを放つ。矢は光り輝き魔力に満ちていた。

それが敵兵を貫いた瞬間、その周囲を巻き込む大爆発を起こす。

次なる矢を作り出すと、リナリーは放つ。




爆音が響く。

クロヴェイルは右翼を見る。見ると、右翼側にはあまり損傷が出ていない様子だ。右翼側には、強力な敵が迫っていたが、クィルらがうまく食い止め、倒している様子である。

クロヴェイルは光り輝く剣で敵を切り裂き、隣のミランダを見る。


「無事か?」


「はい、ヴェイル」


そう言い、ミランダは細剣で敵を切り裂く。

ユグルタも黙っているが、絶に疲弊しているわけではなく、ただ集中しているだけのようである。両手に持った片刃剣を両手に持ち、器用に手でくるくる回しながら敵を切り裂いていく。


「だが、そうなると左翼の疲弊が目立つな」


左翼にはクロヴェイルやクィル、といったクラスのものがいない。そのため、消費が激しい。

そんな左翼を、あの男が放置しているわけはないだろう。


「ヴェイル!」


「どうしました、ミランダ」


戦闘中、声を上げたミランダが空を指さす。左翼の方向の空を見て、クロヴェイルは驚く。


「あれは・・・・・・・・・・・」


腕を組み、狂ったような笑みを浮かべる男が宙に浮いていた。

アレは、あの禍々しい魔力は、


「魔神か!」


アンセルムスに協力する魔神ハザ。それが、そこにいた。

狂気の笑みを浮かべた魔神は両手に邪悪な悪意のこもった魔力の弾を作り出すと、それを異形と戦う人間たちに放つ。

一瞬の出来事であった。

何百と言う命がその一撃で奪われた。

赤黒い魔力の光が大地を覆い、死の匂いを充満させる。

死をもたらした死神は、ただただ愉快そうに笑っている。


クロヴェイルはそれを見てそちらに向かおうとする。あの畜生を殺してやりたい、と。

だが、そんな彼の前に何かが立ち塞がった。

クロヴェイルは前を見る。

そこには、翼をもった異形の女がぽつんと立っている。ヴェールの下の目が不気味に光り、クロヴェイルの身体を見えない何かが襲う。


「ぐぅ!?」


「ヴェイル!?」


クロヴェイルの身体は吹き飛ばされ、後ろに痛みう方を巻き込み倒れる。


「こいつ!」


「待て、ミランダ!」


ミランダが剣を向ける。クロヴェイルは急ぎ立ち上がり、ミランダを後ろから抱きしめるように地面に押し倒す。そんな彼らの上を、紅い閃光が奔る。そして、それは後ろにいた兵士を消滅させた。

ミランダも、そしてクロヴェイルでさえも気づかなかったそれ。クロヴェイルが気づけたのは、単なる運であった。

戦慄するクロヴェイル。得体の知れない敵。


赤い羽根の女は、鳥のような足で地面を抉りながら歩いてくる。

化け物。これもアンセルムスの切り札だというのか。


「厄介な切り札だな」


一桁の魔神にも匹敵する敵を前に、冷や汗を拭うクロヴェイル。

この魔神にかかれば、簡単にこちらは突き崩される。


「ミランダ、ユグルタ!」


クロヴェイルは二人に声をかける。

二人は頷き、各々の武器を構える。

それを見ても、女は微動だにせず、ただ面白そうに口を歪めるのであった。


「余裕だな。だが、我々三人相手に無傷で済むとは思うなよ」


そう言い、クロヴェイル達は突撃した。


「見せてやる、我々の希望の力を!」





戦場を包む異様な空気に顔を顰めるセウス。

それにわずかに遅れて、リナリーも気づく。


「魔神が出て来たようですね」


「魔神・・・・・・・・・・・本気でつぶしに来たか」


リクターはそう言うと、き、と顔を引き締める。クィル、エノラ、セラーナも一層の緊迫感を持つ。

セウスはそんな中、どこかで感じたことのある気配を二つ、感じ取っていた。

酷く懐かしいそれ。だが、そんなことはない、と首を振り、否定する。

彼らはもういない、と。

そんな彼らの前にも、魔神は現れた。


「お前たちを相手すればいいんだな、俺らは」


「この声・・・・・・・・・・・・!」


突如聞こえた冷徹な声に、身構えるクィルら。その中でセウスはやはり、と言う顔でその声の方向を見る。

いつの間にか、あれほどいた敵は前におらず、二人の男女がそこに立っていた。


黒い甲冑で全身を包んだ騎士と、場違いなドレス姿の、オレンジ色の髪の女性。

それを見て、セウスは呆然として呟く。


「やはり、この声、それにその姿。お前たちが、なぜここにいる・・・・・・・・・・」


そして、砂色の髪の魔神は、いつもの彼とは違い、酷く取り乱した様子で叫ぶ。


「どうして、ここにいる!バルドバラス、セリーヌッ!!」


かつての親友と妻を見て、叫ぶセウスの様子に驚く仲間たち。その一方で妻はクツクツと嗤う。顔は見えないが、騎士も笑っているらしく、その肩は上下にわずかに揺れている。


「なぜ、か。そうだな、セウス。今度こそ、お前を殺すために来た、と言えばいいかな」


バルドバラスはそう言い、横長の漆黒の盾から剣を抜く。

暗い光を宿す、バルドバラスにのみ使用を許された騎士剣を構える。


「さあ、剣を構えろ、セウス」


「バルドバラス、貴様」


セウスはセアリエルを構える。

言葉が通じぬ、とわかったから。

クィルたちも、目の前の魔神たちが敵だと分かり、敵意を隠さない。


「さあ、踊ろうか。セウス・・・・・・・・・・・」


冷たい声で騎士は言い、かつての友に向かっていく。




「およよ。盛り上がってンねえ」


上空でほかの魔神たちの様子を見て、きゃらきゃら笑うハザ。

とりあえず、面白そうな奴がいないため、ハザは殺戮を楽しんでいた。虫けらのように、ちっぽけに死ぬ命。それを見慈悲に、圧倒的に殺しながらハザは笑う。


「ああ~、か・い・か・ん!!」


きゃはははあははあはあああああああああああ、と笑い、地上に降り、軽やかなステップを刻む。

時折腕が兵士の頭を吹き飛ばし、脚が兵士の腹を切り開く。遊ぶように命を奪うハザを、だが止める者はいない。


「ははははあはは、俺様サイコォ―――――――!!!」


そうして笑っていたハザを、何かが襲う。

本能的に危機を察知したハザが身を反らす。

ハザの頭のあった場所を、白い閃光が走り抜けた。そして、それは放たれた方向に戻っていく。


「なんだぁ~?」


ハザは態勢を元に戻すと、ぎろりと漆黒の目で邪魔者たちを見た。


二本の大鎌を構えた少年と、少女。それに、エルフの女。


「なんだ、貴様ら?」


ハザの問いに、美しきエルフの戦士はその手に戻ってきた槍を構えて、ハザを見る。


「貴様を探していたんだ、魔神ハザ」


「およよ、俺様のファンかぃ!?嬉しいねえ」


おどける魔神を、冷たい瞳で見てネフェリアは言う。


「返してもらうぞ、私の宝物を」


「宝物ぉ?」


そう言い、ネフェリアを見て、「なぁるほどぉ」と笑う。その女の顔は、ハザの知る者とよく似ていた。


「けっけっけ、いやだよ~ん」


「ならば、奪い返すまで」


そう言ったエルフと、二人の少年少女を見て、ハザは笑う。

どうやら、俺様にもお楽しみはあるようだ。

ぺろりと舌で唇を舐めり、嗤う。


「いいぜぇぇえっぇ!!犯して殺して、生まれてきたこと後悔させてやんゼぇぇぇええっ!!」


狂気を解き放ち、魔神は跳びかかる。


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