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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
追い求めるは理想と未来、捨て去るは過去と宿命
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立ち向かう者たち



バーティマ。

ゼルに率いられた義勇軍が市民の安全を守るため、街の門を守りで固めていた。

謎の軍勢は圧倒的な数であり、街の外を埋め尽くしていた。

ゼルの命令で魔術師たちの一斉放射が始まり、軍勢が蹴散らされるが、またすぐに湧いてくる。


「くそ、なんて数だ」


自身も魔術を行使し、門に詰め寄る敵を吹き飛ばす。弓矢では碌に攻撃できない。

このままでは近いうちにどこかを突き崩される。

住人達の避難は終わっているが、街からは出られない。このままではやられてしまう。


「ゼル様、南門のほうが危ないとのことです!」


「くそっ」


南門のほうは魔術師たちが他より少ないのにもかかわらず、多くの敵が迫っているらしい。壁を崩されたら、もう防ぐことはできない。

ゼルは急ぎ、そちらに兵の手配をし、自身も向かう。

バーティマの街でこのようなことになっているのだ。国中で同様の事態に追われているだろう。

とはいえ、今はこの街の防衛を考えることが最優先だ。

南門、というと彼女のいる場所にも近い。

絶対に破らせるわけにはいかない。


「帝国からの援軍は?」


「いえ、連絡が取れず・・・・・・・・・・」


水晶による連絡も濃厚な妨害の霧で防がれているらしい。


「くそ、だがこのままでは」


街の防衛戦力では守りきれない。魔術師たちの体力も魔力も有限だ。

ゼル自身、疲れを感じていた。


走りながらゼルは、どおん、という何かが崩れるような音を聞いた。


「!南門がやられたか」


舌打ちし、その方向を見るゼル。

大地がとどろき、軍勢の足音が聞こえる。


「ちぃ!住民をほかの場所に誘導しろ」


近くにいた民兵に言う。


「ゼル様は?!」


「俺は前線の指揮を執る!誘導は任せたぞ」


そう言い、ゼルは奔っていく。

せっかく築き上げた国を、こんなわけのわからない連中に壊されてたまるか。

ゼルは剣を抜き、軍勢と戦う義勇兵たちにまぎれ戦う。


「ゼル様!?」


「余所見をするな!敵を食い止めろ、俺たちの街を守るんだっ」


「は、はい!」


ゼルの言葉もあり、義勇兵たちは士気が上がり、未知への恐怖よりも守るべきものへの想いが勝ったらしい。押され気味であった人々は、軍勢を押しとどめる。

だが、それは一時のことに過ぎないことをゼルは知っている。疲れを知らない敵、湧き続ける敵と違い、こちらは数に限りがあり、疲弊する。

状況は圧倒的に不利であった。

それでも。


「ここを通すな!俺たちの街を、好き勝手させて堪るものかよ!」


青年は叫び、人々を指揮する。

剣を握り、前線で戦いを指揮する彼に従い、人々も突撃する。

そんな彼らの想いを神が聞き届けたかのように。

突然、軍勢の中に落雷が落ち、軍勢を消し飛ばす。

何が起こったのか、とその場を見たゼルの背後に、一人の女が立つ。

その女の顔を見て、ゼルは顔を歪めた。

藍色の髪の魔女は、紺色のローブをはためかせ、そこにいた。


「お、お前は・・・・・・・・・・・・・」


「久しぶりね、小僧」


魔女アテナは、不敵に笑いゼルを見た。


「何をしに来た!?」


「なぁに、ちょっとばかしの罪滅ぼしに、ってね」


そう笑うと、魔女は再び湧いてきた軍勢に、先ほどよりも強力で広い範囲に雷を落とす。


「さあ、解放王サマ?どうするのかしら」


魔女の言葉に、ゼルはふん、と鼻息をつき、指示を出す。


「敵をこのまま街から出すぞ!」


ゼルはそう言い、数を大幅に減らした敵に向かっていく。

魔女はフフ、と笑うとほかの戦場の援護に走る。

ゼルはそれを見届けると、戦闘の中に飛び込んでいった。




グラウキエ大宗主国。

外海より現れた謎の軍勢の攻撃により、街は破壊されていた。

街の防衛のために、拘束されていたレグナや騎士たちも駆り出された。

流石の彼らも、大宗主に反抗しなかったし、この街を守ることを惜しみはしなかった。主義こそ違えど、この国を想う気持ちは同じである。

力なき人々を守りながら、魂のない人形を切り倒す騎士たち。


「とはいえ、数が多いな」


レグナは大剣を手に、敵を切り伏せながら言う。

レグナを取り囲む敵を見て、彼は不敵に笑う。


「ふん、この私を倒そうというのか?私は次の大宗主になる男だ。貴様ら程度にやられはせぬぞ」


そう言ったレグナは、その重い大剣をいとも簡単に片手で持ち、振り回す。意志の人形の胴を薙ぎ払い、核を破壊する。

一体、その攻撃を逃れた石の人形が鉄の槌をレグナに突き出す。レグナはそれを剣を持たない左手で受け止める。そして、握りつぶす。


「その程度で、私を止められるとでも思ったか?魂なき人形よ」


そして、そのまま拳で人形の頭部を破壊し、剣で薙ぎ払った。

ふん、と笑い、余裕の笑みを浮かべるレグナ。

とはいえ、敵の数はあまりにも多い。


「まったく、なんなのだ、こいつらは」


レグナは大剣を振り下ろしながら言う。レグナとともに戦う騎士たちもすでに何人か倒れている。

とはいえ、その死は無駄ではないっはずだ。

大宗主により避難誘導はされているはずであるからだ。レグナは大宗主に批判的であるが、その能力を過小評価はしていない。


(忌々しいことだが)


レグナは苦い表情で剣を振る。

だが、ふとその剣が止まる。

見ると、先ほどまでとは違う形状の石の人形がいた。どこか、表情にかけていた人形には意志があるようであった。


「こいつら、戦いながら進化している、というのか?!」


レグナの剣を受け止めたそれは、見ると鈍く輝いている。石ではなく、鉄や鉱石のように。


「むぅん!」


剣で何とかそれを切り伏せるが、それは続々と現れる。

流石のレグナも、余裕ぶってはいられない。それまではただの雑魚であったから、いくらでも戦える、という思いであったが、今のこれは一対一で相手をするべき相手。

レグナとて、三体を同時に相手できれば御の字だ。


「とはいえ、退くわけにもいかぬ、か」


レグナはそう言い、ぎり、と唇を結ぶ。


「来るがいい、愚か者ども。我が名はレグナ・コーンウォート!女神の恩寵を受けし者なり!我が女神の慈愛を受けぬ者に我は倒せぬぞ!」


そう言ったレグナは敵の群れに突撃した。


それから数刻後。

レグナは大剣を杖を突くように地に差し立っていた。彼の周りには敵の残骸が散らばっていた。

膝で立つのもやっとで、肺が酸素を求めて先ほどからずっと息をつきっぱなしである。

目の前にはさらに敵の軍勢が来ている。

レグナの身体も、彼の大剣もガタがきている。だが、退きはしない。


「どぉした!来るがいい、私を殺してみろぉ!!」


そう言ったレグナに迫りくる軍勢。さしもの彼も死を覚悟した時、

ふわり、と何かが漂い彼の前に、白い長髪の青年が立っていた。


「待たせましたね、レグナ」


「・・・・・・・・・・・・・・・住民の避難は」


現れた青年に、忌々しげにレグナが呟くと青年は笑う。


「ご安心を。あなたの尽力もあり、無事グラウキエ=コンクードに」


グラウキエ=コンクード内の防衛機能と、今まで青年が施していた術により、あそこはこの大陸で最も安全な場所になっていた。

そうか、とレグナは息をつき、地に膝をつく。

大宗主は近くに付き従っていたアルミオンを見てレグナをコンクードまで運ぶように言った。


「!私なしに、この国を守れる、と言う気か?!」


大宗主を見て言うレグナ。いくらこの男と言えども、あれだけの敵を相手に戦えはしない。


「私一人なら、無理かもしれません」


ですが、と大宗主は言い、自身の背後を振り返る。レグナもつられてそちらを見て絶句した。

亜麻色の髪の少女。十六歳ほどの姿の少女をレグナも知っている。


「魔神キュレイア!?」


『慟哭』と呼ばれる魔神。それがなぜここにいるのか。

よくわからない、という顔のレグナの前で大宗主とキュレイアは頷き合う。

そして、キュレイアはその形の良い唇を開き、声を発した。

破滅の声、とまで言われるその声による攻撃。それが来る、と身構えるレグナ。自分以外を破壊するキュレイアのそれにレグナは心臓が止まる思いであった。

だが、それは何時まで経っても来ない。

キュレイアのスキルは発動していないのか、と思ったが、それは違うことにすぐ気づく。

見ると、すぐそこまで来ていた敵はその身体を破壊されていた。

可憐な乙女のように顔を赤らめた少女とそれを抱きしめる青年がレグナを見る。


「レグナ、さあ行きなさい。ここからは、私たちがやりますから」


そう言い、笑う大宗主。

まったく、この人は何時までも変わらない。

自分にはできないことを平然とやってのけ、こうやっていいとこばかり取っていく。

そんなあなたが私は嫌いだった。


「私は決して、お前を認めたわけではないぞ」


大宗主が彼の計画を知っていることはわかっている。だから、レグナは大宗主への嫌悪を隠さない。

知っていますよ、と笑い、大宗主は再び迫る敵を見る。

そして、敵の遠距離からの攻撃を、光の障壁で防ぐと、それを敵に跳ね返す。

それを見て、レグナはアルミオンとともに素直にコンクードに向かっていく。


「行こう、ルルー」


「ええ。ロイ・・・・・・・・・・・!」


そして、二人は敵の中へと向かっていく。




ラカークン大陸。

アクスウォード王国の第一王子カッシートは、すぐさま国に戻り、謎の第三勢力に対しての防衛に務めた。

もはや帝国だなんだ、と言っている暇はなかった。帝国も同様であるらしく、アクスウォードとの戦争を中断し、自国内に戻っていった。

カッシートも急ぎ戻ったのだが、国内も大陸内もすでに敵の侵攻を受けていた。

く、と奥歯に力を噛みしめながらも、カッシートは弟王子や部下に指示を飛ばし、自国や周辺国家への救援に向かわせ、自身も王都近くまで接近していた敵の対処のために剣を握る。


「何という数・・・・・・・・・・!」


これほどの敵を見たことはない。いかに帝国と言えど、これほどの兵力を投入できるはずはない。

それほどの数を前にしながらも、退くことはできない。彼の後ろにあるのは、王都。彼の家であり、彼のすべてである。


「通しはせぬ」


カッシート率いる軍が迫りくる敵に盾を構える。その後ろから魔術による支援があり、敵の数を減らすが、その大軍の前には足止めにすらならない。

激突し、盾は弾かれ、兵が死んでいく。カッシートも前線で剣を振るうが、味方は次々と死んでいった。

主だった将兵も死に、カッシートの存在だけで戦場は支えられているようなものであった。


「くそ」


弟王子たちは無事か、そう心配する余裕もない。

剣を必死でふり対抗するカッシートをあざ笑うように、敵は迫る。

敵によって、剣を弾き飛ばされ、丸腰になるカッシート。魔力は尽きており、もう持っている武器と言えば、短剣のみ。

短剣でも、抵抗はできる。死ぬならば、せめて少しでも道連れに。

そう思ったカッシートだが、突如、敵は動きを止めた。

何事か、と思うカッシートは、ふと頭上に誰かがいるのを感じた。

カッシートは空を仰ぎ見る。


それは、美しい女性であった。

金色の美しく繊細な髪は一本で束ねられ、風に乗っている。丁寧な刺繍と文様が施された騎士服は、かつて存在したアノガイール王国のもの。腰に差したその剣は、伝説に名高き『剣聖剣』。かのトローアの王にも使えた女剣聖が使用したものであり、剣に生きるものならば一度は夢に見たであろうもの。

女は誇り高き騎士であり、剣士であり、そして魔神として怖れられる存在である。


「レヴィア=ツィリア・・・・・・・・・・・」


何故、ここに、と思うカッシートの頭上で、騎士は剣聖剣を鞘から抜き、敵を見る。

彼女の能力により、その時を止められた敵軍を。


「魂なき者たちよ。何が目的かは知らぬが、この世界の秩序を乱そうものならば、このレヴィア=ツィリアが相手をしようぞ」


剣聖はそう言うと、その剣を敵に振るう。

ただ一閃しただけで、数百の敵の身体が横にずれ、大地に倒れる。

そして、再び剣を振るう。再び、数百の敵が瞬く間に切り伏せられる。

これが、魔神なのか、と見るカッシートの前で一方的な戦いが繰り広げられる。




世界中を、謎の敵が襲撃していた。

けれども、その新たな敵に人々はそれまでの戦いを忘れ、その敵に対して団結し、戦った。

多くの命が奪われながらも、人々は希望を胸に戦い続けていた。



アンセルムスは静かにそれを世界蛇の中から見ている。


「ちぃ、なんてことだ」


彼の思っていた以上に戦果は上がらない。それどころか、こちらの消費は想定の三倍以上。いくら世界蛇が無限の軍勢を生み出せると言っても、それも使用者の魔力が尽きなければ、という話だ。

トラキアの魂なき肉体は、まだ魔力があるが、それもいつ尽きるかわからない。

世界蛇を使うことを渋ったのは、このこともあった。世界を相手に戦える、というのは過去の話。トラキアが世界を支配した時代は終わり、世界は時が経っている。

だからこそ、混乱した世界において使用するのが、効果的なのだ。だが、それももうあり得ない。


「・・・・・・・・・・・」


レヴィア=ツィリア、キュレイアといった魔神の存在。それも大きい。

北のハウシュマリアはまだ動いていないが、『凶星』が出てくればトラキアの軍zネイなど、ひとたまりもない。

早急に滅ぼさなければ。

アンセルムスはハザをはじめとした魔神たちに命じる。


「ハンノ=イヴリスをまずは徹底的に攻撃しろ、そして確実に滅ぼせ」


クロヴェイルをはじめ、イレギュラーもいるハンノ=イヴリス。一番危険なのは、ここであろう。

早くそいつらを始末しなければ、まずいことになる、と青年は考えていた。


「ずいぶん、焦っているわね」


そんな青年の座る玉座の隣で、女の声がした。


「!?」


アンセルムスが見ると、そこには一人の魔神がいた。


「魔神ジャヒーリア、か」


「初めまして、アンセルムス。こうして話すのは初めてね」


そう言った女は紅い髪を揺らしならアンセルムスの前に立つ。


「何の用だ?」


「このような状況になっても、まだ、破壊を望む?」


女の言葉に、強く頷くアンセルムス。止めることはできない憎悪が彼を突き動かす。

いくら魔神と言えども、この身に宿る焔を消せはしない。


「そう、哀しいわね。アンセルムス。いつか、あなたも気づくでしょう」


「何を言っている」


「いいえ、ただの独り言よ。そう、ただの、ね」


そう言ったジャヒーリアはその身を翻し、アンセルムスを一瞥する。


「そろそろ、この輪廻を見るのも飽きてきたのよ」


「何を言っている?」


「何も」


そう言い、魔神は消えていった。

釈然としない思いを抱きながら、しかしアンセルムスはすぐにそれを忘れ、世界蛇の頭をイスカンブールに向ける。



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