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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics―  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
19/88

魔族国侵攻 光と闇

クィルとエノラは、魔族の民間人の避難誘導をしていた。

戦闘のために、二本の剣を構える父に自分も、とクィルが言うと、父親は静かに首を振る。


「どうして?!」


「私が死んだとしたら、その時、インヴァテールやほかのものを纏めることになるのは、お前だ。クィル」


「父上・・・・・・・・・」


ヨトゥンフェイムは息子の肩を手でたたくと、クィルの瞳を覗き込む。


「生きろ、クィル。そして、より多くの命をすくえ。そして、作ってくれ、我々が迫害されなくて済む、優しい世界を」


「父上・・・・・・・・・・!!」


クィルは、父親に抱きついた。

今まで、クィルは父に感謝の言葉を面と向かっていったことはなかった。父も、クィルに特別「愛している」などとは言わなかった。

それでも、確かに二人は親子であり、思いは通じあっているのだ。


「心配するな、前にも言ったが、死ぬ気はないさ」


壮年のインヴァテールは笑うと、その様子を見守っていたエノラを見る。


「エノラさん、息子を、頼みますぞ」


「はい。ヨトゥンフェイム様」


そう言うと、ヨトゥンフェイムは静かに背を向け、インヴァテールの屈強な男たちを引き連れて、激戦の中へと歩いていく。

そんな父の背を見送り、クィルは言った。


「避難する民の誘導をする!中央部シェルターまで、皆助け合うように!」


クィルはそう言い、戸惑う民に自身の姿を見せる。

クィルのその堂々としたたたずまいに、皆冷静さを取り戻し、彼の言葉通り、シェルターに向かう。

エノラはそんなクィルの背を見る。

本当は、心配であるのに、感情を押し殺し自分の役割を果たそうとする彼の気持ちは、痛いほどわかる。

いざとなれば、私が彼を守る。たとえ敵が、同じ人間であろうとも、祖国であろうとも。

エノラに手には、魔力で作られた刀のほかに、もう一本剣が握られていた。

殺すことはできないエノラの刀とは違い、これはエノラでも殺すことができる。

それが、彼女の覚悟であった。


「クィル」


エノラが声をかけると、クィルは静かに頷く。


「わかっているよ、エノラ。行こう」




未だ戦火の及ばぬ地区を巡り、避難誘導をする二人。二人のほかにも、何人かの者がそれを行っていた。

中には避難中に襲われる者もいた。

いかに魔族の精鋭と言えど、数の上では少ない。地の利は、魔族にあるが、それもこの奇襲の前にはあまり意味を成さない。

襲い掛かってきた人間の兵士を倒したエノラとクィル。

どことなく、顔の青いエノラの方に、クィルは手を乗せる。彼はその時、自分の血に塗れた手に気づき、急いで肩から手を退ける。


「気にしないで、クィル」


「エノラ?」


「もう、覚悟はしているから」


そう言うと、エノラは言う。その瞳に、迷いはない。


「あの人たちは、無事逃げれたかな?」


襲われかけた魔族たちを思い出し、エノラが言うと、クィルは大丈夫、と言った。


「俺たちが戦っている間に、誘導していた魚人族がいた。・・・・・・・・・・大丈夫だ」


クィルは父のことを心配していた。それでも、父から与えられた使命を果たすことで、何とか紛らわせている、と言った様子だ。

エノラとて、心配である。たった二週間にも満たない日数だが、本当にヨトゥンフェイムはエノラによくしてくれた。それこそ、本当の父のように。

王宮という特殊な環境で育ったエノラにとって、ヨトゥンフェイムは大きな存在となっていたのだ。

実の子であるクィルの心境は、言うまでもないだろう。


「さぁ、急ごう。まだ、助けを必要とする人はいる」


耳に聞こえる戦場の音から、東地区にはいまだ多くの逃げ遅れた人々がいるらしい。

クィルがそう言うと、二人はそちらに向かっていく。

族長の一人、トロント死後、押され気味であるらしく、民間人の犠牲者も多いという。

二人もそちらに向かうまでに、多くの人間族の兵士と遭遇していた。


「しねぇ、魔族ぅ!」


狂信的な目でクィルを見ると、兵士は槍を突き出す。

クィルはそれを回避すると、右手に握った短剣で兵士の喉笛を切り裂く。


「ぐえぇ!」


「クィル!」


物陰から放たれた矢。それを見たエノラが警告を発すると、走り出す。

そして、矢を叩き落とすと、魔力で作られた刀を元に戻し、魔力の弾を作り、放つ。

それを視認できなかった狙撃手の頭部が爆ぜる。

エノラの前に、数人の兵士が向かう。だが、エノラは再び刀を作り出すと、それで兵士を斬りつける。

斬りつけられた兵士は、自身のスキルと魔力の消失に驚く。その一瞬のすきを、エノラは見逃さず、一撃でその首を斬り飛ばす。

血に塗れた頬を拭い、彼女は立ち上がる。

クィルは指をパチンとはじく。

二人のいる場所から少し離れた場所で、兵士の苦しむ声が聞こえる。


「何をしたの?」


「少し、幻痛を、ね」


そう言うと、クィルは走り出す。

が、すぐに止まる。


「どうしたの?」


「・・・・・・・・・・誰か来る」


そう言い、警戒するクィル。エノラも、緊張する。

二人が警戒しながら、前方の十字路を見る。

十字路の右から、見ら先色の影が飛び出す。

それは、見るからに魔女、と言った風貌の少女であり、何やら戦闘をしているようだった。

魔族が襲われているのか、と思ったが、様子は違うようで、少女の跡から見えてきたのは、セアノの騎士だった。


「まさか、魔力無効化スキルの、持ち主、なんて・・・・・・・・・・」


とぎれとぎれの息で、フラフラの少女はそう言うと、転んだ。


「敵ではない、ようね」


そう言うと、エノラは走り出す。

魔力無効か、と言う言葉から、彼女のスキルでは敵を倒すのは難しいだろう。

クィルは竜化を部分的に行うと、走り出す。脚部は、紫色の鱗で覆われ、鋭い爪が突き出していた。

エノラが少女に迫る騎士の剣を受け止める。

騎士はエノラを睨み、距離を取ろうとする。

だが、その頭上をクィルが跳躍し、騎士の背後を取る。

騎士は咄嗟にクィルを見るが、遅い。

クィルの強靭な脚で放たれた蹴りで、騎士は鎧ごと吹き飛ばされる。

内臓を圧迫され、全身の骨を砕かれた騎士は、口から血を流し、気を失う。


「エノラ、先行するな。あんたのスキルじゃ、今の敵は・・・・・・・・」


「私は君を信じている、だから安心して背中を任せられる、クィル」


「そう言う問題じゃぁ」


クィルの言葉を、エノラは遮り、少女に手を差し伸べる。


「無事か?」


「あ、ありがとうございます」


その手を取り、立ち上がった少女。

三角帽から出る長いオレンジ色の髪は土ぼこりで汚れ、ローブも所々汚れたり破けているが、少女に体力の消耗以外はないようだ。


「人間、か?どうして人間が人間と・・・・・・・・・・・」


クィルの言葉に、少女は少し困った顔をする。


「ええと、まぁ、私は人間ですけど、そこまで魔族の人たちに偏見とかないつもりですし、それに」


少女はその少し垂れた瞳に強い光を覗かせた。


「こういうこと、見過すなんてできない性質で」


「なるほど、な」


そう言い、クィルはエノラを見る。

まさか、彼女のような馬鹿者がまだいるとは、と。

人間に失望する一方で、こうしたものもいる、と言う事実。それはクィルにとって、小さな光であった。


「感謝する、俺の名はクィル。彼女はエノラ、君と同じ馬鹿な人間さ」


「馬鹿、とは光栄だね」


エノラはそう言うと、少女に手を差し伸べる。少女はその手を強く握る。


「エノラ・アンスウェルだ。よろしくたのむ」


「セラーナ・シャイアです」


そう言うと、少女は二人を見て口を開く。


「たぶんですけど、この辺の人はみんな逃げたと思います。私を追っていた騎士以外は、連れが相手をしているようですし」


「連れ?大丈夫なのか、その人は?」


エノラの問いに、セラーナと言う少女は強く頷く。


「ええ、あの人なら、大丈夫でしょう」


強く信じるその姿を見て、エノラは沈黙する。

たとえ、援護に行こうとしても、クィルとエノラには任された使命がある。

シェルターに逃げ込んだとしても、敵が来ないとは限らない。

絶対に攻め込まれないはずの魔族国が攻められたのだ、シェルターが無事、と言う保証はどこにもない。


「俺たちは、シェルターに行き、人々を守らなければならない。・・・・・・・・・・あんたはどうする?」


クィルの問いに、少しセラーナは考え込む。


「そうですね、もう、こちらのことも伝わっているでしょうし、捕まったら大変なことになるでしょう。ご一緒しても、いいですか?」


「恩人に刃を向けはしない。魔族は友を売らない」


そう言うと、セラーナは頷く。

三人は、シェルターのある魔族国中心の長老会議所まで走り出す。





「はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・」


粗い息をつき、剣で体を支える魔神セウス。

不老不死と言えど、体力が無限に続くわけではないし、首を落とされたらさすがにセウスと言えども死ぬ。

それでも、そこらの兵士程度ならば、セウスの敵ではない。

だが、今回の敵は違う。

おそらく、実力的にはセウスと同等か、それ以上。

敵は自身を魔神、と言った。

序列八位、『狂笑』セウス。

名の通り、常に笑みを浮かべ、戦いとなると、狂った笑い声をあげ、漆黒の杭を放つ。

魔力で作られたものではなく、セウスの魔術にもピクリともしない。

厄介な遠距離攻撃のみならず、魔神の近接格闘も厄介であった。

鋭い手刀から放たれる一撃は、おそらく一撃でセウスの腕を落とすだろう。

二つの攻撃をかわしながら、セウスは戦い、疲労はたまっていた。

それでも、流石セウス、と言ったところか。致命傷は見事に避けていた。

それどころか、油断した魔神に、一撃だけだがダメージも与えていた。


「なるほどねェ――――――。さすが、伝説の騎士様、ってェとこか」


自身の二の腕から流れる血を見て、にやりと笑う魔神ハザ。真っ黒な眼球が愉悦に歪む。


「いいねえいいねえ。やっぱり、戦いってのはぁ、スリルがなきゃあ、詰まらねえよなァ?」


ケキャキャキャ、と耳障りな笑い声を出す魔神を、セウスは静かに睨む。


「貴様の目的はなんだ、魔神ハザ。この襲撃は、お前の目論みか?」


セウスの質問に、おかしそうに笑うハザ。


「この俺様がこれを起こした?馬鹿言っちゃあいけねえ!そんなことしたら、ほかの魔神に睨まれちまう!俺は飽くまで手助けしただけ、人間どもの心をすこぉし、な」


そう言ったハザは、セウスをじろりと眺める。


「これを起こしたのは、ある人間の男さぁ・・・・・・・・・・そいつはな、面白いことにスキルもなければ、なぁんの才能も持たない男でなあ」


おかしいだろう、と同意を求めて笑うハザ。だが、セウスは笑いはしない。


「そいつの計画に、俺様はのった。それだけさ」


さて、とハザは言うと、セウスに背を向ける。


「どこへ行く」


「義理は果たした。それに、これ以上暴れると、この大陸の魔神に目をつけられるからなあ、『刻躁』のレヴィア=ツィリアにな」


そう言うと、男の周囲の空間がゆがむ。


「まぁ、いずれほかの魔神も殺してやるがなァ!あばよ、セウス。次に会ったときは」


その瞬間、ふざけていた魔神の目が細まり、黒い瞳の奥に紅い光が輝く。


「てめえを殺す」


そして、また元の調子に戻り、キャラキャラと不快な笑みを浮かべて消える。

セウスは、敵の消えると同時に、プレッシャーが消え、疲れた体を地に横たえる。


「・・・・・・・・・・」


そして、少し体を休めると、立ち上がる。


「セラーナ」


セウスは少女の名を呟くと、走り出す。

セラーナの魔力の残滓を追うセウス。

誇り高き騎士は、ただただ少女を求めて走る。






魔神ハザは、魔族国の西側の、荒れ果てた街中に現れると、かつては噴水だった場所に座る。

そして、鼻歌交じりに空を見ていると、ふと顔に影が差す。

ハザは視線を下げ、隣に立つエルフの少女を見る。


「よぉ、お仕事はやったか?」


こくり、とうなずくエルフの少女。

ハザは邪悪な笑みを浮かべて少女の頭を撫でる。


「よぉし、えらいぞぉ、ジェネス。それでこそ、俺様の奴隷だあ」


少女は何の感情も浮かばぬ顔と目でハザを見る。

ハザはその目に満足すると、少女の手を握り、指を鳴らす。

周辺の魔力が乱れ、闇が氾濫する。

二人の目の前に、人一人分ほどの次元の扉が出現する。


「さぁて、帰るかなァ。アンセルムスの奴、次はどんなことをするのかねえ」


キャハハハハハ、と声を上げる魔神と、美しきエルフの少女は次元の扉に入る。

二人が完全にそこに入り込むと、魔力が拡散して、扉は消えた。



魔神と少女が消えた後も、魔族国での人間の侵攻は続いている。

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