00 - 開戦
轟音が廊下を震わせた。
壁に叩きつけられた空手部の部員が、崩れるようにその場に膝をつく。
その向こうでは、アメフト部の巨体がまるで壁のように並んでいた。
「押し込め! このまま一気に片をつけるぞ!」
号令とともに、部員たちが一斉に前に出る。
個々の技では上回る空手部員たちも、連携した質量の暴力に押し込まれていく。
空手部の前衛が一人、また一人と弾き飛ばされ、後退を余儀なくされる。
だが、その時——
「下がれ!」
凛とした声とともに、空手部の部員たちの間を、一つの影が滑るように通り抜けた。
短く揃えられた艶やかな黒髪、端正な顔立ちに、すらりと引き締まった長身。
空手部主将、鷹野千紘。その姿を目にした瞬間、空手部員たちの表情に安堵が広がった。
鷹野が最前線に立ち、静かに正拳を中段に構える。それだけで、周囲の空気が変わった。
突進してきたアメフト部員の先頭に対し、鷹野は半歩だけ踏み、正拳突きを胸元に叩き込む。
「がはっ……!」
拳を受けた瞬間、その巨体がまるで紙屑のように後方へと吹き飛んだ。
動揺が走るアメフト部員たちに、鷹野は間を与えない。
二人目に対しては、低く沈み込んでからの前蹴りで体勢を崩し、よろめいたところに掌底を叩き込む。
三人目が横から組みつこうと腕を伸ばしてきたが、その腕を外側から払い、引き込むようにして裏拳を放つ。
瞬く間に数人が倒され、アメフト部の突進が止まる。
「……どけ」
鷹野を前に怯むアメフト部員たちをかき分け、一人の男が歩み出た。
岩のように分厚い体躯は、立ちはだかるだけで背後の光を完全に遮るほどに巨大だ。
短く刈り込んだ頭の下で、猛獣を思わせる細い眼光が鷹野を射抜く。
アメフト部主将、牛島鉄平だった。
長身の鷹野を、さらに頭二つ分は上回る背丈に、鎧のような筋肉。
学園随一の質量を誇るその巨体が、一歩踏み出すごとに廊下の床が微かに震える。
「やっと出てきたか、牛島」
鷹野はその姿を見てニヤリと笑みを浮かべた。
「さすがだな、鷹野。だが、その細い腕でどこまで耐えられるか、見物だ」
「言葉は不要だ。……来い」
鷹野は重心を低く落とし、前に出した左拳の位置をわずかに上げる。
牛島の巨体がゆっくりと沈み込んだ。
アメフトのスリーポイントスタンス。地面に指を触れ、全身をバネのように圧縮する。
二人の間の空気が、目に見えるほどに張り詰めた。
鷹野が地を蹴る。牛島が爆発的に飛び出す。
二つの影が交錯しようとした、その瞬間——




