表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード1 おいしいプリンと魔王討伐
10/97

9 逃げ出した翼人《ハーピー》は、少女に気に入られて…

 魔王の城は大混乱に陥っていた。

 アリスとローザはそれをおもしろそうに眺めている。

 「きゃは、アウローラ、容赦なしね。」

 「ま、アウローラにかなう相手なんて、いないものね。」

 ローザがキャッキャッと楽しんでいるとき、アリスの目が、城の屋上から飛び上がる一団を捕らえた。

 「だれか、逃げ出そうとしているよ。」

 「ほんとね。」

 飛び上がってきた一団の先頭は、アメルダと呼ばれた魔人だ。背中から出た灰色の羽根を一生懸命に羽ばたかせ、できるだけ遠くに逃れようとしている。


 「なんなの、あいつら。やってられないわ。」

 アメルダは、城を見下ろしながら速度を上げた。

 「アメルダ様、待ってください。」

 後ろに続く部下の翼人ハーピーたちは、アメルダに置いて行かれまいと、必死で追いかけた。

 そのとき、一人のハーピーがあることに気付いた。

 自分たちの行く先に、女が二人、浮かんでいるのだ。

 アメルダもそのことに気付き、急いでブレーキをかけた。

 「どこへいくの?」

 アリスがニコニコ笑いながら、アメルダに尋ねた。その後ろでは、アリスに隠れるようにして、アメルダたちを覗き込むローザがいた。


 「そこをどきなさい。」

 アメルダが威嚇する。

 しかし、アリスはニコニコ笑うだけで、動こうとしない。

 「お退きって言っているのよ!」

 それでも動こうとしない。


 アメルダの後ろにいたハーピーの一人が焦れて、アリスを排除しようと襲い掛かった。

 手にしたロングソードが、首筋を狙う。

 それを笑顔のまま見つめるアリス。

 ロングソードがアリスの首を飛ばす─かに見えた。

 「あぶないじゃない。」

 ハーピーの手にはロングソードがない。

 それは、アリスの右手に納まっていた。

 「あまりいい剣じゃ、ないみたいね。かえすわ。」

 アリスの右手からロングソードが消えた。

 「ぐっ…」

 いつのまにか、ロングソードがハーピーの額に突き刺さっている。驚きの眼で見ていたアメルダの前で、ハーピーは絶命して墜落していった。

 「皆の者、こやつを殺せ!」

 アメルダの号令とともに、従っていたハーピー、5人がアリスを取り囲む。その間にアメルダは、反対方向に逃げ出した。


 部下を囮に使ったのだ。


 「あらら、部下は置いてけぼり?」

 呆れ顔のアリスに、取り囲んだ5人のハーピーが襲い掛かった。

 それを見て、アリスの目が虹色に輝く。

 一瞬、アリスがまぶしく光った。

 その輝きにハーピーたちは思わず目を瞑り、攻撃が一時的に止まった。

 次に目を開けた時、アリスは目の前から消え、いつの間にか自分たちの横に移動している。

 「目くらましか!」

 それぞれが手にしたロングソードが、移動したアリスに向かって突きかかる。アリスはそれを見て、あわてて手を振るが、それを無視して、4つの刃がアリスの身体を貫いた。

 「ぎゃああぁぁぁ~!」

 絶叫とともにアリスは、墜落していく。

 「やった。」

 と、仲間のいる方に顔を向けた時、目の前に倒したはずのアリスが浮かんでいた。

 「きさま、まだ、死んでなかったのか!?」

 そう叫んで、ロングソードを振るう。

 血飛沫と絶叫を上げて、アリスが墜落していく。

 ホッと一息ついたその刹那、死んだはずのアリスが、また襲い掛かってきた。襲われたハーピーは、必死に剣を振るい、その脅威を退ける。


 それが、更に二度続いた。


 ハーピーは、こいつは不死身なのかと、思いながら剣を振るう。

 そして、やっと静寂が訪れる。

 周りを見れば、自分以外、だれもいない。

 一緒に逃げてきたはずの仲間もいない。

 キョロキョロと辺りを見回したとき、自分の肩を叩く者がいた。

 急いで振り返る。


 目の前にいたのは、アリスだった。


 「お、おまえは!?」

 「がんばったね。ご苦労様。」

 アリスはニコニコ笑いながら、残ったハーピーの頭を撫でた。

 「どうして?確かに殺したはずだ?」

 「仲間をね。」

 「仲間…?」

 アリスが下を指差す。

 それにつられて下を見ると、地面に仲間のハーピーたちが転がっていた。

 「私と勘違いして、殺しちゃったのね。」

 楽しそうに話すアリスに、ハーピーは怒りを露わにした。

 「きさま‼」

 手にしたロングソードを振る。

 アリスの胴を薙いだはずであった。

 しかし、アリスは平気な顔で、笑っている。

 しかも、自分の手にはロングソードがない。


 そのとき、胸に激痛が走った。


 見ると、自分のロングソードが心臓を貫いている。

 「へ…」

 訳も分からず、ハーピーの目はぐるんと回り、そのまま地面に落ちていった。

 すべてのハーピーを片付けたことを確認すると、アリスは、アメルダの逃げた方向に目を向けた。

 「ローザ、いい玩具を手に入れたかな。」


  

 アメルダは、魔王城から少しでも遠くへ逃げようと、飛行速度を上げた。限界を超えるようなスピードで飛ぶアメルダは、さすがに疲労が頂点に達したと見え、スピードを落とし、やがて空中で静止した。

 後ろを振り返ると、魔王城はすでに視界の外だ。

 (ここまで、逃げれば大丈夫か?)

 ホッと息を吐き、安心感に心を休ませたアメルダの目の端に、なにかが掠めた。


 「えっ?」

 アメルダは辺りを見回す。


 しかし、だれもいない。


 (気のせいか)

 一時の不安を解消させようと、深呼吸をする。

 そのとき、


 「ねえ」


 聞いたこともない声が、アメルダの耳に届いた。

 急いで辺りを見る。

 アメルダの目に、人の姿は映らない。


 「ねえ、おねえさん。」

 また、聞こえた。

 頭上だ。

 すぐに上を向く。


 目の前に少女が浮かんでいた。


 セーラー服を模した服装に、栗毛色の髪を肩のあたりで切り、赤い瞳に浅黒い肌、そして、長い耳。あきらかな闇妖精ダークエルフの少女、ローザは、無邪気な笑顔─アメルダにはそう見えた─でアメルダを見つめていた。


 「おまえは、だれだ?」

 「おまえはないでしょ。私にはローザというちゃんとした名前があるんだから。」

 ローザは少女らしく頬を膨らませ、アメルダに抗議した。

 その幼い姿に、アメルダは気を許しそうになるが、自分に気づかれないうちにそばまで近寄れる力に気づき、警戒心を新たにする。

 「ローザ…ちゃん? って言うんだ。ここで何してるのかな?」

 相手を油断させる意味も含めて、アメルダは優し気に語りかける。それに対してローザの反応は、わかりにくい。ただ、笑顔を向けているだけだ。

 「私に用事がないようだから、おねえさん、これでいくね。バイバイ。」

 手を振りながら、アメルダが飛び去ろうとすると、その前にふわりと移動し、ローザはアメルダの行く手を遮った。


 「ねえ、私と遊ばない?」


 その笑みに邪悪な危険を感じたアメルダは、いきなりシミターで斬りつけた。それをローザは、風で流されるシャボン玉のように躱した。

 「きゃは、遊んでくれるんだ。」

 相変わらずの邪悪な笑みに、アメルダは警戒心を最大限に高め、シミターを顔の前に構えた。


 殺気がローザに向かって迸る。 

 しかし、ローザはなんの反応も見せない。

 アメルダのシミターが、ローザの首を狙って走る。

 ふたたび、風に流されるように、身体が後ろに下がる。

 そのとき、アメルダの口から銀の光が、ローザの目に向かって飛んだ。

 アメルダの目が笑う。

 銀の針が、ローザの目に突き刺さる寸前、ローザの手が顔の前に伸び、銀の針をその指の間で挟めて止めた。

 アメルダの口が、驚愕で歪む。


 「こわいね。おねえさん。」

 何にもなかったような顔で、針を放り投げるローザを見て、アメルダは戦慄を感じた。

 (やばい、こいつ…)

 しばしの対峙の時が流れる。

 アメルダの背中の羽根が、いきなり大きく羽ばたいた。

 すさまじい突風がローザに吹き付ける。さすがのローザもそれに抗しきれず、吹き飛ばされてしまった。


 「いまだ。」

 アメルダが逆方向に逃げようとした時、目の前に熊のぬいぐるみが浮かんでいた。

 「?」

 アメルダはそれを避けるように飛ぼうとしたが、ぬいぐるみはその前に立ちはだかるように移動してくる。

 「邪魔よ!」

 手にしたシミターで、ぬいぐるみを真っ二つにする。そのまま飛び去ろうとするが、また別の熊のぬいぐるみが立ちはだかる。

 「なに、これ?」

 気が付くと、後ろにもぬいぐるみが浮かんでいる。

 右にも左にも、下にも上にもだ。

 「邪魔しないでよ。」

 シミターが目の前のぬいぐるみを切り裂く。

 綿が空中に広がる。

 それをきっかけにぬいぐるみがアメルダに抱きついてきた。

 「うるさい!」

 シミターがすがるぬいぐるみを次々と切り裂いていった。そのたびに綿が空中に広がっていく。やがて、綿がアメルダの身体にまとわりつき、アメルダの動きを封じようとしてきた。

 アメルダは必死に綿を取り除こうとするが、宙を漂う綿は次々とアメルダに取付いてくる。そしてついには、アメルダは綿に包み込まれてしまった。


 「た、たすけ、たすけ…て…」

 手足や羽根をバタつかせるが、綿はアメルダから離れることない。

 「おねえさん、気分はどう?」

 さきほど、吹き飛ばしたはずのローザが、アメルダの頭上に現れた。

 「たすけ…て…」

 アメルダは必死に手を伸ばそうとするが、綿が邪魔で身動きできない。

 「おねえさん、いい玩具おもちゃになってくれそう。」

 ローザが邪悪な笑いを上げる。

 綿はアメルダの全身を覆い隠し、少しずつその体積を縮めていった。やがて三十センチほど大きさになると、ローザがそれを手に取った。

 「コンバート・マリオ(人形変化)」

 ローザの詠唱とともに、綿の塊は徐々に人の形になり、やがて羽根の生えた人形となった。

 その顔はアメルダの顔であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ