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戦乙女ドールズ、ただ今参上!  作者: フミヅキ
第一章 いざ、戦場へ!
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いざ、戦場へ!①

「みんな、おはよう!」


 俺は黒縁メガネの位置をクイッと直しながら、眼前の美少女達に向かって大きな声で挨拶した。毎日の習慣とはいえ、目の前の壮観には、いつも鼻の穴がピクピク震えるのを抑えきれない。


 だが、そんな俺の肩を、隣に座ったミワ坊が慌てて揺さぶった。


「しー! ナオってば声が大きいよ!」


 人差し指を立てて唇にあてるミワ坊の仕草に、俺は慌てて自分の口を手で覆う。夏休み早朝の、まだ暗い時間であることを思い出したからだ。


 ミワ坊は俺――北王子直蔵と同い年、かつ、家がお隣同士の悪友であり、そして、共通の趣味を持つ同志でもある。名前は河津屋三和。一応、性別は女なのだが、髪も短いし、ズボンや短パンばっかり履くし、色気のない男みたいな奴だから気兼ねなく付き合えるツレだった。


「まあ、ついつい興奮しちゃう気持ちもわかるけどね。これだけの美少女達に囲まれていればね」


 そう。三和の言うとおり、俺達の目の前には古今東西、果ては異世界の美少女達が並び立ち、思い思いに可憐なポーズをキメていた。黒髪・茶髪・金髪は当たり前、中には赤髪・青髪・ピンク髪も普通にいらっしゃる。衣装も制服から普段着、水着、鎧や戦闘服など様々で、微笑んだり、キリッとキメた顔だったり、照れていたりと表情もバラバラだった。


 なんという眼福。

 といっても、フィギュアとドールなんだけどね。


 首都圏の片田舎である花ヶ塚市のとある住宅街に建つありきたりな一軒家、その中の狭い俺の自室に鎮座する棚には、二次元のキャラクターを出自とし、三次元のフィギュアとして縮小投影された可憐な美少女達がずらりと並んでいた。俺と三和とで丹精込めて製作したガレージキットの美少女フィギュアがメインだが、三和が中心となって少しずつ蒐集している愛らしい美少女ドールもいる。


 彼女達は俺と三和が愛してやまない小さな妖精達だった。三和も自分のドールやフィギュアは自分の家に置いておきたいという思いはもちろんあるのだが、少し事情があり、彼女の少女達も俺の部屋で預かっていた。


「でも、ナオってば、あんまり煩くすると、また祐二兄さんに嫌味を言われちゃうよ」

「ヤバイ!」


 俺は窓越しに隣の家を覗うが、どうやら起こしてしまった様子はないので安心した。祐二くんはミワ坊のお兄さんなのだが、柵を挟んで向かい合うこの部屋で俺とミワ坊が巻き起こす騒音が、度々迷惑をかけてしまっているのだった。


「いや~、でも興奮を隠しきれないぜ! いよいよ、戦いが始まるんだからな。みんなドキドキしていい顔してるじゃないか」

「そうだね。みんなの素敵な顔を撮っておこう!」


 そう言うと、ミワ坊は自分のリュックからハンディーカムを取り出し、棚に並んだ少女達を舐めるように撮影し始めた。


「新しい仲間が来るかもしれないという期待と不安に震える女の子達! いいね、いいね! いいよ、みんなぁ!」


 にこにこ微笑みながらハンディーカムのディスプレイを覗いていた三和の顔は、次第に鼻の下が伸び、好色そうな笑みが口の端に浮かび始める。その上、鼻の穴がピクピクと動き、ムフンムフンと鼻息も荒くなっていく。


「ふおおおおおおお! 早朝のちょっと薄暗い環境がまたその表情を引き立てておりますゾ! そそられますなあ。うひょひょひょひょ! いいね、いいね、いいね~! みんないい顔してるよ、可愛いよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ! 素敵だよおおおおおお!」

「ミワ坊、声、声!」

「は! おっとっと。心のうちの声がついつい。失礼しました!」


 ミワ坊は俺の理解すら超えた高みに飛ぶことがたまにあるのが玉に傷だ。


 いつもそうするように、俺がノートPCを立ち上げ、ミワ坊がハンディーカムをケーブルでつなぐ。撮った映像を俺達の活動記録ブログ「花ヶ塚美少女名鑑」に埋め込んで記事を作るのだ。



タイトル:いよいよ決戦の日!


本文:彼の地へと向かわんとする俺とツレを見送る美少女達の姿です! 俺達も緊張してますが、彼女達も同様に緊張している雰囲気がビシバシ伝わってきます。どんな戦果をあげられるか不安と期待で脳みそがスパークしそうですが、ベストを尽くすのみです。それじゃ、今から出発しまーす!



 プレビュー画面で確認して、投稿ボタンを押す。実際にブログのページを開いて、動画の再生も問題ないことを確認し、俺は満足して頷く。だが、一緒に画面を覗き込んでいたミワ坊が首を傾げた。


「あれ? ねえ、このニュース、この辺のじゃない?」


 相互RSSの欄に表示された記事タイトルの一つを三和が指差した。花ヶ塚市の怪しげなローカルニュースを扱うサイトのものだ。


「あー、あの都市伝説みたいなやつか」


 曰く、「花ヶ塚市で不審な昏倒が多発してるけど、それがオカルトじみててマジで怖い件」という、わかりやすい煽りタイトルが内容の胡散臭さを示している。俺は眉唾な顔だが、ミワ坊は怖がるような表情を浮かべる。


「なんか怖いよね。若い人でも突然倒れて……そのそばでお化けの目撃があるってやつでしょ?」

「倒れた人の周りで黒い影を見た人がいるとかなんとか、好き勝手に噂を広めてる奴がいるみたいだな。俺は騒がない方がいいと思うけど。倒れた人達にも失礼だよ」

「そっか。そうだね」


 ミワ坊は自分が怒られたみたいにしゅんと肩を落とす。


 三和は時々こういう風になることがある。俺はコイツのこういう顔が好きじゃない。だから、いつも以上の笑顔を浮かべて、必要以上のアクションを取りながら立ち上がった。


「なに沈んでんだよ! それより、今日はとうとうこの日がやって来たんだぜ! テンション上げていかないとだろ!」

「ナオ……。そっか、そうだね!」


 ミワ坊がいつもの笑顔に戻ったので、ほっとする。


「よっしゃ。出発するぜ、俺達の戦場、幕原メッセのマーフェスに!」

「イエッサー!」


 マーヴェリック・フェスティバル、通称マーフェスは、国内最大級のフィギュア・ドールなどの立体造形物に関する即売会だ。プロ・アマ問わず、個人サークルから大手メーカーまでが参加する年二回のお祭りなのだ。


 ガレージキットと呼ばれる、パーツを自分で組み立て塗装するフィギュアを扱うブースが一番多いが、PVC塗装済み完成品や、ドール、ドール用の衣装やボディー、ヘッド、小物類もたくさん販売されている。オリジナル作品はもちろん、当日限りではあるが事務局が版権を処理してくれるので、大好きなあのキャラクターのフィギュアやドール、衣装も手に入る。俺達にとっては涎どころか涙も零れ落ちるイベントなのだ。


 高校生になって初めての夏休みを迎えた俺とミワ坊は、遠足を待ち焦がれる小学生並みに興奮しながらこの日を迎えたのだった。

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