ロック!
「おや、到着したようですね」
「彼が例の?」
「そうです、閻魔帳付喪神推薦の森畑さんです」
大きなバックパック、登山用の格好で山道を抜けてきたのは一月前に夢で挨拶をした彼です。
元々山歩きをしているだけあって優秀ですね。長野県の山奥に作られたこの土地にたどり着けるだけの能力があるのですから素晴らしいの一言でしょう。東京からここまでやってくる情熱が全てキノコこ娘の為ともなれば最早執念と云えます。
なにせ道なんて無いですから。案内をしてる部下の精霊達は下位の草花の精達と云えど山なんて庭ですから当たり前のように突き進むでしょうに。侮れませんね。
「ようこそ森畑さん」
「お久しぶりです、あれ? お久しぶりでいいのでしょうか」
「まあ前回は夢の中ですけど、良いんじゃないでしょうか」
「それでですか、なんだかサイズが」
「ああ、これは彼女達に合わせてなんですよ」
「では大きさは自由自在ですか」
「ええ、これでも木の精やってますから」
「便利ですねえ」
大昔に酔っ払った挙句に大きさを間違えてデェダラボッチ伝説に加わった事は黒歴史だ。ちなみに私だけでなく殆どの森や山に関わる精霊が引き起こしている伝説なのですよ?
「ああ、ちなみに森畑さんにもより彼女達と親睦を深めて頂こうと思って神様に道具を借りてますので」
「え?」
「ほら、大きさが違えばまた視点も変わるでしょ」
「成程!もしかして彼女達と同じサイズの世界を見れるのですか」
「はい、打ち出の小槌を少彦名命様より借りてきましたよ」
「楽しみですね」
「目的を話したら笑っておられました、一寸から大きくなるのではなく小さい世界を望むとは変わった奴もいるもんだと」
「ハハハ、それで彼女達と同じ視点に立てるなら構いませんよ」
「本当に変わった方ですね」
羊子さんも若干吃驚しているが、これで彼は正常だから心配しなくても大丈夫。
それでは村に入る前に済ませておきましょうと打ち出の小槌を使って森畑さんを小さくして、一行は新しく用意された施設へと向かったのであった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「そういえばご挨拶が遅れました、私」
「はい、白鹿の舌の、鹿ノ下羊子さんですよね、執事服お似合いです」
「え、はいその通りですが」
「ああ、羊子さんには伝えてませんでしたか、彼にはこの計画に参加予定の方の全資料をお渡ししてますから」
「それだけで私の名前とかを……」
まあちょっと、普通に考えてよく解りますねと云いたいところですが、森畑さんなら全てを暗記してくると思ってました。
「いやあ、姿は昔出版された絵図しか無かったのですけど、脳内補正でバッチリでした」
「この計画に選ばれただけの事はありますね」
羊子さんも驚きの性能ですね。
「でしょ、いやあプロフィールを見た時に勝利を確信しましたからね」
「そうなんですか」
「ええ、現在の森畑さんが居るから言える事ですけど、中学までの成績からして、現在の様な学部へ進んでいるなんてそれはもうキノコの娘への情熱無しには考えられない程の生長ですから」
「アハハ、いやあ小学生まではそれこそ洟垂れ小僧で野山を走り回るだけでしたからね」
「それが今では大学で学ぶ必要があるのかと疑われる程に自ら研究してしまう菌類の専門家ですからね」
「いや、自分はただもう一度彼女と会いたいというだけでしたから」
「菌への一念で岩どころか運命を貫いたってことですか、それ程までに会いたい仲間が居る事が誇らしいです」
その会いたい娘が何方か記載されていませんでしたが、まあ、情熱とは凄いものですよ本当に。
「その娘は一体誰なんですか」
「いやあ、それが追いかけようとした瞬間に滑落しちゃって」
「もしかして」
「いや4m位でしたから、たいした怪我じゃないんですけど、遠めに赤色で美しかったとだけしか」
「それだけでそこまで努力できるようになったのですね」
「いえ、その滑落した時に気を失ったんですけど、気が付いたら木の実とかが運ばれてたんですよね。それでお礼がしたいと思ったんですが、何度山に入ってももう見つけられなくて。その後でこうなれば色んな文献を頼りに探し出そうって思った訳です」
しかし誰でしょうね、森畑さんを助けたのって、うーん赤色。幾人か赤色の洋服なんかを着てる娘も居ますが……助けたねえ……。
「さてと、付きました、こちらが【キノコの娘教育計画】で設立された校舎となります」
木造二階建ての校舎と何故か作られた運動場、そして今もせっせと耕されている畑、そして寮施設はコテージ風に数棟が建設されています。
あれ?畑ってちょっと千野さん何やってんですか。
「千野さん、どうして畑を?」
「今度ここに皆来るんだろ」
「ええ、色んな方が来られる予定です」
「だからさ、いい畑にしてりゃ美味しい食べ物も出来るし、私の趣味だから」
「まあ最初から畑は作ってもらっても構わなかったのですが、一応運動場までは耕さないようにお願いします」
「大丈夫だって、それより後ろの兄さんは誰」
「こちらは森畑さん、今度の計画の現地責任者を勤めて頂く方ですよ」
「おー宜しく」
「ハタケシメジの畑千野さんですね、森畑惣二と云います宜しくお願いします」
「凄いね」
「私も吃驚しました全員の名前と特徴を覚えてらっしゃるんですよ」
「ホント、吃驚しちゃった」
若干照れ気味なのはまあ仕方ありません、男の子ですからね。思わず目線が合いましたがこれで意志が通じる所が恐ろしいです。ですが気持ちは解りますよ、あのスタイルであの格好は眼福でしょう。私もあの格好で千野さんデビューを本気で考えた程ですからね。彼のプロデュース能力に期待です。
「是非今度歌を聞かせて下さい」
「!!! 何で知ってるんですか」
「夏祭りでは毎年披露してるって資料にありましたから」
「そ、そうなんですよ、ちょっと歌には自信がありますよ~エヘヘ」
まあ、こちらには閻魔帳付喪神さんが居ますからね、それなりの資料になっていると云う事です。一応女性でありますから部下にその辺りの情報のコントロールはさせましたから私もどういった事が省かれたのかは知りませんが。それは紳士としての振る舞いですからね。スリーサイズとか全て削除されていましたね、いい仕事をする部下で残念ですよ、ええ本当に。
「ヒャッハー、ソイツが責任者か」
いつもどおりメタルをイメージした格好ですね、サングラスもですが非常にわかりやすい。
知ってるんですよタレ目で可愛らしい事は。
「火群さんですか」
「どうも、責任者を仰せつかった森畑惣二です」
「おっと、近づくんじゃねえぜ、触れると火傷じゃすまねえぞ」
まあ事実ですからね、ええ、触るだけで皮膚が爛れるのですが、まあ私も大丈夫ですし、森畑さんも今回の計画について参加するに当たって神通力で強化してますから問題はありません。
「あの、問Da」
「って事だ、まあ悪いが俺にはロックな生活が必要だからな一人がお似合いなんだ。まあ精々危険な奴だと知ら示めてくれればいいぜ、じゃあな!」
「ちょ!」
説明も聞かないで走り去るとは、相変わらずです。あ、コケタ。泣きながら走ったりするからです。これは今度説得に行かないと行けませんね。
「彼女ってカエンタケの火群カエンさんですよね」
「ええ、いい子なんですよ。でも性質が性質でしょ。気にしてましてね。恐らく森畑さんを火傷させないように気を使ったんでしょう」
「今度説明に伺わないといけませんね」
「そうですね、用事を済ませたら迎えに行きましょうか」
随分と心配してくれてます、これなら他のキノコの娘にも配慮してくれるでしょう。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
荷物を置いて頂いてから向かったのは避暑地としてこの地に来ていたクイーンの待つ館だった。実際には寮施設の裏手にあるので大した移動距離では無いのです。
少なくともやはりキノコ界の女王とは対面して置いていただかないといけません。協力者の立場ではありますが、やはり彼女もキノコの娘の一人に違いありませんし、日本での認知度は意外と低いですからね。
日本でのみ有名度を比べれば赤松さんが有名ですから。その土地によって評価は変わりますからなんとも言えません。まあですけどもこの土地の提供者は彼女ですし、計画の委員の一人にも名前が入っていますからね。問題は……
「どうも、森畑惣二です、さすがクイーンお美しいです」
「クイーン・シルキーです」
「実は今まで結構山を散策しましたが出会えなかったんですよ、ウスキキヌガサタケには出会えてたんですが、いやあ感動です」
匂いの心配をしていたんですが、全く問題なく会話してますね。なかなかのツワモノです。事キノコの娘に関しては彼を心配する方が馬鹿らしくなりますね。そう言えばそろそろお昼時ですが、まあ大丈夫でしょう。
「では皆の事を宜しくお願いします」
「任せてください」
無事に謁見も終了しましたが、いやここまで何とも思ってないと鼻炎を疑いたくなりますね。羊子さんと別れて食堂へと向かう最中に確認してみましたが「自然にあるがままの事を言ってどうするんですか、それにそれ程の匂いでもないですよ? ちょっと惹かれる気も……」と正にキノコの娘教育計画の申し子のような返答でした。それに微妙にムスクも感じていたようですが、それは人間が感じれる事の方が凄いと思いますよ、ええ。まあクサヤ程じゃないにしろ納豆も食べる国民ですからね。鼻をギリギリくっつけないと解らない、いや森畑さんならそれでもいけそうですね、いやはや全く素晴らしいです。
私の人選は間違えてなかったと云う事にしておきましょう。
今回の計画については実は人間から参加していただいたのはセバスチャンさんと森畑さんだけ。当然他の指導要員などはできるだけキノコの娘を充てる事で森畑さんにより知ってもらう事ができると云う別の算段の意味合いも含めているのです。当然施設での管理運営などもキノコの娘に任せている訳ですが、料理人は特別に凄い人が担当してくれてます。
世界各国の料理を研究し修業してきた本格派料理人ですからね。
触れるなキケン、のカエンタケさんこと火群カエンさんが今回のキノコの娘
何故か書いているとAn amazing と、とある大好きな曲が勝手に頭の中で曲が流れてました。