その男の愛する者はキノコの娘
裏話になりますから、今回もきのこの娘が出ません、と、飛ばしてもいいんですよ!?
神様の肝煎の計画だけあって、中間管理職時代には考えられない権限や補佐がつく事になっていた。
そんなに突き上げを食らったのが大変だったのかと多少は同情を覚えるが、とばっちりを貰っていては心の底からの憐憫など沸く事はない。
【キノコの娘教育計画本部】ドドーン!と大きな看板が立掛けられて、ドアの上には【特別長官室】とこれまた木の板に見事な達筆で書かれていた。これがまさかの弘法大師による書であると知った時は呆れて言葉も出なかった。
本部が設置されたのは神様の神殿の横にある高天原合同庁舎の一室だった。天界、だとか天国だとか色々と呼び名があるこの地平は特殊な次元に存在する。便宜上の出口は雲の上や山の上なんかに設けられていて、変わったところだとピラミッドの中や一部地底なんかにも設置されていた。
過去には諍いだなんだと巻き起こったのだがある程度現在は落ち着いていて、大まかに言えば天国地獄世界における紛争はなくなっている。そして日本の管理をしているのがこの高天原合同庁舎となる。
天津神国津神合同庁舎だったのがさらに仏教出張所、近年には諸外国の宗教団体からも出張所の要請があった事から名称を変更したのである。これも日本風の配慮だ。実は海外の管理施設に対しても出張所は作っているのだけども「名称、変える必要なんかないでしょ」と答えるのが普通だ。気配りな所は神も人も変わらないのが如何にも日本と言えるだろう。そして適当な所とかもな……
そしてこの選考基準が俺の現在の頭痛の原因だった。
偉い人物とかを教育担当者に適当に推薦するのは辞めて頂きたかった。内容はキノコについてというのは解る。だからと言って粘菌学舎の南方熊楠さんなどに代表を勤めさせて何をキノコの娘に学ばせる心算だよ。
計画の趣旨と完全に関係の無い人選による推薦状とかなんで持ってくるの、これなら植物関連ですねとか森関連ですねと言って意富斗能地神様本人が出るわけには行かないのは解るけど、せめて木花之佐久夜毘売様とか石長比売様とかにして欲しかった。
いっそ……人に任せれば。そうだよ、いい案思いついたね私ってば天才。人に触れ合ってレディーとして教育するんだからそっち方面の人材を探そう。
ここで本来精霊は持っていない神具の出番となる。
「すまない閻魔帳の付喪神君が居たはずだよね、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「少々お待ち下さい、お呼び出し致します」
最近はハイテク化が進んでしまった天界の施設。急激な人口増加や事件の対応に追われた結果、余りにも忙しくて人間の発明した技術も導入しないといけなくなった。最初は人海戦術でなんとかしようとしたが無理だったのだ。なにせ付喪神などは長距離念話が出来ないから効率が悪かった。そこで最先端技術によってハイテク化が進行してしまった。神様もハイテク時代とか知った時には現世の宗教家達が情報の漏洩防止に勤しんだ程にショッキングな出来事だったんだろう。
「少々お待ちを、つながりました」
「じゃあこっち回して下さい、すいませんね突然」
「いえいえ、今日はどういったご用件ですか」
「ちょっと人材を探してまして」
「ほう」
「そこで閻魔帳管理部で働いている貴方ならお勧めの人材を紹介してくれるのではないかと」
「なるほど、そういったご相談はよくありますからね、なにせ閻魔帳そのものですから、それでどんな人物をお探しなんですか」
「女性の扱いに慣れている礼儀作法の教える事ができる人、きのこの娘が好きな日本人」
「また物凄い適当な……礼儀作法は、そうですね、このセバスチャンさんって人が居ますね、今スキャンしてそちらに資料を送ります。森畑惣二さん、19歳大学生ですね、キノコの娘が好きで農業大学へ入学、研究対象は菌類、但し独自ネットでキノコの娘についての普及活動まで進めてる人ですけど、、あーその先程交通事故で……、残念だなあ。」
「……セバスチャンさんはそのままお願いするとして、あの、その森畑さんの状態はどうにもならないですか?」
「外傷はないですけど、打ち所が悪かったらしくて植物人間状態ですね」
折角見つかった適任者が、ここで強権発動するかどうか迷ってる場合じゃない、いまでしょ。
「資料をこちらへ送っておいて下さい、助かりました」
「いえいえまた何かありましたら何時でもどうぞ」
受話器を下ろして、一呼吸置いた。
「森畑惣二さんに対してキノコの娘育成計画本部特例発動です、至急治療班を向かわせてください! それとこの英国在住のセバスチャンさん62歳へ現地の関係者から教員になっていただけるように打診をお願いします。依頼内容はレディーを育て上げる事」
「了解いたしました」
「それと、南方さんなどの識者にキノコの娘が快適に学べる宿舎の設計アイデアを出してもらって下さい」
他にも次々と部下に指示をだしながら作業を進めていく。この任務もらいました。
思わず笑みが零れてくる程の行幸に恵まれたと言っていい。
手元には有能な執事経験を持つセバスチャンさんの経歴(閻魔帳の写し)と、森畑惣二、彼の経歴(閻魔帳の写し)がある。森畑惣二の経歴を見た瞬間に私はこの計画の成功を確信していた。




