第16話 吹雪の夜
十二月の末、記録的な吹雪がやってきた。
夕方から空が暗くなり始め、夜半には屋敷の窓が風で鳴り続けた。翌朝、扉を開けると腰の高さまで雪が積もっていた。
街への道は完全に塞がれた。
問題が起きたのは昼前だった。
「奥様!」息を切らせてコーラが駆け込んできた。
「街の宿屋に、昨日から足止めされている旅の方々が十数名。薪が底をつきそうだと、ヤンが伝言を持ってきました」
イーダの宿屋だ。
「旅人は何名ですか」
「十五名ほどと。それとうちの兵士たちで雪かきをしていたのですが、三名が凍傷気味だと副官から」
セリーヌは頭を素早く動かした。
宿屋への薪。凍傷の手当て。道が塞がれているなら、物資は屋敷から運ぶしかない。
「コーラさん、薪は屋敷にどれくらいありますか」
「今冬分は十分に」
「宿屋への分を分けても足ります。それから、温かい飲み物と食料をまとめてください。人数分より少し多めに。薪と一緒に橇で運びます」
「橇は——」
「シクストさんに頼みます」
シクストはすでに対応中で、橇の準備と護衛の手配をすぐに引き受けた。凍傷の兵士については、セリーヌが自分の薬箱を持ち出した。
「奥様が行かれるのですか」とシクストが驚いた顔で言った。
「宿屋にいる旅人の状態を確認したいので。凍傷は早い対応が必要です」
「しかしこの吹雪では」
「橇なら行けます。街まで四半刻かからない」
セリーヌが外套を羽織ったとき、背後から声がした。
「私も行く」
振り返ると、ルカスが兵装に近い外套を羽織って立っていた。
「旦那様が——」
「道案内ならできる。この雪では視界が悪い」
それ以上の議論はなかった。
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吹雪の中の橇行は、想像以上に過酷だった。
風が叩きつけ、視界は数歩先しか見えない。ルカスは先頭に立って道を示し、セリーヌは橇の荷物が崩れないよう押さえながらついていった。
宿屋に着いた頃には、ふたりとも雪まみれになっていた。
「よかった……!」イーダが扉を開けて飛び出してきた。「旦那様まで……!」
「中で話しましょう」とセリーヌは言った。
宿屋の中は、十数名の旅人で溢れていた。毛布を抱えた老人、震えている子供連れの若い母親、商人らしい男たち。みな疲れた顔をしていたが、薪と食料が届いたと知った瞬間、表情が変わった。
セリーヌは凍傷気味の旅人三名を確認し、処置をした。
ルカスは何も言わずに、薪の運搬を始めた。
兵士たちと並んで荷を運び、炉に火を熾す。誰かに指示されたわけではなかった。ただ、必要なことをしていた。
作業の合間、セリーヌは暖まった宿屋の中を見回した。
食事が配られ、子供たちが喜んでいた。老人が温かいスープを両手で包んでいた。旅人のひとりがイーダに礼を言い、イーダがセリーヌを指差していた。
ルカスが戻ってきた。外套の肩に、まだ雪が残っていた。
「凍傷の三人は?」とセリーヌが言った。
「問題ない。手当てが早かった」
「よかった」
それだけの会話だった。
ルカスは室内を一度見回した。温まった人々を、子供を、老人を。その目が、少し止まった——何かを見るというより、何かを受け取るような、静かな止まり方だった。
セリーヌはそれに気づいたが、何も言わなかった。
「帰ろう」とルカスが言った。「道が塞がれる前に」
「はい」
ふたりは雪の中へ出た。
行きより風は弱まっていた。屋敷の灯りが、遠くに見えた。
ルカスは先を歩きながら、一度も振り返らなかった。
セリーヌもそれ以上、何も言わなかった。
ただ、帰り道のルカスの歩き方が、来るときと少し違う気がした。
何が違うのかはうまく言えなかった。




