第14話 十二月の評議会
領主の評議会は、年に一度、十二月に開かれる。
辺境伯領内の各町村の代表者が集まり、一年の報告と翌年の計画を話し合う場だ。セリーヌがこの屋敷に来てから、初めて参加することになった。
ルカスから声がかかったのは、前日の夜だった。
「明日の評議会に同席してくれ」
「執事長の席が空いていますので、代理という形でよければ」
「代理ではなく、屋敷の管理責任者として」
セリーヌは一瞬、言葉を止めた。
「……正式に、そのような肩書きで?」
「今朝から、あなたに執事長代理の権限を付与している。書類にも記した」
それは大きな変化だった。到着してから二ヶ月近く、セリーヌは正式な肩書きのないまま実務を動かしてきた。ルカスがようやく、それを公式化したのだ。
「わかりました」とセリーヌは言った。「拝命します」
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評議会は屋敷の大広間で行われた。
集まったのは十二名。各町村の代表者、街の有力商人、教会の代表者。辺境の厳しい冬の中、馬を走らせてきた人々だ。
ルカスが議長として冒頭の挨拶をした後、各代表が順番に一年の報告を行った。
豊作だった地域と不作だった地域の差。今年の冬の道路状況。国境沿いの警備に関する要望。医薬品の不足問題——。
セリーヌは静かに記録を取りながら、各代表の言葉の裏にあるものを読み取っていた。
終盤、街の商人代表——四十代の、恰幅のいい男が立ち上がった。
「屋敷の冬市について、お礼を申し上げたい」
セリーヌは顔を上げた。
「今年の冬市は、例年より人の入りが多うございました。屋敷の方でも出店があり、街の賑わいに大いに貢献していただいた。これは管理を担われた奥様のおかげと聞いております」
ルカスが横目でセリーヌを見た。
「そのような評価をいただけたのであれば、幸いです」とセリーヌは言った。「来年はさらに改善できると思っています。各村の物産をもっと集められるよう、輸送の手配も含めて整えたいと考えています」
代表たちの間に、ざわめきが広がった。
「輸送の手配、とは?」とひとりが聞いた。
「冬道は荷物の運搬が難しく、遠方の村が市に参加しにくい状況があります。屋敷の荷馬車を貸し出す形で、一定の負担を軽減できないかと。採算は検討中ですが、街全体の活性化として考えれば、長期的には元が取れると思います」
代表たちが顔を見合わせた。その中のひとり、年配の村長が言った。
「……奥様は、ずっとここに?」
「今冬は、はい」
「来年も、いていただけますか」
その問いに、広間が静まり返った。
セリーヌは答えるより前に、ルカスの視線を感じた。
「それは……まだ未定です」とセリーヌは言った。
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評議会の後、人が散けていく広間の片隅で、ルカスがセリーヌに近づいた。
「輸送の話、初耳だった」
「まだ案の段階です。数字を出してからご報告しようと思っていました」
「先に言え」
「はい、以後そうします」
短い沈黙。
「……村長が、来年もいてくれと言っていた」
「聞こえていましたか」
「広間は狭い」
セリーヌは少し迷ってから、率直に答えた。
「私の役割は、今冬の間の立て直しです。春になれば——」
「わかっている」
ルカスの声は、遮るように、しかし強くはなく言った。わかっている、という言葉が、なぜか少し——ほんのわずかだけ——投げやりに聞こえた。
それとも、セリーヌの聞き違いだろうか。




