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第13話 義母からの書簡

ドーネが拘束されてから十日が過ぎた。


屋敷内は、長年君臨した執事長の失脚による動揺と、静かな緊張感に包まれていた。セリーヌはその喧騒に加わることなく、空席となった執事長室の整理と、滞っていた事務処理を淡々と進めていた。


実務を止めないこと。それが今の屋敷にとって最大の薬であることを、彼女は知っていた。


そんな中、首都から早馬が届いた。差出人の名前を見た瞬間、シクストの顔が曇った。セリーヌに書状を手渡しながら、彼は短く言った。


「義母上からです」


封蝋を確認するまでもなかった。マルグリット・ラングレー辺境伯未亡人の紋章は、一目でそれとわかる。


セリーヌは書状をルカスに届けた。


書斎でルカスが封を切る間、セリーヌは部屋の端に立って待った。書面の余白から、首都にいる未亡人の冷徹な怒りが伝わってくるようだった。


読み進めるにつれ、ルカスの表情が変化した。感情が乏しいように見えるこの男にしては珍しく、目の奥に何かが燃えるような——怒りとも諦めともつかない光が宿った。


読み終えると、彼は書状を机に伏せた。


「聞くか」


「必要があればお聞きします。なければ結構です」


ルカスは少し考えてから、口を開いた。


「ドーネの件は『誤解だ』とある。グラウ商会との取引は適正であり、不正の証拠は捏造に違いない。もし調査を続けるなら、辺境伯領主としての私の判断能力について、貴族議会に問題提起する——と」


「つまり、脅しですね」


「そうだ」


セリーヌは静かに言った。


「旦那様は、どうなさいますか」


「……どう思う」


珍しい問いかけだった。これまで彼が自分の意見を求めてくることはなかった。


「証拠は完全に揃っています。帳簿の写し、倉庫の実地棚卸し結果、ドーネの自白、グラウ商会の内部資料。これだけの物証があれば、貴族議会に問題提起されても十分に対抗できます」セリーヌは一拍置いた。「ただ、義母上の影響力がどの程度のものか、私には判断できません。それは旦那様しかご存じないことです」


ルカスは窓の外を見た。灰色の空から、細かい雪がちらついていた。


「母は、父が死んでから十年間、この家を動かしてきた。議会にも顔が利く。簡単には動じない人間だ」


「ですが」


「ですが?」


「義母上が後ろ盾を失うとすれば、それはここ——辺境伯領主が義母上に従わないと明確にした瞬間です。今まで、そういうことはありましたか」


長い沈黙。


「……なかった」とルカスは認めた。「私は、ずっと従ってきた」


「では今回が、最初の機会かもしれません」


ルカスはセリーヌを見た。何かを測るような目だった。


「あなたは、私を唆しているのか」


「いいえ」とセリーヌははっきり言った。「旦那様がどう決めるかは、旦那様のことです。私はただ、状況を整理しているだけです」


「……それが怖いんだ」


「え?」


「あなたは、いつも正しいことしか言わない。感情で押してこない。だから——」


ルカスは途中で口を閉じた。


「だから、何ですか」


「……いや。返事は私から出す」ルカスはしばらく黙った。その沈黙は、答えを探しているというより、何かを手放そうとしているように見えた。 「調査を止めるつもりはない」


その返書がしたためられる間、セリーヌはラヴィの部屋で読み書きを教えていた。


六歳の子供の集中力は短い。ラヴィは文字の練習帳を途中で投げ出し、セリーヌの袖を引っ張った。


「ねえ、おばあちゃんから手紙が来たの?」


「……なぜ知っているの」


「ヤンが早馬が来たって言ってた。早馬はいつもおばあちゃんから来るって」


セリーヌは少し考えてから、正直に答えた。


「来たわ」


「おばあちゃん、セリーヌのこと、好きじゃないんでしょ」


子供は時として、残酷なほど本質を見抜く。


「そうみたいね」


「でもヤンも、コーラも、みんなセリーヌのことが好きだよ。わたしも大好き」


「ありがとう、ラヴィ」


「だから大丈夫だよ」


ラヴィは至極真剣な顔で言った。その論理の単純さが——子供らしい無邪気な確信が——なぜかセリーヌの胸の奥に、ちくりと温かく刺さった。


そうだといい、とセリーヌは思った。

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