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夢現の圏士  作者: くろよ よのすけ
2章:回帰事件
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拝啓、親愛なる貴方へ

2章:回帰事件 終

 拝啓、ロスト・ヘリオールさま


 元気にしてますか?

 圏士となるといったあなたをそちらへ送り出してからもう一年以上になるのですね。

 たったそれだけの時間なのに、私の周りはずいぶんと寂しく、静かになったように感じてしまいます。

 圏士となってからの活躍なんてものはここまで届いてくることはないですし、新聞を頼んでも届くのはずっと先でしょうね。あなたもそういった連絡は一切してくれないので困ったものです。

 とはいえ報せがないのは元気な証、そう思って一人寂しくお客さんと世間話をする日々です。(なんだか飲み物の注文が増えた気がします)


 そうそう、お客さんといえば最近、幼いころのあなたの話になりまして。無愛想でかわいげのないガキだったーなんて、とても盛り上がりました。

(あの口と目つきの悪い人です、子供の頃に会ってるはずですけどおぼえてます?)

 過去を想えばあなたとの日々は慌ただしくも楽しいものでしたね。

 一緒にピクニックに行ったり、ご飯を食べたり、家の掃除や嫌がるあなたにお店の手伝いを無理矢理やらせたのも。今となっては全部が全部素敵な思い出です。

 ……などと、書くことを考えずに手紙を書き始めるものではないですね。色々と関係のないことを書いてしまいました。


 さてさて、このお手紙を送った理由ですが、灯日に行ってからというもの、なにひとつ連絡を寄越してこないあなたに痺れを切らしたのです。

 面倒くさがりなのは知っていますが、心配する人だっているのですからちゃんと近況報告をしてくださいね。いい加減怒っちゃいますよ。


 あ、そうそう、ミカちゃんにもあんまり迷惑かけちゃダメですよ!!!!

 あの子はとっても頑張り屋で、実力もあって一人で何とかしようとしちゃうところがありますから。それ以上負担を掛けないように!!!!!!!!!!

(!が多すぎましたね、インクなので直す気はないですが)


 では、注意ばかりになってしまいましたがそういうことなのです、ハイ。あなたの成長と活躍を遠く離れた小さな喫茶店から信じていますよ。


 いつか、あなたの夢が叶うその時まで。

 消えることのない愛を込めて、アリス


  □ □ □


「自由すぎねえか……?」


 アイリスと別れた後、日課の訓練を済ませると家に帰る。

 シャワーで浴びようと思った矢先、ミカに渡された手紙のことを思いだした。

 風呂上がりにベッドへ寝転がりながら読んでいたら、中身の迷走っぷりについ感想が零れ落ちてしまう。


「……いや、まあ気持ちは嬉しいが」


 なんにせよアイツらしいとしかいえない手紙だ。ただそれだけで懐かしさみたいなものがこみあげてくるのも事実。

 だから他に誰もいないとはいえ、気恥ずかしさを隠そうと独り言を口走ってしまう。


「あ、そういえばもう一通あったな」


 先に呼んだのはボロボロの方だ。

 もう一通の綺麗な方の封を開けると、そこにはでっかい文字でただ一言。


 『タイミングが悪いです!!』


 とだけ書いてあった。


「……なにがだ?」


 あまりの訳分からなさに首をかしげるしか出来ない。便箋とメモ用紙でも間違えて入れちまったのではないかとしか考え付かないんだが、マジでどういうことだコレ。


「…………」


 光に透かしてみたりしたけど意味はなく、下書き的なペンの跡一つもない、紛う事なき一発書き。


「……まあ、いいか」


 意味は分からないけどアイツなりに送る理由はあったんだと思うしかない。


「はぁ、でも元気そうでなによりだな」


 手紙に書かれた文字からアリスの元気さが伝わってくるくらい、この手紙を書いていた時の様子が想像できる。

 いつも明るくて、慌ただしくて、それでいて周りの人に愛されていて——。


「仕方ねえ、たまにはやる気出すか」


 手紙を読んだらさっさと寝てしまおうかと思っていたけど、少し目が冴えてしまった。こうなったらしばらく眠れそうにもないし、慣れない作業だとしても手紙の一通くらい書いてみるのも、……たまにはいいかもだ。


「さて、何を書いたもんかな?」


 文章を書くのは苦手だ。

 机に向かうと何を書いていいものか、まず頭の中がまとまらない。どうやら書く内容が溢れてしまうくらい、おれは連絡を怠ってたらしい。


「そりゃあアイツも怒るか」


 それでも一つずつ彼女が喜んでくれそうなものや、楽しんでくれそうな内容を選んでいく作業はなんだかおれの方も楽しかった。


「よぉし、とりあえず完成っと。……ちょっと厚いか?」


 書き始めるとそれなりに書けてしまって想定よりも厚くなった封筒を手に、送るのを忘れてしまわない様に机のど真ん中に『原型』と一緒に置いておく。


「ん~~、寝るかあ」


 慣れないことして肩が凝った。

 貰った手紙はいつものように、これまで送られてきた手紙と同様に棚の引き出しにしまい込む。


「こっちもそろそろ溢れてきそうだな。箱でも買うか」


 送られてきた時期ごとにひもで縛られた色褪せた手紙の数々。少しの間、中身に思いを馳せると、折ったりしてしまわない様に慎重に引き出しを閉めた。


「くあぁ……」


 ベッドに横になると、さっきまでははっきりしていた意識も役目を終えたと急速に眠りにつき始め、夢の中で故郷の匂いを思い出した。

 そのせいか、なんだかいつもよりもぐっすり眠れたような気がする。

 これからの戦いでどうしていくべきなのか、重たい荷物をほんの一時だけ降ろさせてくれたのかもしれない。なんて馬鹿げたことを思いながら。


 □ □ □



『……』


 その寝顔を見つめる女性、『代行者』は何も声を上げることはせず、二通目の手紙について思いを馳せていた。

 あの手紙には経由地点である様々な町の消印が無かったと。

つまり送り主であり、かつての主が手に掛けようとした彼女はつい最近まで——。


(いえ、私が口を出すことではありませんね)


 もう一度、寝顔を見つめるとこれからのことに思いを馳せると、ひどく悲し気な表情を浮かべた。それはまるで、死へと向かう者を見つめる瞳であり、もう止めることは出来ないと知っているかのような。


『…………』


 眠りについた彼を起こすわけにはいかない。

 彼女は主の眠るベッドの縁に腰かけると、静かに眠る彼の頬へ触れようとしたが、悲しそうな表情を浮かべ手を引く。その後はただ静かに見つめていただけだ。


 それは月の光が差し込む間のみ。

 音もたてずにいつの間にか彼女の姿も消え、残されたのは机の上の『原型』と、少し厚い封筒だけだった。


 □ □ □



 灯日においてそれぞれの戦いがひと段落し次の戦いへと備える中、遠く離れた東の地、“日環”。

 時刻は夕刻を過ぎ、夕日によって煌めく海に面したこの街の、二重の意味で中心的なある建造物。

 “教戒”と呼ばれる組織に属するその場にて、一人の男が西日の差し込む廊下を歩いていた。

 圏士のものとは真逆の白い服、儀礼的な装飾もいくらか取り付けられたそれは西日を反射して薄く茜色に染まっていた。


「チ…ッ、面倒な寄り道をしたかと思った矢先にコレだ」


 鋭い目つきを光らせる男は機嫌が悪いことを一切隠すつもりもなく、すれ違う人々は問題を避けるために自ら道を譲る。

 男の機嫌が悪いのには当然理由があり、それはつい先ほど伝えられた情報によるもの。

 あまりの荒唐無稽さについ聞き返してしまうほどの内容、そして実際に実行へ移した討滅局に対する苛立ちが歩く速度さえ速めていく。


 宵闇の色を宿した髪は乱雑に切られ、純白の服の右袖には腕を通す必要はないとばかりに固く結ばれていた。


「あのクソったれが目覚めただと?」


 今なお鮮明に思い出すことのできるあの戦い、この右腕が斬り飛ばされた“はずの”忌々しく腹立たしいバケモノとの殺し合い。

 アイツを目覚めさせてどうするつもりか興味はない。だが、知っておく必要はあるだろう。


「……ロスト・ヘリオール」


 バケモノを宿したクソガキが一体どの程度の器になったのか。


「あのガキも、わざわざ俺に知らせた時点で掌の上とでも言いたいらしいが」


 殺しておくべきか否か、それを決めるのは討滅局ではなく自分自身なのだという様に。


「バケモノになるかどうかも関係ねえ。雑魚でも塵でも、次第では俺の手で終いにしてやれば済む」


 考慮の余地はないと吐き捨て、左肩にのみ掛けられたマントを翻す。

 マントの下に隠れていたのは純白の衣装の中でも目を引くほどの黒色の剣、『原型』。


「具象契約」


 『原型』を持った男は闇を纏ったかと思うと気配も痕跡の一つも残さず、姿を完全に消し去る。

 過去、誰もが抗うことのできなかった強大に過ぎるバケモノ、怪物がいた。そして今、その後を継ぐ新たなバケモノが生まれるという。それが真に怪物ならば、殺さねばならないだろう。


 男の名はエイガ・ルアック。

 かつて討滅局を離反し、怪物を殺すため無様に醜くも剣を振るった宵闇の圏士の、なれの果てだ。

 

 □ □ □



 報せは“日環”だけではなく西の地に建つ都市『洛央ラクオウ』にも届けられていた。

 いや、この場にいる者達に関して言えば盗み聞いた、といった方が正しいかもしれないが。


 武器に見える大量の残骸と、何らかの実験器具が乱雑に積み上げられた広い室内。

 広さに対して照明は物理的に壊れているか、寿命を迎えかけて光源としての意味を失いかけている。まるで倉庫の様にも見えるその場所には男女二人が唯一室内に置かれたソファに腰かけていた。

暗がりのせいで顔の作りは確認できないものの真逆の表情を浮かべているであろうことは分かる。

 ソファに深く身を沈めた男は、銀の髪を揺らし、屈強な肉体を持ちながらもしなやかさを感じられる長い肢体を持っていた。


『ほうこ——くは—以上——で——、ほ——かに…しつも——』

「失せろ」


 大量の酒瓶が置かれた机の上には“黒いウサギ”の式神が立っており、男を前に何らかの報告を行っていたが、男は聞き終わるまでもなく式神を蹴り飛ばす。

 その衝撃で吹き飛んだ式神は地面を転がり、そのまま一切の機能を停止した。そしてその周囲には同じように機能を停止したとみられる式神の残骸がいくつも転がっている。


「ハッ、あのクソガキ失敗しやがったな。口だけは立派だったクセしやがって、所詮はボンクラの田舎者か? あの村の連中、揃いも揃って頭空っぽのボケどもだったしな」


 失敗を扱き下ろしながら、獣のように獰猛に笑う男の言葉からは一切の同情も懺悔も無く、思ったことをそのまま出力しているようだった。

 そしてその隣に座る女は室内だというのに帽子を身に着け、その下に僅かに覗く顔には本来光から目を護るためのサングラスをかけている。その彼女自身は、一切の事象に興味を持っていないかのように冷たい表情を浮かべていた。

 己の所有物であると主張するかのような、男の腕に肩を抱かれながらも身を寄せることはせず、先ほど部下が運び込んだ資料を黙々と読み進めている。


「真面な準備もなく送り出したのが原因かと考えられますが」


 資料から目を移すこともなく、淡々と紡がれる声からは無関心を体現したかのような色合いが見て取れる。しかし男の方はそんな態度に構うことなく、苛立ちを抑えるつもりも無く出力していく。


「知らねえな、準備に時間を取れば成功するなら今頃圏士どもは皆殺しだろうが。ガキにくれてやった『複製』も、『祈神』も、ついでに閃光弾諸々もくれてやったのに結果はコレだ。一つ作るのにどれだけかかってると思ってやがる」

「最低でも一つにつき『複製』が1年、『祈神』が2年。『複製』はともかく『祈神』はすでに半数が消えました。ええ、製造コストを考えれば収支は限りなくマイナスです。だからこそ、人選には力を入れるべきと進言したはずですが」

「今の局長、あの女の金魚の糞かと思ったが、まあいい。連中が裏で動いてたってなら別に誰でも変わらなかったろうさ。だがな、あの『祈神』を無駄に消費しやがったのが気に食わねえ。何の価値もねえ人生を前借させてやったのにそれでも人間一人殺すことも出来ねえなんて誰が思う」

「そう思うのでしたら初めから傭兵か囚人にでも任せれば多くの問題は解決できたのでは」

「バカか、んなもん面白くもなんともないだろうが。ほどほどのアホよりも、どうしようもない無能にこれ以上ない機会を与えてやった、その様を見た方がずっとマシだ」

「そうですか」


 荒く声を上げる男とは対照的にあまりにもそっけなく答える女。

 その様子には慣れているとばかりに気分を害することもなく、預けていた身体を起こすと机の上に置かれた二つの黒く小さな折紙、穢れた神を封じ込めた哀れな祈り。


「さぁて」


 次はどちらにしようか、数度指を空中で行き来させると右側に置かれた折紙を指し示す。


「いや、やっぱヤメだ」

「よろしいのですか」

「ああ、オレが出ようとも思ったがな。それじゃまだ早え、面白くもなんともねえ。だからアイツを呼ぶ」

「アイツ……、“カイン”ですか? あまり良い手とは思えませんが」

「アア? これ以上の妙案がどこにある」

「アナタがそう思うのなら構いません。ワタシにとっては興味のないことですから」

「ならハナっから黙ってろ。ハハハ、圏士のザコ共がどう足掻くか、高みの見物と行くか」


 机の上に置かれた開封済みの酒瓶を手に取ると部屋を出るために歩き出す。


「どちらへ?」


 先ほどまでと一切変わらない平坦な声からは、先ほどの興味がないという発言の意味合いがより強まっている。その証拠に、肩に回されていた腕から解放された彼女はすぐにペンを走らせ、横に積まれていた資料へと目を通し始めた。


「聞くまでも無く決まってんだろうが」


 男がボロボロの扉を開き金属の軋む音と共に振り返ると、外から差し込む光によってハッキリと男の顔が世界に映し出される。


「一番眺めの良いとこだ。アイツらには足掻いて足掻いて、無様に生きる姿を見せてもらわねえと気が済まねえからな。特に、局長の野郎には自分の無力さってやつを骨の髄まで分からせてやらねえと気が済まねえ」 

「そうですか。言っても無駄でしょうが定期連絡を怠らないよう。アナタの行動如何ではスケジュールをいくらか修正せねばならなくなります」

「なら今からテメエに全部預ける。勝手にやれ」

「分かりました」


 何一つ感慨もなく業務の一つとして処理する枠に当て嵌める。仕事には可も不可もなく、効率よく消滅させていくのみだというかのように。


「じゃあな“セレーナ”、次会う時にはそのつまらねえ上そそらねえ顔をマシにしとけ」

「業務対象外です。個人的感情を考慮すれば対応する理由は砂の一粒ほども存在しません。では“カルマ”、無駄を済ませ次第に速やかな帰還を」

「なら業務に含めとけ。そうしたら抱いてやる」


 その言葉を最後に、再度金属音を響かせながら扉が閉じていく。

 セレーナの足元まで伸びていた外から差し込む光も断たれ、一際薄暗さが強調された彼女以外誰一人としていない空間。

 そこではただただ、残された彼女の走らせるペンの音のみが小さく響いていた。


「……」


 だが、机の上に置かれた二つの折紙、彼らが『祈神』と呼ぶそれらを目にすると掛けていたサングラスを外して息をつく。


「仕方ありませんか。追いつくのは……しばらくかかりそうですが」


 そう小さく口にして淀みなく走らせていたペンを止める。

 すでにカルマは洛央を出ていることだろう。戦闘力のない彼女には追いつくなどできようはずも無く、一般人と同じ手段で移動を行うしかない。


「着いた時には終わっている。ということは避けたいところですが……」


 いつでも出られるよう既に準備だけ済ませておいた旅行鞄を塵山の中から拾い上げる。

 そして机の上に置かれていた二つの『祈神』を手にすると、彼女もまたガラクタと残骸だらけの部屋を後にしていった。

 今後起こりうる被害処理をどうするか、頭の中で想定しながら。

『本編について』

・エイガくん

こちらも久しぶりの登場です。

今は討滅局から教戒に間借りしている状況であり、外部顧問が近い感じでしょうか。今後割と出てきます。長男なので面倒ごとも頑張ってくれます。


・新キャラ二人

カルマとセレーナ。

小さな?事件の後は黒幕を出さなければならないので、新たな強敵ということで今後のメイン敵になります。どういった結末を迎えるかはまだしばらく先ですが、彼らともお付き合いいただければ嬉しいです。


『定期連絡』

・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。

・更新日の後にそのことを伝える呟きをしているので、思い出す用にツイッターフォローいただけると幸いです。(https://x.com/kuroyonosuke)

・細かい設定や反省点等々は完結後にでもおまけでまとめようとでも思っているので、質問をいただければまとめて回答します。よければどうぞお願いします。

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