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3話「だからこそ僕たちは」

 01


 僕はいつものように自分の靴箱に入れられてる大量の手紙をビリビリに破いていると、一人の女性教師が僕の元に向かってきた。

 確かこの人は春咲の担任の先生だったな、口うるさい人で私は嫌いだと彼女は言っていたような気がする。



「君が例の春咲さんの彼氏さん?」


 例のって……僕は一体職員室で先生たちにどういう呼び方をされているのだろう。


「……そうですけど、何か用ですか」


 僕が露骨に嫌な態度を取っていると、先生はそれに気づいたのか半ば申し訳なさそうに頼み事をしてきた。


「風邪で休んだ春咲さんにこの資料を届けに行ってくれないかな?」


「春咲が風邪?」


 春咲と付き合ってから僕は彼女と一緒に学校に行っている。

 学校付近の駅で待ち合わせをしていると、どこから待ち合わせ場所を聞いたのか知らない男たちが毎朝僕を待ち伏せしている。

 コイツらは春咲が来る前に僕に何かしらのいちゃもんをつけてきて、僕が困っている姿を楽しんでいる。

 春咲莉央は何が好きなのか、あの人とどこまでいったのかなど正直答えていいかわからないものを聞いてくる彼らは一体何がしたいのか。

 僕は春咲に迷惑をかけないように毎日待ち合わせ場所を変えたり、学校に到着した際も別々に登校するようにしている。

 ただでさえ僕といると目立ってしまうから、春咲には余計な心配はかけたくない。

 今日もいつものように春咲を待っていたがいつまで経っても彼女が来ることは無かった。

 嫌がらせの達人たちに聞いても、彼らはまるで僕を最初から知らないような素振りを見せた。

 そんなことをしても僕らには関係が出来ているから無駄なのに。

 春咲が風邪をひいたのはやっぱり屋上に行ったからだろうな……真冬に屋上でお弁当を食べるのは自殺行為だった。

 僕のせいだ。



「ええ、そうよ。さっき春咲さんから学校を休むって連絡があったけどもしかして知らなかったの? 彼氏なのに」



「……」


 春咲がこの先生を嫌う理由がわかる気がする、遠慮という言葉を知らない。

 だけど確かに僕に連絡が来なかったのは事実だ。

 彼女は僕に心を開いてくれているのか不安になってくる。

 あれだけ人との関係を拒んでいた僕が今は繋がりが途切れないか不安になっているのか。


「まあ別にいいわ、はいこれ」


 無神経な先生は僕に紙切れを渡してきた。


「これは?」



「春咲さんが住んでる住所よ? 中身を見ても誰にも教えたらダメだからね」


 そう言い残して先生は立ち去った。


「……僕に言いふらすことが出来る友達がいると思ってるのかクソ教師」


 ―――――――

 ―――――――――――



 放課後、僕は紙切れに書かれていた住所に向かうことにした。

 ……初めて春咲がいない一日を経験しただけで寂しくなるとは思いもしなかった。

 まるで大海原に一人取り残された気分だった、以前ならそのような状況なんて無かったからかもしれないが。

 これが彼氏彼女の関係なのか、僕には分からなかった。

 僕は自宅がある駅とは反対側のホームから電車に乗車した。

 摩天楼とは名ばかりのビル街を通り過ぎ、轟音を鳴り響かせながら電車は橋を渡っていく。

 いつもとは違う風景、春咲は僕との待ち合わせ場所に向かうときに何を考えているのだろう。

 ふと窓の外の光景を見ているといつの間にか春咲の最寄り駅に着いていた。


「ここからバスに乗るのか……」



 駅から降りた僕は紙切れに書かれていたバスの時刻表を確認し、大慌てで発車間近の青色のバスへと乗車する。

 僕の最寄り駅や学校付近の繁華街と比べると喧噪が少なくて、とても居心地がいいな。

 バスに揺られながら僕は自分と春咲との共通点を考えていた。

 初めて出会ったとき、春咲は僕と自分は似た者同士だと言っていた。

 その時点では僕は学校の人気者の春咲と日陰者の自分は似た者同士なんかではないと思っていた。

 だが彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()と僕に言っていた。

 以前、春咲にLINEで幸せがわからないと言われたとき僕は答えられなかった。

 人の繋がりを糸として見れる能力を持った人間は人として当たり前な感情が欠けているのかもしれない。

 春咲と彼氏彼女の関係になっても実感がわかなかった、ただ彼女のことはもっと知りたいとは感じた。

 終点のアナウンスが鳴り響き、僕はバスを降りた。

 僕は自分の指に絡まっている幹のように赤い太い糸を見つめる。

 この糸を辿っていけばもしかしたら迷わずに目的地に到着できるかもしれない。

 物は試しと実行してみることにした。



「ここが春咲が住んでいる児童養護施設……」


 GPS機能があるスマホとは違って赤い糸は目的地に近づくとぼんやりと光り、数メートル距離になると光が点滅し始める。

 春咲はこの機能を使って僕の位置を特定したのか……

 僕は児童養護施設を前にして高ぶる気持ちを抑えながら、玄関へと足を踏み入れる。

 中へ入ると一人の高齢の女性のが玄関で待ち構えていた。


「先生から話は聞いていますよ。どうぞ中にお入りください」


 僕は言われた通り、足を踏み入れる。

 廊下ですれ違う子どもたちに見られながら高齢の女性は鏑木と名乗った、ここの施設長らしい。

 応接室へと移動した僕は鏑木さんに座るように促される。

 鏑木さんは一見すると優しそうな表情をしているが、外部から来た僕に対する目は鋭かった。

 まるで僕を見定めているようにも思える。



「えっと……春咲さんの具合は大丈夫ですか?」


 恐る恐る僕は鏑木さんに春咲の容態について聞いた。


「ええ、大丈夫ですよ。昨日よりかは熱は下がってます」



「良かった……元気なら大丈夫ですね」


 僕は鞄から先生から渡された書類を出し、鏑木さんに渡そうとしたが突き返された。


「せっかく来たんですから莉央に会っていきなさい、あの子たった一日学校を休んだだけで寂しがっているんですよ」



「……良いんですか? 外部の人間が勝手に出歩いて」


 鏑木さんは僕を見つめたあと、我が子を慈しむような母親のような表情をした。



「私は沢山の人を見てきましたが、君なら大丈夫でしょう。あの子が気に入る訳もわかります」


 僕は鏑木さんに春咲がいる部屋まで案内をしてもらった。

 最後に彼女はある言葉を言い残し、自分の仕事へと戻っていった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か……」


 可愛らしい文字で春咲と書かれていた。

 扉をノックして、書類を渡して帰る。

 ただそれだけのことなのにさっきから胸の高鳴りが抑えられない。

 ええい、ままよ!

 僕は手の震えを抑えながらノックをする。

 中から返事がない、もう一度ノックをしようとすると今にでも消えてしまいそうな声が中から聞こえてきた。


 扉を開けるとパジャマ姿でベットに横たわっている春咲がいた。

 中にはどうやら小さな先客がいたようだ。

 女の子は自分より背が高い僕を見上げると、しゃがんでとジェスチャーをした。

 僕は言われた通りしゃがむと女の子は小声で耳元に囁く。


「がっこうからお兄ちゃんが来るってわかってからずっとソワソワしてたんだよ」


「え!??」


 顔を真っ赤にしながら春咲は女の子に注意をしていた。

 普段、学校では見られない姿だから新鮮な気持ちになった。

 僕は女の子がニヤニヤしながら扉を閉めていく姿を忘れることはない。

 部屋に沈黙が訪れる。


「具合はどう? 大丈夫」


 沈黙を破るために僕は春咲の体調を聞いた。


「何とかね……案外私は体が弱い女の子だったんだなって実感しちゃったよ」


 僕は先生から渡された書類を渡したあと、春咲と他愛のない話をした。

 昨日のメッセージを無視した件について謝ろうとしたとき、春咲から先にその件について触れてきた。


「ごめんね、あの時色々と弱ってたから変なメッセージ送ってたみたい。……気持ち悪かったでしょ?」


 自虐的に笑う春咲の姿を見て僕は確信をした。

 彼女は寂しがり屋だ、それも度を超えた。


「いやそんなことない、むしろ僕に弱音を吐いてくれたんだと思ったよ」


 春咲は僕から顔を逸らす。

 それに釣られて赤い糸は大きく揺れていく。


「……私ねタケルくんに謝らなければいけないことがあるの。私は今までずっと自分のことを理解してくれる友達を探してた、だけど皆私の才能や顔や体、外面だけを欲するだけで誰も中身なんて知ろうとしてくれなかった。タケルくんと赤い糸に繋がっていても私のことを知ろうとしてくれているのか不安になって、同じクラスの友達にタケルくんを試すようなことをやらせたんだ……酷い女でしょう」


 彼女は僕と同じだったんだ、孤独感を埋めるために人との繋がりを作ったけど誰も自分の中身なんて見ていない。

 僕は誰かが自分のせいで傷つくのが嫌だったから人との繋がりを持たなかった。

 だけど本音としては両者とも全てを分かり合える友達が欲しいということ。



「確かに酷いかもしれない……でも僕らは付き合ってから日がまだ浅い。疑うのも無理がないよ」



「でも私は自分の孤独を埋めたいがために力を利用したんだよ!」



 感情をあらわにした春咲の顔は涙で濡れていた。

 僕と繋がっていた幹のように太い赤い糸に亀裂が走る。

 以前までの僕なら千切れそうな糸を見つけたらその人が感情を暴発する前に糸を切っていた。

 だけど今は……違う。

 受け止めなければいけない。



「僕だって力を利用して千切れそう糸を見つけたら勝手に切っていた。……僕たち似た者だろ? だからこそ僕たちは支え合っていくべきじゃないか?」


 僕は不慣れながら春咲の体を抱いた。

 男の僕より体は細く、すんなりと腕に収まった。

 こういう場合何が正解かはわからないが、僕は彼女に言った。



「これからはいっしょに歩んでいこう、僕はどんなことがあっても君の傍にいるから」




 02





 児童養護施設から帰宅した僕は春咲からの熱いLINEのメッセージに何とか返信をしていた。

 あのあと、僕らはこれからの予定を経てた。

 二日か三日後に僕の家でデートをする。

 彰さんにそのことについて伝えようとしたが、今日は当番の日だということを忘れていた。

 僕は彰さんが作ってくれたご飯を食べようとしたとき、ふと何かが置かれていたことに気づいた。



 「ん? 何で十年前の新聞が置かれているんだ」


 見出しには大きく「無理心中、娘だけ生存」とだけ書かれていた。

 確かこれ……彰さんが担当をした火事だった気がする。

 僕は食事を取ることを忘れて新聞を読むと見慣れた苗字を見つける。


 「……ウソだろ?」


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