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第8話 e

 その日、私は「空振」について調べた。

 

 カクによると、空振は同時に2か所で起こるそうだ。そして、1回だけ、1か所でしか起こらなかった、という例外がある。確か日付は今日の2週間ちょっと前、2027年6月17日だった。その大規模空振の1日前には、神隠しが起こったと聞いた。神隠しにあったのは、大規模空振で犠牲者になるはずであった住民たち。これは本当に偶然なのだろうか?

「カクさん。」

「まだ何か聞きたいことがあったのか?」

「いえ。ここからは自分で調べられそうなので。すみませんが、今日は通信を切らせていただきます。」

 これ以上カクを心配させるのは気が進まない。ここからは自分で調査しないと。

「そうか。明日になったらまた声を聞けるよな?」

「もちろんですよ。」

 少し名残惜しいが、今日は集中して調べないといけない。

 通信装置の電源を落として…と。さて、まずは神隠しのことから調べよう。私は人工知能というものに頼んでみることにした。

「フィヨルドさん、6月16日の新聞を見せてください。」

 夕刊の1面に記事が載っているようだ。

「経堂で2人連絡取れず 神隠しか」

「東京都世田谷区経堂に住む柴田健也(36)、田中早苗(64)が今日、行方不明となった。近隣の住民によると、行方不明者を最後に見たのは6月15日の夜11時。翌7時に回覧板を渡しに隣人が訪問した時には、すでに誰もいなかったという。2人とは今も連絡がとれない。現場には争ったような跡もなく、捜査は難航している。」

 夜11時から朝7時までの間。その間に何かがあった。では、神隠しにあった人たちはどうなったのだろう。

「6月16日以降で、神隠しに関する新聞記事はありますか。」

「該当するものが複数あります。」

 居間の机に、3種類の記事が表示されている。まずは一番最初の記事から見ることにした。

 

 神隠しにあった2人 突如現れる

 16日に行方不明となった男女2名が、昨日突如として元いた場所に現れた。彼らは行方不明になっていた間の記憶がなく、警察は市民からの情報提供を呼び掛けている。


 日付は6月24日、とある。つまり16日から23日までの8日間、彼らは神隠しにあっていた、ということだ。次の記事にはなんと書いてあるのだろう。


 神隠しにあった2人にインタビュー!第一弾 柴田さん

 今日のインタビュー企画では、先日神隠しにあったということで世間を騒がせている、柴田健也さん(36)にお話を伺いました。

 -先日神隠しに遭われたとのことですが、その時何をされていたのですか?

 居間でテレビを見ていたんです。お笑い番組です。あるコンビが出てきてひとしきり笑った後、次のコンビが出てくるのを待っていると、急にテレビが消えたんです。

 -消えた?

 はい。テレビが跡形もなく消えたんです。それからいつの間にか自分が更地にいることに気が付いて、周りには警備服を着た人が立っていました。その人も驚いていましたし、自分も驚きました。

 -つまりそれは、気が付いたら16日から23日になっていた、ということですか?

 周りの人の話を聞く限り、おそらくそうだと思います。何が起こったか、自分が一番よく分かっていないんですよ。

 -なるほど。では神隠しが起こる瞬間、なにかいつもと違うことが起こったりはしませんでしたか?例えばUFOを見たとか…。

 あはは、それはないですよ。ただ音は聞こえましたね。何かが爆発でもしたかのような、バンッ、という音が耳元で聞こえました。

 -そうですか。本日はどうも貴重なお話をありがとうございました。


 次の記事は…ああ、これもインタビュー記事だ。


 神隠しにあった2人にインタビュー!第二弾 田中さん

 今日のインタビュー企画では、先日神隠しにあったということで世間を騒がせている、田中早苗さん(64)にお話を伺いました。

 -先日神隠しに遭われたとのことですが、その時何をされていたのですか?

 その時は猫に買ってきたばかりの餌をやっていまして。その時猫を撫でようとしたら、突然猫が消えてしまったんです。それから自分の家まで消えていることに気が付いて。近くにいた警備員の方と少しお話して、そこで神隠しに遭っていたことを知りました。

 -客観的にみると、猫に餌をやっている途中で田中さんが神隠しに遭い、23日に同じ場所に田中さんがまた現れた、ということになりますね。

 ええ。そういうことになると思います。ただ私は何が何やらで…。

 -困惑されるのも無理はないと思います。ところで、神隠しが起こる瞬間、なにかいつもと違うことが起こったりはしませんでしたか?例えばUFOを見たとか…。

 いやいや、そんなことあるわけないじゃないですか。UFOだなんて。あるとしたら音くらいですよ。ステンレスの流しに熱湯を流した時みたいな、ボンッ、という音がすぐ近くで聞こえました。

 -そうですか。本日はどうも貴重なお話をありがとうございました。


 どちらのお話も似たようなものだ。まとめると、2人がいつも通りの生活をしていると、深夜に突然大きな音が聞こえて、神隠しに遭った。そして、それから約27時間後、大規模空振が起き、2人の家が更地になった。それから数日して、2人は元いた場所に突然現れた。こういうことになる。気になるのは「音」だ。2人とも、特徴的な音を聞いている。おそらく空気が急に押し出されたときに出る音だ。それを2人ともすぐ近くで聞いている。音の発生源は2つあって、2つが同時に音を出した、と考えるのが妥当だろう。2つ…2つが同時に…。もしかして、もしかすると、これは空振なのではないでしょうか!?

 いや、それだけでは、2人が神隠しに遭ったことの理由にはならない。空振が起こると、人が消える。その間を結びつける、何かが必要だ。そもそも、空振とはなんなのだろう?


 その日、私は空振について調べた。散らばった情報をかき集めて得られた情報は、到底真実に近づけるだけのものではなかった。しかし、調べれば調べるほど、これが何か作為的なものであるような気がしてならなかった。もしかしたら自分たちは既に、抗いようのないほど大きな渦の中にいるのではないか…

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