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第12話 夢

 夢を見た。

 空からは朗らかな夏の日差しが降り注ぎ、小鳥の陽気なさえずりが聞こえてくる。視線を落としてみれば東欧の伝統的な街並みが広がり、往来には様々な人たちが緩やかな時間を過ごしている。

 そんな心安らぐ空間の中に、ひときわ目を引くものがある。まるで風の流れに色を付けたような、線状の輝きだ。ベンチで寝転がっていた老人が起き上がり、その輝きを手繰り寄せ、編むような仕草をする。次の瞬間、不思議なことに、その手には先ほどまでなかった薄桃色の美しいアザレアの花があった。

――なんと美しい花なのだろう。

 僕はその花に引き寄せられた。ところがその花に近づくと、その花は忽然と消えてしまった。老人に花はどこへ行ったのかと尋ねると、老人は自分の方を指さした。手元をみると、アザレアの花があった。

 夢はそこで終わってしまった。


 目が覚めると、僕は見知らぬ場所にいた。だが、このような場所に来るということは、コーディリアという方に聞いている。

 保食神というのはどこにいるだろうかと目を凝らしていると、周りが突然明るくなった。

「こんにちは、私は保食神だ。」

 保食神が続けた。

「まずは突然ここに呼んでしまったことを詫びよう。だが決して君たちに危害を加えようとして連れてきたわけじゃあない。私は君たちの願いを叶えに来たんだ。」

 その言葉は嘘にまみれているのだろう。そう思って警戒していると、保食神が近づいてきた。

「おや、君は私のことを信用していないね?仕方ない、ここで私が正真正銘の神様だということを証明してあげよう。」

「では、貴方が保食神、つまり食べ物の神様だというなら、この場で見事な朝食を用意して見せてください。」

 コーディリアという方に言われた通りの台詞を言った。返ってきたのは、やはり彼女の言っていた通りの言葉であった。

「なんだい、そんなことでいいのかい。それなら今すぐ出してやろうではないか。あいにくと器はないから、口を開けて待っていてくれ。」

 保食神が抱き着いてきた。コーディリアが言うには、この時保食神は、魔法で制御できる毒を体に流し込むのだという。だからやるならば今しかない。

 コーディリアからもらった石を砕いた。すると、日本刀が手元に現れた。

「な、なんだ、どういうことだ!?」

 保食神が慌てた。少なくとも自分は魔法の使える世界にいなかったのだ。驚くのも無理はない。今がチャンスだ。僕は保食神をその場で切り捨てた。

「僕はまだあなたになにもされていない。だから、正直を言うとあなたにに恨みもないんです。でも、あなたはやってはならないことをしようとした。」

「いや、私はやるべきことを…したんだ。」

 保食神が咳き込んだ。

「せっかく私が食べ物を与えたってのに、その安寧の上に胡坐をかいて…人類はほとんど発達しなくなってきた。だから…私が試練を与えて、競争と発展へと導こうとしたのに…」

「あなたの言っていることは間違いじゃあない。でもやりすぎなんだ。時代時代に、ちょうどいい競争の度合い、ってものがある。あなたが望んだ競争は、今の人類にはもう必要ないものだったんだよ。」

「そんなことでは…これから先、どんな試練があるかわからないのに…」

「そうなったら、またそれに呼応するように発展していくさ。どんなときでも、無理に競争へと導くのは良くないんだよ。適度な競争でないと。」

「はは…そうか、確かに君の言うとおりだ。君は、そして君にアドバイスをあげた誰かは、確かにこうして私の試練を打ち破った。そういうことだったのか…」

 そういうと保食神は、安らかに眠った。

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