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第3話:空腹の音


 ぐぅ・・・。ぐうぅぅ。一度、二度と腹の音が響くたびに、ごっそりと身体の体力が削られていくように感じた。ぐぅぅぅ。

 今まで食べる物に困らなかった生活の中、急に今日明日食べていくことが出来るのか分からない状況故だろう、空腹を訴える騒音はより一層の空腹感を誘発しているように感じる。


「どうにかして、お金を得ないと。」


 手持ちの日本円も、電波の入らないケータイも、すべてここでは何の用もない。どこかへ一時的にしろ働く手段を得なければならないが、言語が分からなければ職に就くことも出来ない。そして言語を知ろうにも、人に避けられる。


「どうすればいいんだ・・・。」


 大通りから戻る最中にあった小さな飲食店へと入ってみる。木製の看板にはスプーンとフォークのような絵が彫られ、何かの文字が彫られていた。しかし、どの文字も似たような文字を見たことがあっても、同じものを見たことがなかった。


 ドアを開けるとカランカランとドアの上部に付けられた小さな鐘の音が鳴るのは入退店の合図のためか。男性の店員が黒いエプロンを腰に巻いて笑顔で店の奥から出てくるも、俺の姿を一瞥するなりその笑顔の姿を消す。男性の店員は俺の許へとやって来るが、そのまま俺の脇を通りドアノブへ手をかける。来た時と同様良く磨かれた金の鐘が鳴り響き、入退店の合図を鳴らす。そのままドアを開けたままの男性店員は俺を見つめる。


「ここは来る場所ではない・・・か。」


 暗にそう告げているのだろう。男性店員は俺が出ていくまでドアを開け続けるだろう。今回は客としてきたわけではない。俺は男性店員に近づくと、右手を包丁を模した手刀に変えると左手を猫の手にして物を動作をする。


「ここで、働くことは、できないか?物を、切ることが、出来る。皿を、洗うことが、出来る。」


 言語が分からない俺が出来ることはモーションでそれを伝えるだけ。食材を切ることが出来る、食器を洗うことが出来る。掃除をすることが出来る。だから、俺を雇って頂けないか?と。そう、せめてもの気持ちを込めて。

 だが、店員が出した答えは首を振る、だった。そして、店員は鼻をつまむと、目でさっさと行けとでもいうように合図をする。


「失礼しました。」


 俺は男性店員へ一礼すると、そのまま促されるように外へと出る。そして俺の背後から小さな鐘の音が鳴り響きドアがぱたん閉じられる音が聞こえた。

 お店から追い出されるように外の通りへと出た俺はおもむろに灰色のパーカーへと鼻を近づけると、クンとにおいを嗅ぐ。うっすらと鼻を通るのはあの下水道の臭い。


「そうか・・・、流石にこのにおいで飲食店に働かせてくれなんて失礼すぎだな。」


 下水の臭いが染みついて鼻がマヒしてしまったのだろう。服へ鼻を近づかせてようやく気付くことが出来た。これでは食べ物を扱うお店や物を扱うお店に頼みに行くにしても確実に断られることだろう。


 働く方法を探すため歩みを進める中、途中で細い路地裏へと入るような道を見つける。どうやらこの飲食店が連なった通りは一本道ではなく、お店の合間合間に細い道が設けられている様だった。それは店内から出たごみを一時的に置いておくのにちょうどいいのだろう。幾つか袋状の物が細い道の端に置かれている。

 別の通りでは骨董品を売っているのだろう、店先に素人目に見るとただのペンダントのようであったり、小さなナイフのようなものが置かれていた。

 今だ収まらない空腹を紛らそうと骨董屋の店内へと入ってみると、何かの部族が付けていそうな赤や青や白といった色が塗られているお面が置いてあったり、中に何かいるのだろうか小さくかたかたと振るえる黒い箱が赤いひもで縛られて置いてある。そして幸いなことに小さなコインが幾つか置いてあるのを見つける。もしかしたら十円や五十円といった通貨を買い取ってもらえるかもしれない。


 店の奥へと歩みを進めると、奥の方では何かを鑑定しているのだろうか。使い込まれて黒ずんだ木の台で片目眼鏡のモノクルを付けた老人がじっと短剣に刻まれた文字を見ているようだった。


「あの・・・すみません。」


 急に声をかけられたからだろう、びくっと身体を震わせた老人は手元の短剣から目を離し俺へと視線を向ける。そしてイム・・・と呟いた後、店の奥へと入っていく。そして数秒で戻ってきた老人の片手には先ほどまでは持っていなかったホウキが握られていた。老人はそのほうきを持ち上げると、俺へ振り下ろしてきた。


「----!!!----------!!!!!!!。」


 辺りの物に当たっても気にせず、ほうきを力いっぱい振るってくる老人は俺を外へと追い出すと、何事か叫び俺が遠くへ行くのを睨み続けた。鋭い視線を背中に受け、俺は最初に目が覚めた下水道へと歩みを進めた。何か手掛かりがあるのを信じて。


 ふと袖へと鼻を近づけクンと嗅ぐ。あぁ・・・、臭いが飛びそうにない。


「酷い臭いだ・・・。」




近寄るな!!!二度と来るんじゃねぇ!!!!!!!

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