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第1話:気が付くと

ふと書いてみたくなりました。


『ぱぱぁぁぁぁぁぁ!!ぱぱぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 緑の芝生が茶色い地面を覆う。俺の目の前で炎にまかれる女の子が身体を振り乱し奇妙な踊りを踊りながら甲高い悲痛な叫び声をあげる。俺は何度も何度も何度も何度も試すが、女の子に纏わりつくように覆う炎は依然として変化を見せない。



『お前がっ!!お前が娘を見殺しにしたんだ!!!お前のせいでっ!!お前のせいで!お前がちゃんとしていれば!!!』


 陽が落ち辺りが暗闇で支配されていく中で、電柱に備え付けられた電灯の明かりがその辺りを僅かに照らす。薄明るい光で照らされた白髪交じりの男性が顔を怒りで歪ませ俺を睨む。



『よかった…』


 白い壁で覆われた部屋の中で窓から吹き込む風がカーテンを揺らす。そこで全身ケロイド状に赤くただれ、皮膚が隆起した女性はそう安堵するように言葉を漏らした。俺はこれでよかったのか分からない。





 


 うぅ・・・、と呻きながら目をゆっくりと開けた。ぼやける視界の中で、しかしまだ薄暗い視界が明るくなることはない。地面に着いた手からはざらざらと砂利が皮膚を擦る感覚と、その下の固い地面なのか床なのか分からない感触。


 だんだんと薄暗い空間に慣れてきた目は正面の幾つもの長方形が積み重ねられた壁に目を向け、そして左右に顔を向ける。右側は光源となり得るものがないのか更なる暗闇が奥を支配していた。左側は半円状に光が差し込まれ、ここが半円状の洞窟かトンネル状であるのだとようやくわかった。


「それにしても酷い臭いだ。」


 目が覚めてから鼻を刺激する異臭はなんなのか。どぶのような、腐った水のような、糞のような、そんな匂いがここら一帯を埋め尽くしている。どこから発生している臭いなのか、鼻がねじ曲がりそうだ。


 寄りかかっていたレンガ状の壁に手をつきながら身を起こすと、ずっ・・・、ズッ・・・と足を擦りながらゆっくりと光が差し込むほうへと歩みを進めた。


 ここはどこなんだ。どうしてこんなとこにいるんだ。どうして・・・、俺は尽きることのない疑問を解決すべくあと数歩となった距離を詰めるべく僅かに歩調を速めた。



「うっ・・・」


 暗がりで慣れた目が急激な光の変化に視界を白く靄だたせる。僅かに感じる風が身体の前面を撫で、後ろへと通り抜けていく。そして視界を支配していた白い靄が薄れていくと俺が想像していた光景とはおおきくかけ離れていた。


 天高くそびえるビル群は姿を隠し、いつの時代かレンガ造りの二階建て三階建ての建物が隣通しに立ち並ぶ。近くにあった階段を恐る恐ると昇っていくと、軽自動車が2台すれ違える程度の道路がのびていた。その道路を利用するものは排気ガスを撒き散らす金属の車ではなく、馬糞を撒き散らすエコで空気を汚さない馬車が通っている。その道路の脇の歩道には人々が歩いているが、すぐに目につくのが金や銀、赤や濃紺といった様々な髪色を各々好きな髪形にしていることか。いつから日本はファンシーな色を許容する国になったのか。まるでこの一帯で、もしくはこの国で黒髪が撲滅されたような光景だ。一人として黒髪の人影が見られない。

 

 後ろを振り返ると、そこは淀んだ水が流れる下水道だった。ゴミ、人糞、腐敗物、思いついた汚い物を投げ入れて出来たのが眼下で出来上がっている淀んだ水なのだろう。ぷかぷかと何かが浮かぶさまは、嘔吐を引き起こしそうな光景を作り出している。


「なんだここは・・・」


 そう言いざるを得ない。まるで時代が逆行したような。しかも日本人自体が存在しなかったような。そんな光景を俺は見ていたのだ。


「いつの間に外国に来ていたんだ・・・。」


 誰かの仕業で日本から連れてこられたと考えた方が妥当か・・・。ドイツか、フランスか、イタリアか・・・。あまり外国については詳しくない、しかしどの国でも自動車は導入されて久しいはずだ。こんな時代遅れというような乗り物を公共の道路で使うとは考えられない。


 ここはどこか・・・、それだけでも分かれば日本の大使館に掛け合ってどうにかなるかもしれない。


「すみません」


 ハローか、ボンジュールかグーテンタークか、挨拶が何かなどまず何処の国なのか分からない今選択の余地などないだろう。歩道を歩いていた男性に後ろから声をかけると恰幅の良い男性は振り返り、そして俺を見た後にぎょっと目を見開いた後足早に去っていった。その時に小さく何事か呟いていたがうまく聞き取れなかった。ちょっと!!という声をあげるが、その者はまるで関りを持ちたくないかのように去っていった。


「なんて言ってた・・・?イヌ?イニ?」


 何語だったか声も小さかったし短すぎて上手く聞き取れなかった。「あの・・・。」、と今度は目の前を足早に歩いて行った女性に話しかける。


 だが、今度は振り返ってもくれずに去っていった。そして何度も、何度も、何度も道行く人に声をかけるも無視して歩き去るか振り返っても俺を見た後に走り去るかの二つだった。だが、最初の男性が何を言っていたは分かった。どの人も「イム」そう俺を見た後に呟いて去っていったのだ。


「イム、イム、イム・・・、何を意味して・・・。」


 答えの出ない問題を前にどうにもならないと、空を見上げると俺は大きく目を見開いた。青い空、白い雲、赤い太陽、うっすら見える二つの月。


「月がふ…たつ・・・。」


 いつから月が二つになった。いつから人々はそれを平然と受け入れるようになった。いつから・・・、いつから・・・、いつから・・・。


「日本はどこだ・・・。俺は何処にいる・・・。」


 俺は月を眺めてそう呟いた。

 


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