【第一話】鉄屑(ゴミ)に愛された男の終着点
巨大なプレス機が、重低音とともに唸りを上げている。俺、佐藤にとって、このスクラップ工場は決して「不快な場所」ではなかった。むしろ、世間から「社会不適合者(社不)」というラベルを貼られた俺を、唯一受け入れてくれる安息の地だった。
「サトウ! また手を止めて何を見てるんだ! 効率を考えろと言っただろうが!」
上司の怒号が飛ぶ。俺の手の中にあったのは、廃棄予定の重機から外された、ひどく錆びついた一本のボルトだ。
周囲の連中には、これはただの鉄屑に見えるらしい。だが、俺にはわかる。このボルトはまだ死んでいない。表面の錆を落とし、油を差し、適切な場所に締め直せば、もう一度命が宿る。
「……もったいないですよ。これ、まだ使えるのに」
俺の言葉は、工場の騒音にかき消された。効率、生産性、使い捨て。そんな現代社会の論理に馴染めない俺は、やっぱり「ゴミ屋」がお似合いなのだろう。
事故が起きたのは、その直後だった。
老朽化したクレーンのワイヤーが悲鳴を上げ、数トンはあろうかという鉄の塊が俺の真上から降ってきた。
逃げる時間はあったはずだ。だが、俺の足が動かなかったのは、その鉄塊の山の中に、まだ動くはずの「古いエンジン」が混ざっているのが見えたからだ。
(ああ、最悪だ。死ぬ時まで、俺はゴミのことばかり考えてる……)
視界が真っ暗になり、全身を凄まじい衝撃が襲った。
――次に目を開けた時、そこは工場の天井ではなく、灰色の空だった。
鼻を突くのは、オイルの臭いではない。血と、錆と、ひどく古い魔力の残り香。
視界いっぱいに広がっていたのは、地平線の先まで続く「鉄の墓場」だった。
折れた巨大な剣、ひび割れた漆黒の鎧、そして主を失って半壊した魔導兵器の残骸が、小山のように積み重なっている。
普通の人間なら、この光景に絶望するだろう。ここはかつての数万の命が散った、呪われた戦場跡なのだから。
だが、俺は違った。
「なんだこれ……宝の山じゃないか……」
震える手で、足元に転がっていた「折れた聖剣」の破片を拾い上げる。
その瞬間、脳内に無機質な声が響いた。
《固有スキル【万物再利用】が覚醒しました。対象の『素材』を検知します》
目の前のガラクタたちが、青白く光り輝いて見えた。
現代で「捨てられた」俺が、異世界の「捨てられた歴史」と出会った瞬間だった。




