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第二章 真実 その22 「青年vs虎 決着」

 宙を舞いながら、光の弾を連射させるディア。

 その視界と耳に、赤い閃光と轟音が届いた。


「お、終わったか」


 そう言って口の端を吊り上げる彼女は、そのまま何もないはずの空間を蹴り、校舎の屋上へと飛び移った。




 赤い閃光が瞬くその数分前。


 虎と青年はお互いにひたすら攻撃を繰り出し続けていた。


 スピードを上回るのは青年の方、しかし実体のある虎の姿から自由に、実体のない炎の姿へと変化できる緑色の虎はものの見事に青年の一撃一撃を躱していた。


(ちくしょう、上手く攻撃がはいらねぇ......どうする?)


 このままではジリ貧の状況。いくら謎の力に目覚めたとはいえ、いつまでも決定機を決められなければこちらの体力が尽きるだけ。


 しかし、青年の顔に悲観したような色は浮かんでいなかった。


 何故なら自分の攻撃が通用しなかったとしても、彼には()()()()()があったから。


 彼は戦闘を始める前の、赤髪と女性との会話を思い出す。


「ほいお前、これをもってけ‼」


 赤い膜の外に出ようとした青年に赤髪の女性が何かを差し出す。


 それは赤いというより赤黒くなった、見るも禍々しい光の塊であった。


「な、何これ?」


 青年はその禍々しい塊に訝し気な目線を送る。


「これは私の力をぎゅっと高密度に固めたものだ。あの獣は、そもそもがおそらく実体のない力の集合体。もしかしたらお前の出せる力の放出量じゃ、攻撃は与えられかもしれないし、実体のない奴との戦い方なんてお前知らないだろ。だから、もし奴に対する攻撃手段がないってなった時のために一応持っとけ、ほれ」


 そう言って女性はその塊を無理やり青年の胸元に押し込んだ。


 赤黒い塊がスゥ―ッと胸元に吸い込まれていく。


「グエッ、何これ気持ち悪!」


 青年はまるで体内に直接異物を放り込まれたような不快感に陥った。


 胸元の中で何やらギュルギュルと恐ろしい力の塊が渦巻いている。


「もしもの時はそれを取り出して奴の体内に放り投げろ、そしたらそれが奴への止めになる。一発だけなんだから外すなよ~」


 胸元を抑える青年に対して、片目を閉じて笑いながら言ってくる女性に青年はその時虎に抱いていた怒りを一部女性に向けそうになった。


(問題はどのタイミングでこの塊を放出させるか)


 青年は悩んだ。

 最強からもらった一撃、信頼度は絶大。

 しかし、どれほどの威力なのかは分からない。

 万が一でも一撃しかない攻撃手段を外すわけにはいかない。


 相手を逃がさず、確実にこの一撃の餌食にするにはどうすればよいのか。


 青年は相手をしっかりと観察しながら、思考を回し、動き回り、向こうからの攻撃を回避し続けた。


 女性が言っていた敵を倒すまでの制限時間は約15分、考える時間はそこまで残されていなかった。


(もうこれしかないか......)


 青年は覚悟を決めた。


 唯一思いついた確実に相手に攻撃を喰らわせる方法。


 躊躇している時間ももちろんなかった。


 青年は逃げ続けていた動きを一度止め、迫りくる虎を正面から見据えた。


 緑色に光る眼光と目が合う。


 動きを止めた青年に対し、チャンスだと捉え、虎はその大きな前足を振りかざす。


(まずは右足‼)


 上から振り落とされる前右足をギリギリのタイミングで躱す。


 そしてカウンター。

 青年は自らの手を赤く光らせ、振り下ろされた右前足に拳をふるった。


 虎は右前足の実体化を解き、炎へと変える


(熱ッ‼)


 炎と化した前右足に拳をふるった所で、炎が揺らぐだけで手ごたえは全くない。

 逆にこちらの拳が高熱で焼かれそうになる。


 前右足だった場所を突っ切り、空振りに終わった青年に対して今度は前左足を振り上げ追撃してくる。


(次に左足‼)


 これも振り落とされる寸前のギリギリで躱し、同じくカウンターを仕掛ける。


 左前足も炎に変わり、このカウンターも空振りに終わる。


 再び拳が焼けただけであった。


(だけどッ‼ここまで予想通り、そして次は‼)


 2度目の空振りをきっした青年に向かい虎は大きく口を開ける。


 その口にはどデカい火の玉が形成されていた。


(それを!待っていたんだよー‼)


 青年は火の玉が形成されるのを見た瞬間、地面を飛び上がり、なんとその虎の口に目掛けて勢いよく突っ込んだ。


 口に形成されていた火の玉を抜け、その喉奥へ入り込む。


 巨大な虎の口は人一人分入るのには余裕の大きさであった。


 青年はここまでの敵の動きを全て読んでいた。


 敵の行動にはパターンがある。


 前右足、前左足の実体化を解いたとき、決まって次の攻撃は口から吐く火の玉攻撃。


 この戦闘の中で幾度も繰り返されていたその攻撃方法に青年は狙いをつけた。


 奴の体内に自分の身体を突っ込ませる。


 これが青年が考えた確実な方法だった。


 しかしそれは炎の塊へとダイブするのと同義であり、全身が灼熱へと包まれる。


 ほとんど捨て身に近い攻撃だった。


(熱ッッッッチーーーーーーーーーーー)


 全身の肌が焼けただれる感触と強烈な鋭い痛みに耐える。


 虎の体内は全てが緑色の炎で形成されていた。


 高温の熱に包まれ、視界が炎に包まれて機能しなくなる。


(よしッここなら‼)


 青年は自らの胸に手をかざす。


「ウッ、うォオえ‼」


 嘔吐くと同時に全身に力を入れ、体の中の異物を押し出した。


 すると、胸にかざした掌に周りとは違う熱を感じ、それを思いっきり自分の前と突き出し掲げた。


 ドガァァァァァァン


 物凄い衝撃波と共に全身を覆っていた熱がなくなっていく。


 機能しなくなった視界にそれでも赤い閃光が映り込んだ。


 覆っていた熱がなくなると同時に吹き飛ばされる身体。


 気づけば身体に触れられる感触は地面の土の感触に変わっていた。




 その瞬間を柔道着の少女と赤ジャージの教師は赤い膜の内側から見ていた。


 虎の口の中へと飛び込んでいった青年。


 外野から見れば虎に飲み込まれてしまったかのような光景に、2人は顔面蒼白になった。


「う、嘘だろ、神......崎?」


 沈黙に赤ジャージの教師の声が響く。


 しかしその沈黙も長くは続かなかった。


「グゥゥゥゥウウウウウウ......」


 下を向き唸り始める虎。


 その胴体が赤く光りはじめた。


「ググゥ......グガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」


 ドガァァァァァァン


 突如、虎の胴体が弾け、赤い閃光が瞬く。


 膜で覆われている二人も咄嗟に両腕でその目を覆った。


 腕と腕の間からうっすらと覗く。


 そこには赤い閃光にその身を呑まれていく虎の姿が映った。


 緑色に光っていたその全身が段々と赤色に染まりその原型を崩していく。


 虎の形が完全に崩れ、ただの実体のない炎に変わった後も赤い輝きは緑色の炎を完全に包み込み、そして瞬く間にどちらとも最終的には消滅した。


 後にその場に残ったのは、所々がひび割れを起こし、何か所も抉れた返ったボロボロの地面に、抉られ破壊され崩れかけた校舎の壁、そして地面に横たわる全身にやけどを負った青年のみだった。




























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