深層圏(ディープ・バイオスフィア)
この作品は科学的主張ではありません。
私はある日、
「なぜ私たちは、生命は地表にしか存在しないと思っているのだろう」
という疑問を抱きました。
もし生命が炭素を利用する存在であるなら、
高圧、高温、原油、鉱物の中にも、
私たちがまだ名前を付けていない生態系があるのかもしれません。
これはその妄想を最後まで追いかけた思考実験です。
自分中でこっちのほうが筋が通る気がしています・・
―地球最後の未発見生態系―
第一幕
死んだ油田
2042年。
世界最大級の油田が閉鎖される。
脱炭素は成功した。
世界は祝福ムードに包まれていた。
しかし閉鎖された油田で異変が起こる。
原因不明の発熱。
地中からの低周波振動。
そして奇妙なことに、
油田周辺の微生物群集が急激に変化する。
主人公は地下生物学者。
誰も注目しないデータに違和感を覚える。
第二幕
地下20キロの生命
深部掘削プロジェクト。
そこで発見される。
生物の痕跡。
しかしDNAではない。
細胞でもない。
鉱物と有機物の中間。
まるで岩石そのものが代謝している。
主人公は震える。
「これは生物なのか?」
第三幕
油田は森だった
解析が進む。
人類は勘違いしていた。
油田は資源ではない。
巨大な生態系だった。
原油は死骸ではなく、
地下生物圏の栄養循環物質。
天然ガスは呼吸。
断層は移動経路。
そして採掘は、
森の木を切るようなものではなく、
海そのものを抜き取る行為だった。
第四幕
移住
地下生態系が崩壊し始める。
しかし彼らは絶滅しない。
移動する。
地下深部から上昇する。
火山帯へ。
海溝へ。
鉱山へ。
彼らは新しい生息地を探していた。
その結果、
世界中で異常現象が起きる。
地震。
ガス噴出。
地磁気異常。
奇妙な鉱物形成。
しかし誰も原因を理解できない。
第五幕
初めての接触
主人公は気付く。
彼らは敵ではない。
ただ生きている。
そして知性すらない。
森林が広がるように。
菌糸が伸びるように。
地球規模で代謝しているだけだった。
クライマックス
地下生命圏の拡大によって
人類文明が脅かされる。
軍は破壊を提案する。
企業は採掘再開を提案する。
しかし主人公は反対する。
「人類は宇宙人を探していた。」
「ずっと足元にいたのに。」
ラスト
人類は初めて認める。
地球は生命の惑星ではない。
生命"だけ"の惑星だった。
地表。
海。
地下。
マントル近傍。
知られていない生命圏が重なり合う世界だった。
私たちは宇宙で孤独ではなかった。
ただ、隣人を見下ろしていただけだった。
あとがき
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
まず最初に書いておきます。
この物語はフィクションです。
作中に登場する地下生命圏も、原油生態系も、地磁気異常との関連も、現在の科学によって確認されたものではありません。
これは私の妄想です。
ある日ふと思いついた、
「もしそうだったら?」
を最後まで追いかけた思考実験です。
私は科学者ではありません。
だからこの作品は何かを証明するために書いたものではありません。
むしろ逆です。
証明できないからこそ想像しました。
私たちは長い間、
生命とは何かを考えてきました。
しかしその答えは、
案外狭い範囲の常識の上に立っているのかもしれません。
酸素が必要。
水が必要。
適温が必要。
太陽が必要。
本当にそうでしょうか。
もし生命が炭素の秩序を維持する現象なのだとしたら。
もし私たちが知らないだけで、
高圧、高温、鉱物、原油の中に、
まったく別の生態系が存在していたら。
そんなことを考えながら、この物語を書きました。
そしてもう一つ。
この作品を書こうと思ったきっかけがあります。
世界は変わりました。
戦争が起きました。
エネルギーの流れが変わりました。
自動車は電動化されました。
石油は減らすべきものとして語られるようになりました。
そのこと自体を否定したいわけではありません。
私は専門家でもありません。
ただ、
ずっと引っかかっている疑問がありました。
かつて人類が大量に消費していたものがある。
その流れが変わった。
では、
その変化はどこへ行ったのだろう。
もちろん現実には、
市場があり、
経済があり、
技術があり、
様々な説明があります。
けれど小説家の悪い癖でしょうか。
私は時々、
誰も見ていない場所を想像してしまいます。
もし地球のどこかで、
私たちの知らない巨大な循環が存在していたら。
もし私たちが、
その循環の一部を理解しないまま利用していたら。
そんな妄想です。
近年、
地磁気移動やポールシフトという言葉を耳にすることがあります。
それらについて私は何も知りません。
専門家ではありませんし、
予言者でもありません。
ただ、
人類は過去にも何度も、
「そんなことは起きない」
と言ったあとで、
その出来事に驚いてきました。
だから私は、
答えよりも疑問を残したいと思いました。
この小説は、
地下生命体の話ではありません。
本当は、
「私たちはどれだけ世界を知っていると思い込んでいるのか」
という話です。
もし数百年後の人類が現代を振り返ったとき、
私たちの常識を見て笑う日が来るなら。
その時、
この物語もまた、
笑い話のひとつになっているでしょう。
それで構いません。
なぜなら、
この作品は真実を書くためではなく、
想像する自由のために書いたのですから。
そして最後に。
もしあなたが今、
空を見上げたり、
海を眺めたり、
足元の地面を踏みしめたりしたとき、
ほんの少しだけ、
「まだ知らない世界があるかもしれない」
と思ってくれたなら、
作者としてこれ以上の喜びはありません。




