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日陰姫の陰謀論  作者: 蜜柑
番外編
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番外編・変身しました。

 お貴族様、私はお貴族様をとても軽く見ていた模様です。毎日、毎日こんなに大変な思いをしていたのですね。私は、これを毎日するより、労働に勤しむ方が向いているようです。


「ユーシェ様、だいぶお疲れでございますね。そのままでしたら少しお眠りになっても大丈夫ですよ」

「そうね…。眠りはしないけれど、このまま少し目を閉じていたいわ」

「もちろんでございます。お化粧はさせていただきますね」

「えぇ、大丈夫よ」


 午前中いっぱい全身マッサージをされたと思ったら、昼食を挟んで顔のマッサージをされ、お茶の時間を挟んでドレスに着替えさせられ、髪を梳かれ結われ、いつもより念入りにお化粧を施されていた。これだけで満身創痍な私は、無作法とは分かっていながら椅子に寄りかかり、ぐったりとしていたのだ。

 もともと体力がある方ではないとは思っていたけれど、まさか着替えて準備をすることがこんなに時間と体力を消耗するものだとは思わず、お貴族様への意識を改め直したところだ。しかも、私はまだ細身なのでコルセットはつけなくてもいいが、普通はコルセットをして締め付ける作業もあると聞き、空いた口が塞がらなくなりかけた。


「私、少し運動したほうがいいんじゃないかしら…」

「今日は突然でしたし、初めてでしたからお時間がかかりましたが、毎回このように大変なわけではありませんよ。下準備をしておけば、時間も短く済みますから」

「そう…かしら…」


 不安でいっぱいな顔でティナを見ると、ただ苦笑していた。

 まだまだ、もっと知っておかなければいけないことはたくさんあるのだなと、改めて思う。いつまでも何も知らない小娘のままではいられないのだから。


「もうおしまいですよ。ユーシェ様が頑張って下さったので、夕食の時間に余裕を持って間に合いました」

「本当?」


 おしまいという言葉に、もたれていた背を起こすと、またティナに笑われてしまった。ようやく終わったというよく分からない達成感と、開放感で、喜びを全面に出してしまったようだ。だってこんなに時間がかかるものだとは思っていなかったのだから、仕方がないと思う。


「お鏡、ご覧になりますか?」

「いいの?」

「もちろんでございます。私達の総力と、ユーシェ様のご協力でどれだけ素敵に変身したのかをご覧いただきたいです」

「私はぐったりしてされるがままになっていただけよ」


 今思い出すと、いくら分からないことばかりだったとはいえ、淑女らしからぬ態度だったと恥ずかしく思う。苦笑いしかできない。

 変身が終わるまでは見てはいけないと、鏡のある場所から遠ざけられていたけれど、ティナが手を差し出してくれたのでそこに手を重ね、ゆっくりと立ち上がって移動した。

 いつもとは違う、足捌きが必要になるしっかりとした晩餐用のドレス。最初だからと、低めにしてもらったヒールのある靴。そして疲労。それを考慮して、ティナはいつもなら必要のない、手を握っての誘導をしてくれている。本当に私にはもったいない程の、素晴らしい侍女だと思う。


「どうぞ」


 姿見の前まで来ると、ティナは手を離して数歩下がった。なんとなく下げていた目線を、ゆっくりと上げて姿見に映った自分を見る。


「え?」


 思わず口を開けたまま固まってしまった。


「これが、私…?」


 姿見に映った人と、私の動かした口が、同じように動く。頬に手を当てれば、姿見の中の人も同じようにそうする。つまり、これは私だ。


「そうでございますよ。間違いなく、ユーシェ様です」

「これ…が…」


 黒目黒髪の、棒っきれまでとは言わないけれど痩せていて、目は大きいけれど特段美人でもなく、可愛らしいというわけでもない。一言で言えば、どこにでもいそうな普通の顔立ち。それが私。だった、はずなのに。


「これが…私…」


 驚きのあまり、同じ言葉しか口から出てこない。


 姿見に映っていたのは、黒目黒髪の、ほっそりとした、けれど痩せすぎてはいない娘で。大きい黒目はアイラインの引き方のせいか、丹念に施されたマッサージのせいか、いつもよりつり目ぎみ。だからと言ってきつい印象はなく、アイシャドウのグラデーションも相まって、少し大人びて見える、スッキリとした目つきだ。

 頬の少し高い位置に乗せられた頬紅と、口元を彩る赤いルージュが、更に美しさを引き立てる。そう、美しい顔立ちの娘がそこにいるのだ。

 濃紺のワンショルダーのドレスは、右肩の傷を綺麗に隠し、裾にかけて広がりすぎないドレープが大人びた印象を与える。ワンショルダーなので左肩は剥き出しのままで、鎖骨が見えてしまっているが、以前より肉付きが良くなってきたためか貧相な感じはない。恥ずかしいという気持ちはあるけれど。胸元から裾にかけての斜めのラインには小粒の宝石がいくつも煌めき、落ち着いた色合いのドレスに華やかさをもたらしていた。

 いつもはおろしたままの髪の毛も結い上げられ、カールされた毛先が左胸の前に垂らされている。

 姿見に映ったその人は、私と全く同じ動きをする。今まで私が見てきた姿とは違うのに、間違いなく私自身であると告げていた。


「お気に召されましたか?」


 私の視線が上から下へと向かい、また上に戻って停止したところで、ティナがにこやかに話しかけてきた。


「えぇ、もちろん、もちろんよ。すごく綺麗で、すごく驚いているわ」

「それはようございました。ユーシェ様は今まで手をかけなかったのがもったいないくらい、お美しいですよ。本当は、お仕えし始めた頃からそう思っていたのですが、ユーシェ様が着飾る事を望みませんでしたから何もできませんでしたが、本当はずっとお姿をお整えしたかったのですよ。それが叶って、本当に嬉しいです」

「ありがとう…。ちょっと…疲れちゃったけど、本当に嬉しいわ。これが私だなんて、嘘みたいよ」

「もったいないお言葉です」


 ティナと、そして手伝ってくれたもう二人の侍女が笑って見せた。


「アレク様も、お気に召して下さるかしら」


 着飾る前よりも、綺麗で、そして大人びて見える。この姿なら、アレク様の隣に立っていても、違和感はもたれないのではないだろうか。

 アレク様に出会う前は、後宮に自分がいるという事自体が悪い事のように思えて、いくら勧められても着飾ろうとは思えなかった。ドレスを着こなす事などできないと思っていたのもあるが、申し訳ないという気持ちが大きかったのだ。そんな身分でもない娘が、こんなところに忍び込んで着飾るなんて、悪い事にしか思えなかった。私に似合うのは、外で着ていたものと同じ、質素なワンピースだと思った。それですら、外で着ていたものより質が良くて、恐れ多かったくらいなのだ。

 でも、アレク様に再会して、共に過ごすようになって、何も言われなかったけれど、今のままではいけないだろうと思った。けれど、どうしていいか分からなかった。こんな風に変わる事ができるなんて、思っていなかったのだ。


「思った以上に変わったな」

「アレク様!」


 姿見に映る自分に夢中になっていると、いつの間にか後ろにアレク様が立っていた。そしてさっきまでそばにいてくれたティナはもういない。一体どれくらいの時間、鏡を見続けていたのだろう。


「あの、その、ティナたちが、頑張ってくれました」


 慌てて振り返り、訪問への感謝の挨拶もできないまま、言葉を紡いだ。


「そうか。ずいぶん綺麗になっていて驚いた」

「綺麗…ですか?」

「あぁ、いつものお前もいいが、こうして着飾ると、また違ったお前を見ることができていい。だが、少し疲れたか?」

「…申し訳ありません。こういうことに慣れていなくて、少し疲れてしまいました」


 アレク様に疲れを感じさせてしまうなんて、良くないことだ。顔に出ていただろうか。


「気にするな。疲れて当たり前だ。それだけ頑張ってくれたのだろう?それに、気怠そうなお前は、それはそれでいい」

「そう…なのですか…?」

「あぁ。さぁユーシェ、疲れているところ悪いが、少し外を歩くぞ。夕飯まではまだ時間がある」

「外ですか?ですが、その、他の方に見られてしまうかもしれません」

「それが目的だ。歩けるか?それとも、抱き上げたほうがいいか?」

「だっ……!歩きます!」


 抱き上げられて移動するなんて、恥ずかしすぎて無理です!







お、終わりませんでした…。

書けば書くほどなぜかどんどん長くなっていくのはなぜなのか…。

断腸の思いで、分断しました。

何故しゃきっとまとめられないんだろうか…。

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